松木美定が語る夜の宅録アルバム『The Night Atelier』 孤独を美しくする音楽、ひとりで作ることの意味

松木美定の音楽には、夜がよく似合う。ジャズを血肉にした鍵盤とコードワーク、しなやかに弾むビート、ふいに景色を塗り替えるギターやトランペット。そして、繊細なのに芯の強い歌声。きらびやかな音の向こうには、ひとりで自分自身を見つめる時間が静かに息づいている。
約3年ぶりとなる2ndアルバム『The Night Atelier』は、そんな松木の“今”を鮮やかに刻んだ9曲入りの作品だ。楽曲制作からミックス、アートワークまで自ら手がけ、M3「牙の輝き」とM7「逆らう羽(The Night Atelier Ver.)」では河村カツキがアグレッシヴなギターを演奏。先行シングル「Late Show (Writer's Cut)」では松木自身のトランペットも響く。そう、松木はもともとはモダンジャズのハードバップへ傾倒したプレイヤー/コンポーザーだったというルーツも見えてきた。
そんな彼が宅録へと立ち返った本作のタイトルを直訳すれば、“夜の作業場”。その名の通り、自宅にこもり、深夜に音を選び、重ね、削りながら生み出されたアルバムである。けれど、閉ざされた印象はない。むしろ、孤独を知っているからこそ誰かへ開かれている。誰にも邪魔されない夜の部屋から、聴き手それぞれの人生へ。傑作ポップアルバムへと仕上がった『The Night Atelier』ができるまでを、松木美定にじっくり聞いた。(ふくりゅう)
宅録の初心へ ひとりの夜から生まれた音
――煌びやかでドリーミーな作品に心を奪われました。完成したアルバム『The Night Atelier』を、どのように受け止めていますか?
松木美定(以下、松木):最初の音選びからミキシングに至るまで、自分の意思を反映させるという、宅録の初心に帰れた印象があります。1stアルバムではミュージシャンを呼んで録音した曲もたくさんありましたし、自分以外の人の手も借りて作りました。だから、その対比として、今度はまた自分だけで全部やってみたいと思ったんです。夜をテーマにしたアルバムというところからも、家や自分の部屋に静かにこもって作る光景をイメージしました。
――松木さんにとって、夜はどんな時間なのでしょう。
松木:外界から隔絶された空間というか。誰の手も及ばないし、誰からの連絡もそんなにこない。自分の中に潜り込めるのが、夜の特別なところだと思います。
――アルバム全体からは夜の静けさと同時に、華やかさや光も感じました。1曲目「魔術師たちの夜」から、そんなポップセンスが開花していますよね。
松木:僕自身、孤独がすごく好きなんです。だから、孤独を寂しいものとして描くのではなく、美しくしたい。華やかとまではいかないけれど、この孤独の時間に花を添えたいという気持ちはありましたね。
「僕はみんなが想像している700倍ぐらいひとり」
――今おっしゃった「孤独の時間に花を添える」。まさに、このアルバムの音像を表す言葉ですね。では、その音楽はどんな人に届いてほしいですか?
松木:僕は自分のためにも音楽を作っていますけど、人が喜んでいるところを見るのがすごく好きなんです。聴いた人に、本当に舞台や映画の主人公みたいになってほしい。その人の人生のBGMになってくれたらいいなと思っています。
――自宅でひとり、すべての音と向き合って作ったものが、聴き手の人生を彩る。そこに松木さんの音楽の核がある気がします。
松木:そうですね。結局、誰かがいてこそなんです。だから多分、世の中に僕ひとりになったら、作曲をやめると思う。聴いてくれる人がいるから作れるんだと思います。
――そもそも松木さんは、なぜ“作ること”に惹かれたのでしょうか。
松木:子どもの頃は身体があまり強くなくて、学校に行けないことも多かったんです。家にいる時間がたくさんあったので、お菓子を作ったり、ベイブレードを自分で作ったりしていました。人が作ったものではなく、自分の手が加わった何かにすごく執着があって。作曲もその一環なんだと思います。
――ジャズを演奏していた時期から、自分の曲を発表するようになったきっかけは?
松木:ジャズミュージシャンとして演奏していた頃は、自分の作曲を表に出すことを恥ずかしいと思っていました。でも、勇気を振り絞って、バンドで演奏したオリジナル曲をSNSに上げたんです。今から考えたら“7いいね”ぐらいだったと思うんですけど、そのときはものすごい数に感じて……健全じゃないかもしれないけれど、そこに自分の存在意義を感じたところがあった。自分が作ったもので、人を感動させられるかもしれないと思い、一気に作曲へ潜り込んでいったんです。
――人に届いたという最初の実感が、今の創作へつながっているのかな。
松木:そうだと思います。音楽以外でも、レザークラフトや料理をします。僕は、みんなが想像している700倍ぐらいひとりでいるんですよ(笑)。人といると、いろいろ考えすぎて疲れてしまう。でも、ひとりでいるからこそできるものづくりを楽しんでいるんだと思います。


















