akikoが謳歌する音楽家としての自由 デビュー25周年、“ジャズシンガー”の葛藤を経て手にした幸福

“ジャズシンガー”という肩書きへの葛藤
ーーアルバム後半に並んでいる「Manual」や「The Transformer」「Real」「What’s Jazz?」などは、エレクトロニック〜クラブミュージック的なテイストもあります。
akiko:「Manual」は、東京ザヴィヌルバッハやDCPRGなどでも知られている坪口昌恭さんに参加してもらっています。坪口さんは、ジャズピアニストとしてももちろん素晴らしいのですが、モジュラーなどシンセもたくさん持っていて、私の中では機械をいじるのがすごく上手な人(笑)。20周年のときから一緒に作品作りをしています。もともとこの曲には、2002年のオリジナル発表時からヒップホップの要素を意識的に入れていました。私自身、デビューした頃はDr. DreやQ-Tip、The Rootsなどを結構聴いていたんですよね。当時からヒップホップとジャズは、全然遠いものではなかった。今回は、その感覚を音色的にも現代的にアップデートした感じです。
それから「The Transformer」や「What’s Jazz?」は、テクノの影響も受けています。さっきのインディーポップの話とも近いんですけど、若い頃はテクノが全然聴けなくて、大人になってから聴き始めたんです。Moritz von Oswaldという、Basic ChannelやRhythm & Soundなどでも知られるドイツ人プロデューサーをすごく尊敬していて、彼の影響でジャーマンテクノやジャーマンダブなどを聴くようになりました。
ーージャーマンテクノやジャーマンダブの、どんなところに魅力を感じますか。
akiko:先日、大好きなKraftwerkを観に行ったときにも思ったことですが、ドイツ人の耳って、日本人のそれとは違うと思うんです。録音機器もオーディオも、ドイツ製のものはすごく質がいいし、クラブなど箱の音響もいい。そういう環境があるから、音に対する感覚がすごく優れているんじゃないかと。テクノという音楽は、音が悪い環境で聴いても、なかなか良さが伝わりにくいんですよね。いい環境で聴いたとき、自分の中で聴き方が変わった感じがありました。
ーー「What’s Jazz?」の歌詞には、〈ジャズはスタイルではなくスピリット〉〈私がジャズだと感じるものを歌う〉という言葉があります。25年を経て、akikoさんにとってのジャズの定義に変化はありますか。
akiko:基本的には変わっていないですね。この曲に書いたことがすべてというか。ただ、この25年でジャズの世界自体はすごく変わったと思います。私がデビューした頃は、「ジャズシンガーなんだから」とか「それはジャズじゃない」といったことをたくさん言われてきました。デビューアルバムのライブも、マネージメントは着席スタイルのライブハウスでやらせたかったようなのですが、私はオールスタンディングの場所でやりたくて、渋谷CLUB QUATTROでやったんです。当時はそれにもブーイングがありました。でも今は、スタンディングのジャズライブも普通にありますよね。
当時は、沖野修也さんのKyoto Jazz MassiveやU.F.O.(United Future Organization)のようなアンダーグラウンドのジャズシーンと、メジャーのジャズシーンもすごく分断されていました。それがここ20年くらいで、だんだん境目がなくなってきた。ジャズの定義ももっと広くなったし、自由に開かれてきているなと思います。
ーーいわゆるJ-POPのようなマーケットとは違う、ある意味ではオルタナティブなフィールドで25年も続けてこられたのは、どうしてだと思いますか。
akiko:まずひとつは、デビューしたときから「ジャズシンガー」という括りに抵抗してきたからだと思います。とにかく、ジャズシーンの中に括られるのが嫌だったんですよ。紹介されるときも「ジャズシンガーのakikoさんです」と言われるので、そのたびに「ジャズシンガーじゃなくて、ただのシンガーにしてください」と言っていました。
私はジャズだけを聴いてきたわけではなく、むしろジャズ以外の音楽のほうをたくさん聴いてきたんです。それなのに、キャリアの最初から「ジャズの名門からデビューした日本人初の女性シンガー」と持ち上げられて。いやいや、私は全然ジャズのことを知らないし、譜面も読めない……という感じだったんです。だから「ジャズ」という言葉にも、その言葉から連想される当時のジャズシーンにも、ジャズシンガーとして紹介されることにも抵抗がありました。
