【鼎談】花譜×Aqu3ra×中村紬、かつてないアルバム制作での刺激 合理性に絡め取られない物語=『深愛』に至るまで

「自分のものとして楽しんだり、そばに置く作品にしてほしい」(花譜)
――Aqu3raさんは、実際に花譜さんが歌われた楽曲を聴いてみていかがでしたか。
Aqu3ra:僕の中でも花譜さんの歌がある程度どうなるか想像はしていたんですが、それを超えてきたなってまず思いました。すごくセンセーショナルで、だけど綺麗で。花譜さんの持つスタイルを存分に活かして歌ってほしいと思ってたんですけど、特にサビの部分は僕がイメージしていた、爆発力のあるパンチの利いたサビにバッチリなっていて。最後の〈あぁ〉って音を伸ばすあたりとか、「もうまさにそれ!」って感じでしたね。
花譜:ありがとうございます。よかった~。
Aqu3ra:今回ミキシングエンジニアをお願いした“たいやき”さんには、全体的にディレイをかけて、声を目立たせるようなテクニックを使ってもらったんです。もともとの録音データもすごくよかったんですが、ミックスを経ての完成度もめちゃめちゃいい感じになったなって大満足でしたね。
楽曲自体のオケもかなり情報量が多くて、声が音に埋もれちゃう可能性も全然あったんですけど、「私はここにいる」という存在感が突き抜けてくる感じがすごくあって。一方で、時として水と油になることもあるんですけど、きちんとオケと声が溶け合ってるんですよ。花譜さんの表現者としての立場がそうさせてるのかな。主人公としての役割を強く全うされているというか。歌のリズム感、グルーヴ感にも花譜さんらしさを感じて、その点もすごく好きでしたね。最高な音源になって幸せです。
花譜:こちらこそ、素敵な曲を歌わせていただけて本当に嬉しいです。
――中村さんは「エコーノイズ」を聴いてみて、いかがでしたか。
中村:本当に素晴らしいの一言でした。少しだけ話が企画の根本に戻るんですが、最初にPIEDPIPERさんと企画の相談をした際、1話1曲のコンセプトで13~15曲を作るという話も決まっていて。主人公が全員違う物語にする形式もあったんですが、せっかくなら一つのテーマで貫かれた深いお話、長編的な物語にしたいと思ったんです。いわゆる連作短編というジャンルですね。それぞれの話は一応独立もしているけど、舞台やテーマ、世界観は繋がっているという。
その中でPIEDPIPERさんからは、「アルバム前半にあまり暗い曲は入れたくない」「物語後半のクライマックスの章に盛り上がる曲を」「中盤はバラードがいい」みたいなご要望もあったので、当然それを意識しながらお話を組み立てなければいけないので、物語制作上は制約が結構多かったんです。「エコーノイズ」に該当する章は後半の盛り上がりを考えると、どうしても暗いお話や閉じこもりがちな主人公のお話にならざるを得なかったんです。なので「申し訳ないな」と思いつつ小説を提出したんですが、Aqu3raさんの楽曲は見事にそのバランスを取ってくださっていて。まさに想像を遥かに超える作品でした。私の希望していた暗めの要素も内包されつつ、爆発力があり透明感もあって煌びやかで、物語の内容に合った歌詞も巧みに落とし込まれていて。物語の冒頭として、その雰囲気をバシッとキメてくださった花譜さんの歌唱も、聴いた瞬間ただただ感謝だなって思いました。
――そんな「エコーノイズ」をはじめ、『深愛』収録楽曲は今年3月に開催された『花譜 5th ONE-MAN LIVE「宿声 / 深愛」』にて、一足早くお披露目されています。アルバムとライブの連動性についてはいかがでしたか。
花譜:私のライブでは、後半に新曲ラッシュを持ってくるセットリストがよくあるんですけど、今回は単なる曲のお披露目にとどまらず、演出も小説の内容とリンクするようなものになっていましたね。踏切が出てきたり、歌詞ではない謎の言葉がスクリーンに投影されていたり。「これは何?」という謎がありつつも、めちゃくちゃかっこいいみたいな。それがアルバムと小説を通して、改めて「ああ、これってこのシーンのことだったんだ」って気づけるという。ライブで聴いた時とはまた違うイメージで曲を聴けたり、ライブ映像を観返せたりするんじゃないかと思います。『深愛』はそんなユニークな体験ができるプロジェクトになったんじゃないでしょうか。もちろん、アルバムはアルバム、小説は小説でそれぞれ独立して楽しめますし、ライブも含めた複数のコンテンツを一緒に楽しむことで、視点が増えたり、世界が広がっていったり。決まった正解はない分、みんながそれぞれのやり方で作品を楽しんでいるのもすごく伝わってきます。
中村:私の頭の中で想像し、執筆した物語がこうしてアルバムという形で聴けるようになって、根は同じものがこれだけ違う表現になる体験も非常にユニークでしたし、やはり両方を楽しむことで世界観の理解や解像度がより深まるんじゃないかと思います。小説を執筆した身としては、ここまでクリエイターの皆さんがしっかり物語に沿った世界観・歌詞をそれぞれの感性で作っていただけたこと自体が、奇跡的な体験だったなと改めて実感しています。
Aqu3ra:アルバムでは、当然それぞれの作家さんの違った視点で物語を元にした曲を楽しめるわけですが、不思議とその空気感には統一感があって、アルバムを通して聴くことですごく心地いい感覚になるんです。小説もそれぞれの章の時間軸が独立していてユニークに展開していくので、たまにふと一部だけを掻い摘むように読むのも面白くて。音楽を聴きつつ、「この曲の物語ってどんな内容だったっけ?」って小説を読み返すのもいいですよね。そういう楽しみ方ができることも、シンプルに面白いなあと思います。あと僕としては、このプロジェクトが何かに迷った時にアイデアやインスピレーションをくれるような、優しい光のような存在だと思っていて。でも、まずはぜひ気軽に今作を楽しんでほしいです。
――コンテンツ同士の連動性も間違いなく今回のユニークな楽しみ方ですし、昨今ではアルバムを順番通りに通して聴くという楽しみ方も希薄になりつつありますが、その点でも“意義”がある作品なのではないでしょうか。
花譜:今回のアルバムにはいろんな連動性があって、全体を見るとすごく広い世界になります。ですが私の一番の願いは、皆さんがそれを自分の世界に引き寄せて、自分のものとして楽しんだり支えにしたり、そばに置く作品にしてほしいなということで。今後も音楽をはじめ、クリエイティビティ全体を楽しんでいただけたら私もとても嬉しいですし、このプロジェクトに関わってくださった皆さんもきっと嬉しいんじゃないかなって思います。

