【鼎談】花譜×Aqu3ra×中村紬、かつてないアルバム制作での刺激 合理性に絡め取られない物語=『深愛』に至るまで

Aqu3raの思考と小説が深くリンクして生まれた「エコーノイズ」
――そんな中村さんの小説から、冒頭のシーンに応じて作られた楽曲がAqu3raさんの作詞・作曲・編曲による「エコーノイズ」です。今回の企画のお話を聞いた際、Aqu3raさんはまずどんなことを思われましたか?
Aqu3ra:実は最初にご連絡いただいた時、僕の制作スケジュールがなかなか厳しくて、受けられないかもしれないとお伝えしたんですよ。でも「ちょっとだけでも読んでみてください」と内容についても重ねてメールをいただいて、少しだけ読んだんです。メールが届いたのがお風呂に入ってる時で、そのまま浴室で読み始めたんですけど、それがすごく刺さってしまって。偶然その日、朝方までAI関連の情報をすごい調べてたタイミングだったんですよね。今、内閣府がムーンショット目標やサイバネティックスというものをすごく推進していて。要は今後、人々はバーチャル空間で豊かに暮らそう、と。それが2050年までの目標みたいで、その時にはみんな身体能力や認知能力、知能も拡張できる状況らしいんですよね。その世界観がまさにこの小説のような感じで。正直、現代の人々から見たらかなりぶっ飛んでる内容で、僕はどう考えても今の方がいいと思うし、たぶんみんなもそう思う気がするんですけど……今いろんなものがAIに置き換わっている状況を考えると、もう抗えないものなのかなって。
そんなことを考えていた日の夜に連絡をいただいて、すごく運命めいたものを感じたんです。気づけばだいぶ読み進めていたせいか、お風呂でちょっとのぼせちゃったんですけど(笑)、その時にもう、ピアノのイントロを思いついてましたね。そこからAメロぐらいまで思いついて、「メモしなきゃ。いやでもスケジュールちょっとキツいんだよな……どうしよう……」みたいな(笑)。結局、メモしたら「これは完成させないわけにはいかないなあ」と。僕ももともと花譜さんと作品を作ってみたい気持ちがありましたし、花譜さんのリスナーさんが好む音楽と自分の音楽の親和性もあるような気がしていて。そんな諸々を冷静に考えた結果、「ここまでいろいろ揃ってたら、もうやれってことだな」と思って、最終的に話をお受けしました。

――今のAqu3raさんの葛藤にも、まさに物語の主題とリンクする部分がありますよね。それこそ合理性で判断すれば、「スケジュール厳しいから無理です」で終わりだと思うんです。でも運命めいたタイミングや、勝手に楽曲ができ始めて「やるか」となった。
Aqu3ra:なんか引っ張られましたね、すっごい。今思い出してもそう感じます。引力というか。
――そうなると、楽曲の完成にもあまり苦労しなかったんでしょうか。
Aqu3ra:確か「曲思いつきました」って返信して、「じゃあ1回会議しましょう」となりまして。その会議までに、ラフな感じでしたけどBメロあたりまではできてましたね。ちゃんと組み立てていく中では、音の近未来な雰囲気や起承転結っぽさを少し意識しました。最初のピアノの音にノイズがどんどん混じっていくようなエフェクトを入れて、純粋なものが吸収されてしまう危うさを表現したり。Aメロは物語とのリンクに加えて、多くの人が普遍的に抱える悩みを反映した〈誰だって自分が、主人公の世界で/生きているはずだよね?〉という問いかけで始まるんですけど。自分が自分の人生を生きていない気がする時があると思うんです、みんな。忙しさに潰されそうだったり、自分ではどうにもできない力に流されそうになったり、社会に深く参加すればするほど、そういうタイミングってあると思っていて。そんな感覚を共通項としながら、まず聴いてくれる人に曲単体でコミュニケーションを取るような雰囲気から始めたかったんです。なので、最初のパートについては、花譜さんにもメッセージを送りまして。
花譜:冒頭の歌い方のイメージを伝えてもらったのを覚えてますね。
Aqu3ra:お部屋で一人で……。
花譜:うずくまる、じゃないですけど。
Aqu3ra:そうですそうです。オケがシリアスめに始まるので、そんなイメージで歌ってほしいとオーダーしたら、見事に体現してくださって。静かさはありつつも存在感があって、聴き手に問いかける感じというか。そこからBメロでは大都市やビル群の世界観、あとは疾走感を思わせる音で、一気に展開がバンっと変わって。サビは精神世界と境界が混じるような感情の爆発、内にあるものが表出するイメージで、起承転結も意識しつつ、小説の該当の章から感じたものを起点に作っていきました。ただ同時に、この曲はアルバムの実質的な1曲目なので、小説全体の空気感・テーマも僕なりに解釈して盛り込みたくて。合理性にどんどん個人が吸収されそうになる中から帰還する、みたいな。そういう要素も意識しつつ仕上げた記憶がありますね。
――なるほど。花譜さんは楽曲を実際に聴いた際、どんなことを思われましたか?
花譜:Aqu3raさんがおっしゃっていた起承転結というか、展開や世界観にすごく引き込まれる曲だなと感じました。最初の不安げな雰囲気から一気にBメロ〈ハイウェイで抜ける高層群〉のところで世界ができ上がって、加速しつつ進んでいくというか。最後は自分のちっぽけな力じゃどうにもできない運命の中でも踊ってみよう、自分らしくいこう、みたいな前を向けるメッセージになっていて。すごく温かい曲で、通りすがりに聴いた人も引き込むような力がある曲だと思いましたね。
――歌唱の際はどんなことを意識されましたか。
花譜:冒頭は先ほどお話ししたことに気を配りつつ、あとは「全体を通して自然に歌ってほしい」というお言葉もいただいていて。結構思うがまま、感じたままに歌わせていただいた印象です。



















