My Hair is Bad、自身の核と向き合い辿り着いた最高純度の『cats』 今、改めてラブソングに注ぎ込んだ剥き出しの生き様

マイヘア、最高純度の『cats』に刻む生き様

 メジャーデビューから10年。「もう一度ラブソングを書きたいと思っているタイミングだった」――このインタビューで、椎木知仁(Gt/Vo)はそう語っている。これは単なる原点回帰だろうか? いや、そうじゃない。自分たちの生き様に対してどこまでも純粋であろうとすること。だから、ここに届けられたMy Hair is Badの7作目のフルアルバム『cats』に収録されたラブソングたちは、ただのロマンティシズムや感傷ではなく、生き延び続けることの痛みを抱えている。アルバムのラストに収録された「闘いは美しい」は圧巻だ。これは命の歌だ。どう生きて、どう終わるのか。ひとつの命による、その覚悟、その意思表明の歌。アルバムにはもう1曲、「summer without flowers」という、終わる命と続いていく現実についての歌がある。これらの楽曲は私たちに、なぜMy Hair is Badは走り続けるのかを痛烈に突きつける。せせこましい目的や打算のためじゃない。生きているから走っている。いつか終わると知っていても、彼らは明日に向かう。

 アルバムにはアレンジャーとして柿澤秀吉(秀吉)や亀田誠治が参加。バンドミュージックを熟知した彼らの素晴らしい手腕によって、今最もピュアで最も新鮮なマイヘアサウンドが生き生きと鳴り響いている。前作『ghosts』はひとつの到達点と言うべき作品だったが、この『cats』で彼らは新たな領域に突入した。素晴らしいアルバムだ。(天野史彬)

柿澤秀吉との挑戦が生んだ“My Hair is Badの純度”と『cats』の真価

――アルバム『cats』、聴かせていただきました。音と言葉の相乗効果によって、1曲1曲からその曲に描かれた濃密なドラマが伝わってくる、改めてMy Hair is Badの表現力の豊かさを感じさせるアルバムだと感じました。完成されて、ご自分たちではどのような手応えを感じていますか?

椎木知仁(以下、椎木):僕個人の話で言うと、アルバムを作り出した時は「ポップなアルバムを作りたい」と思っていたんです。でも作っていくうちに、ポップさよりもMy Hair is Badの純度とか、My Hair is Badの本質とか、そういうものに向かっていく場面が多くなっていって。純度を高めると昔に戻っちゃうかなっていう気持ちもあったんですけど、アレンジャーで入ってくれた(柿澤)秀吉さんや、「愛着」でご一緒した亀田(誠治)さんのおかげもあって、純度を高くしながらちゃんと最新作として聴けるアルバムができた。今はそんな手応えがありますね。

――“My Hair is Badの純度”という言葉はこのアルバムにまさに相応しいと思うんですけど、そこに向かっていった気持ちの変化は、具体的に言うとどんなものだったんですか?

椎木:今回、「もう1度ラブソングを書きたい」と思っているタイミングだった、というのはあって。あと、メジャーデビューして10年、結成からは18年経ったとなると、もうMy Hair is Badのことを客観視できなくなっている自分がいるんですよね。どんなところが自分の魅力で、どんなところが強みだったか、わかっているつもりでいるけど客観視できない状態になっていた。そこをメンバー以外の人……秀吉さんだったり、亀田さんだったり、エンジニアの釆原(史明)さんだったりが入ってくれることで、改めて「椎木くんの強みってここじゃない?」ということを教えてもらえたんです。歌詞の面でも、書き込んだものより、意外と最初に感覚でバッと出した歌詞を捨てないでいいんじゃないか? とか。そういうことを周りの人たちに言ってもらったことで、どんどんと純度が上がっていった。「そうだった、そうだった」と思い出しながら方向が変わっていった感覚でした。

椎木知仁(Gt/Vo)(撮影=渡邉隼/FUJI ROCK FESTIVAL'26)
椎木知仁(Gt/Vo)(撮影=渡邉隼/FUJI ROCK FESTIVAL'26)

――なるほど。山田さん、山本さんは今作の手応えはいかがですか?

山田淳(Dr)(以下、山田):毎回「いいアルバムを作れたな」と思うし、今回もそうなんですけど、ドラムの話で言うと、僕は第一印象で頭に浮かんだフレーズから抜け出せないことがこれまで多かったんですよ。でも、今回はそこに探りを入れるようになった感じがします。いろんなパターンのフレーズを出して、結構考え抜いて作れたかなと。

山本大樹(Ba/Cho)(以下、山本):僕もアルバムを作るたびに進化やチャレンジはちゃんと入れていきたいと思っているんですけど、今回は秀吉さんに入ってもらったこともあって、コード面も新しくなったし、自分だけでは思いつかなかった曲に対してのアイディアを一緒に考えたこともできたし、前回よりも作ることに時間をかけたアルバムになったと思いますね。例えば、今回はドロップDチューニングっていう、4弦をちょっと下げるチューニングをやっていて。そもそも僕らは全部半音下げなんですけど、そこからさらに1音下げることで、今まで聴いたことのないローが出るっていう。「面白くなるな」と思いつつ、僕だけチューニングが変わるんで、正直最初は「ちょっと嫌だなあ」とも思ったんですけど(笑)。

椎木・山田:(笑)。

山本:でも秀吉さんと椎木に「お願いします」と言われて、「はい、やります」と(笑)。結果的に「青いソファの上で」や「闘いは美しい」の低いところで包み込む感じは今まで出せていなかったものだし、面白い変化が生まれたなと思いますね。「蝶々に触れて」でめちゃくちゃなスラップを入れ込んだのも面白かった。再現するのが大変なので、今はツアーに向けた練習でてんてこ舞いなんですけど(笑)。初めて左肩が痛くなってます。

山田:左肩にくるんだ(笑)。トレーニングが足りないんじゃない?

