歌声分析 Vol.10:ゴスペラーズ 5人のメインボーカルが織りなす共鳴の極致 進化し続ける“声”を徹底解剖
歌声分析
アーティストの魅力を語るうえで、楽曲だけでなく“歌声”そのものに宿る個性にフォーカスする連載「歌声分析」。声をひとつの“楽器”として捉え、音楽表現にどのような輪郭を与えているのかを掘り下げていく本連載では、技術的な視点からさまざまなアーティストの歌声を紐解いていく。
連載第10回目となる今回は、ゴスペラーズを取り上げたい。
日本のポップスシーンにおいて、ゴスペラーズは唯一無二の存在だ。1994年にメジャーデビューして以降、ボーカルグループとして確固たる地位を築きながら、R&Bやソウルなどを軸に、ポップスや歌謡曲など多様な音楽要素を取り込み続けてきた。その中で、ルーパーを取り入れたり、PenthouseやSARUKANIら新進気鋭のアーティストとのコラボレーションも積極的に行ったりと、“アカペラ”というスタイルの可能性を広げ続けている。さらに特筆すべきは、これまで四度の全都道府県ツアーを実現している点だ。2025年にはメジャーデビュー30周年を記念したアニバーサリーツアー『ゴスペラーズ坂ツアー2025 “G30”』を開催し、全国51公演を完走。30年以上にわたりライブを活動の軸に据え続けてきたグループでもある。
日本のポップス史を振り返ると、コーラスグループは幾多も存在してきたが、メンバー全員がメインボーカルのグループは極めて稀である。ボーカルグループとしてのゴスペラーズの特異性は、全員が前に立てる歌声と実力を備えているところにある。しかも、5人の声質は驚くほど異なる。また、メンバー全員が作詞曲を手掛けることも、グループとして飛躍を重ねられる要因だろう。他アーティストへの提供曲も多く、最近ではSnow Manのアルバム『音故知新』(2025年)に、北山陽一、酒井雄二、村上てつや提供の楽曲「約束は君と」が収録され話題となった。
本稿では、5人の歌声の魅力について、楽曲をピックアップしながら分析していきたい。
黒沢 薫
黒沢 薫の魅力は、質量のある高音と圧倒的なハイトーンである。ゴスペラーズの知名度を一気に一般層にまで広めた楽曲「永遠に」(2000年)では、〈会いたくて会えない夜〉というフレーズ以降、高音が続いた後、転調してさらなる高音域に達する。このハイトーンの上をいくハイトーンは、ゴスペラーズというグループが世に浸透する際、最初のシンボルになった。強く張り上げるだけでなく、安定感と密度を兼ね備え、輪郭に少し襞をつけるように発声する黒沢のハイトーンは、楽曲のスケール感を一気に押し広げる無二の力を持っている。
ただ、近年の黒沢は、高音をパワフルに響かせるだけでなく、ニュアンスをもって歌うようなアプローチも見せる。たとえば、ミディアムチューンのシティポップ「Summer Breeze」(2023年)では〈蒼天よ、魔法をかけて 祈りを叫んでしまうんだ〉の“よ”、“て”、“だ”の母音を短く切るように発音している。リズムを重視した軽やかなこのアプローチが、曲のシティポップ感をより鮮明にしている。
村上てつや
次にリーダーの村上。ゴスペラーズの代表曲「ひとり」(2001年)は、アカペラ楽曲として初めて「オリコン週間シングルランキング」のTOP3に入った曲だ(※1/オリコン調べ)。さらに、R&B文脈での男性ファルセットをポップスのメインボーカルとして成立させてヒットに導いた功績は、音楽シーンにおいても大きな意味を持つ。冒頭の〈「愛してる」って最近 言わなくなったのは〉では、村上はよく通る地声をコントロールして聴かせていく。母音を発声したあとにニュアンスを変化させていく処理も巧みだ。後半で出てくる〈前に〉と綴られた歌詞を、実際は「前に 前に 前に」とシルキーなファルセットで繰り返して歌うことで、グルーヴや感情の高まりを言葉の意味よりも前景化しているのも、R&B的なボーカル感覚を押し出したアプローチだ。
「GOSWING」(2016年)は、歌い出しの中低音域を村上が担当している。ここで村上は母音にアクセントをつけながらも、あまり長く伸ばさず、リズム重視で次の言葉へ滑らかに繋いでいる。サビでメンバーのマイクリレーが登場する同曲で、冒頭から自分の個性を全開にはしない。ここにリーダーとしてのバランス感と、村上の楽曲に対する解像度の高さが表れている。
酒井雄二
酒井は、クリアな声質、柔らかい発音が持ち味。ヒューマンビートボックスも担当する。歌声の温度は少しクールで、湿度も一定だ。だが、曲によってはかなりソウルフルなアプローチを見せることもある。自身が作詞曲を手掛けた「1, 2, 3 for 5」(2009年)は、曲調、リズム、言葉の運び、そして5人のダンスもソウルマナーのど真ん中の1曲。酒井抜群のリズム感で、サビ前の〈じわり 心の温度 上がる このサウンド!〉というフレーズの冒頭の“じ”を少し丸みを帯びた発音にし、言葉の中に余白を作っている。続くサビの〈1, 2, 3, 4, 5で 届けるぜ お前に oh〉では、子音のアタックを強めに出し、タイトルにもある数字をリズミカルに際立たせている。
「いろは 2010」(2010年)は、もともとアカペラ曲だったが、ビッグバンドの高速ジャズにリアレンジされた1曲。このグルーヴを牽引するのが、酒井のボーカルだ。早口言葉のようなフレーズが連続する展開で、歌うだけでも相当困難だと思うのだが、酒井はアタックで言葉を粒立たせると同時に、スウィングするような発音で歌声のグルーヴの軸を担っている。高速テンポの中、ユニゾンも登場する本曲は、メンバー全員の呼吸が極限まで揃わないと成り立たないが、リリース以降、ライブで頻繁にセットリストに組み込まれてきた人気曲でもある。5人の阿吽の呼吸が年々精度を増し、楽曲を進化させ続けている。