ーーそうだったのですね。
akiko:最初のうちは、「ジャズシンガーたるもの」みたいな固定観念を押し付けられることも多かったんです。でも、須永辰緒さんや福富幸宏さん、小西康陽さんのような先輩たちの力を借りながら、「これもジャズでしょう?」と言ってしまったもの勝ちだなと開き直れるようになっていきました。そこで自分のアイデンティティを確立していって、それからはもっと自由に音楽をできるようになったんです。
『HIT PARADE -LONDON NITEトリビュート-』なんて、全然ジャズじゃないですよね(笑)。Amazonのレビューにも「ほら、全然ジャズじゃない!」みたいなことを書かれて。でも、あるタイミングからジャンルは本当に関係なくなりました。今回のアルバムもそうですけど、別にジャズのアルバムを作ったつもりは全然ないんです。ただ一方で、それは「ジャズシンガーのakiko」という肩書きがあったからこそ、自由にできたことでもあると思うんですよね。
ーーなるほど。
akiko:あと、25年間続けてこられたのは、私自身が売れ線を考えていないからじゃないですかね。「今これがブームだから」とか、「この人たちとやったら話題になるから」みたいなことを、周りに言わせないというか。言っても多分聞かないから、だんだん誰も言わなくなっていったんだと思いますけど(笑)。
Verve時代に、当時ユニバーサル ミュージックの社長だった石坂敬一さんにとても可愛がっていただいていたんですけど、石坂さんがああした方がいい、こうした方がいい、と言うのに私が言うことを聞かないものだから、最終的には「君は売れる気がないからなぁ」と半ば呆れられていました(笑)。
ーーあははは。
akiko:結局のところ、自分が赴くままに、やりたいことを、やりたい人と、やりたいタイミングでできることが、私にとっての幸せだと思うんですよね。自分のことを表現するとしたら、一応、都合よく「ジャズシンガーのakikoです」と言うこともありますけど、「シンガー」というのもしっくりこない。「アーティスト」という肩書きが一番自分に合っている気がします。なぜかというと、ひとつ作品を作るときに、「これ、別に歌じゃなくてもいいな」と思うこともあるんですよ。もっと視野を広げると、「別に音楽じゃなくてもいいじゃん」と思うときすらあって。
それでファッションとのコラボレーションがあったり、ウェルネスに関することや自分が感じていることをシェアする場を作ったり、文章を書いたりしているんでしょうね。音楽だけのコラボレーションに限らず、異業種とのコラボレーションのほうが面白いと思うこともある。多分、自分の個性ってそういうことなんだろうなと思います。
ーーどうやったら売れるのかを考えるあまり、自分が本当にやりたいことを見失ってしまうアーティストも少なくないと思います。akikoさんの場合は、自分の興味や感覚に正直に活動してきたことが、結果的に長く続けられた理由にもなっているのでしょうか。
akiko:どうなんでしょうね。でも、自分のやりたくないことを無理矢理やらされていたら、私は途中で嫌になって辞めちゃってたかもしれないですね。そもそも私は、デビューしたいとか有名になりたいと思っていたわけではなくて、気づいたらデビューしてしまった、という感覚がすごくありました。もちろん、「こういうステージに立ちたい」とか、「武道館やドームで歌えるアーティストになりたい」という目標を持って頑張っている人たちも素晴らしいと思います。でも私は、そういうタイプではなかったし、どの在り方が正しいとか間違ってるとかではない。人それぞれ、いろんなタイプがいていいんだと思います。
ーー最後に、このアルバムはどんなふうに聴いてほしいですか?
akiko:昔は、アルバム全体の流れやカラー、統一感のようなものが求められる時代だったと思うんです。でも今は、一曲単位で聴くこともできますし、自分でプレイリストを作って楽しめる時代ですよね。もちろん、全部通して聴いてもらえたらうれしいです。でも、そうじゃなくても、その日の気分に合わせて「今日はこういう感じ」と選んでもらえたらいいかなと思います。
■リリース情報

Digital Album『Revisited!』
URL:https://akiko.lnk.to/revisited
公式サイト:https://www.akiko-jazz.com/
公式Instagram:https://www.instagram.com/akikojazz/
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