◾️リリース情報
花譜
5thアルバム『深愛』発売中
(PHENOMENON RECORD / avex trax)
特設サイト:https://kaf.kamitsubaki.jp/transcendent-love/
Streaming/Download:https://kaf81.lnk.to/shinai
・α Special Box:17,600円(税込)*初回生産限定盤
・α:6,100円(税込)*初回生産限定盤
・β:6,100円(税込)*初回生産限定盤
・通常盤CD:3,300円(税込)
<収録楽曲>
1. 愛を探しに(Instrumental)
2. エコーノイズ
3. 明滅
4. 乳白の宇宙
5. 愛想
6. 学園戦線
7. そばにいていいよ
8. 君は水、私は魚
9. 私の在処
10. コネクト
11. 周波数0の合言葉
12. エラーソング
13. ありふれてたい
14. オーギュメント
15. 私の名前は(Instrumental)

◾️小説情報
『カミュの歌鳥 花譜小説集』
著者:中村紬
定価:1,870円(税込)
発売中:https://www.kadokawa.co.jp/product/322511000292/
◾️ライブ情報
『花譜 5th ONE-MAN LIVE「宿声 / 深愛(巡)」』
日程:9月6日(日)
会場:パシフィコ横浜 国立大ホール
詳細:https://r10.to/kaf

