山本:もっと鍛えるか!

山本大樹(Ba/Cho)(撮影=渡邉隼/FUJI ROCK FESTIVAL'26)
山本大樹(Ba/Cho)(撮影=渡邉隼/FUJI ROCK FESTIVAL'26)

――(笑)。今回、大半の楽曲で秀吉さんがアレンジャーとして入っていて、そこはやはりバンドに大きな変化をもたらしていますよね。山田さんは、秀吉さんとのスタジオワークで印象的だったことはありますか?

山田:一番面白かった瞬間は、1曲目の「超やばい猫でごめんね」にストリングスを入れることになった時ですね。この曲、最初は2ビートの曲じゃなかったんですよ。でも、作り込んでいく中で「これ、もしかして2ビートかな?」って椎木に相談して叩いてみたら結構ハマって。そうしたら、秀吉さんがその2ビートを聴いて「これにストリングスが入っていたら面白いんじゃない?」って言い出して(笑)。そんなイメージ僕らにはなかったから、あれは衝撃でしたね。

――結果、最高のアルバム1曲目になっていますよね。今回、レコーディングに秀吉さんを招いたきっかけはどのようなものだったんですか?

椎木:僕は10代の頃からバンドの「秀吉」のことも知っていたし、対バンしたこともあるんですけど、同じ3ピースで、それであの情景が描けて、あの歌が歌える、本当に“ギターロックの達人”というイメージがあったんですよね。今は秀吉さんもいろんなバンドをプロデュースしたり、アレンジをされたりしていますけど、共通の知り合いを通じてたまに会うこともあって。そこで話しても、秀吉さんって「もっとこうしたら売れるよ」って言ってくるタイプじゃないんです。「マイヘアの強みはこっちだよ」と言ってくれる人だなってずっと思っていて。今回、「ダイヤモンド」というバラードを書いた時、「もっと自分の想像を超える、この曲のためのアレンジがある気がする」と思ったのもあって、まずは「ダイヤモンド」を一緒にやれないかな? とお願いしたところから始まったんです。そこからどんどん秀吉さんがいることで心強くなっていったんですよね。人柄的にも空気をよくしてくれるし、メンバーとも距離が近づいていったし、じゃあ、このアルバムは全部一緒にやりたいなって。

――ここまで全面的にレコーディングにもうひとりの方が参加するというのは、My Hair is Badにとって大きな変化であり、挑戦ですよね。

椎木:そうですね。前作の『ghosts』を作った時、自分たちでできる3ピースはもうやり切ったくらいの気持ちでいたんです。なので、新しい方向に進みたいという気持ちはずっとあって。今回アルバムが完成して、その挑戦は間違いなくいい方向に行ったなと思います。

山田淳(Dr)(撮影=渡邉隼/FUJI ROCK FESTIVAL'26)
山田淳(Dr)(撮影=渡邉隼/FUJI ROCK FESTIVAL'26)

――「ダイヤモンド」は、秀吉さんが入る前と入った後ではどのくらいの変化があったんですか?

椎木:曲の流れや根本になるテーマは変わっていないんですけど、この曲の主人公の「君がダイヤモンドなんだ。自分にとっての宝石なんだ」という思いを表現するためのコードのアレンジなんかはもの凄く変わりました。最初は今まで僕が作ってきたバラードのコード進行だったんですけど、凄く豊かになったと思う。「ダイヤモンド」が完成して、その流れでRADWIMPSのトリビュート(『Dear Jubilee -RADWIMPS TRIBUTE-』)の「いいんですか」のレコーディングに入ったんです。「いいんですか」は3人だけのアレンジだったけど、「ダイヤモンド」での秀吉さんとの作業がいい力になったなと思っていて。あと、「ダイヤモンド」は歌詞も秀吉さんと凄く話し合いましたね。1番のサビの〈僕にとってずっと君がダイヤモンド〉という歌詞は、元々は「君にとって僕がダイヤモンド」だったんですよ。自信満々で完全にムキムキの、自分を疑うことのない、ホストのラスソンみたいな曲だったんです(笑)。

――そうだったんですか(笑)。

椎木:それも僕にとっては自分にまったく嘘をついていない曲だったので、「これだ!」って感じで出したんですけど、秀吉さんが問いかけるように「もっと奥に椎木くんの本当の気持ちがあるんじゃないかな?」って、どんどん引き出してくれて。確かに僕は鎧を着ているのかもしれない、最初の気持ちはどこにあるんだろう? って探していって。それで20案くらい書いたんですよね。結果的に、自分にとって一番正しい気持ちの曲になったと思います。

My Hair is Bad – ダイヤモンド

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