バッド・バニー初来日公演を完全レポート 地元を愛してやまない世界の友人が証明した、“音楽は言葉の壁を超える”ということ

「Yonaguni」約5年の月日を経て日本で初披露、この日最大のハイライトに
一人、ステージに残ったバッド・バニーは、スペイン語と英語を織り交ぜながら、次のように語った。
「This is so funny because I don't know how to speak to you, if Spanish, English, Japanese… But it's crazy cause I'm here. Y aunque no sé qué idioma utilizar para hablarles… This show is a proof that music has no language. Also love, love has no language.
Estamos todos esta noche aquí porque nos gusta y conectamos a través de la música, porque amamos lo que hacemos.
(おかしいよね、だってみんなに何語で話せばいいかわからないから。スペイン語か、英語か、それとも日本語か……。でも、僕がここにいるっていう事実こそが、何よりも最高にクレイジーなんだ。このショーこそが、音楽には言語の壁なんてないっていう証拠。それから愛も。愛に言語は関係ない。
今夜、僕たちがここにいるのは、音楽を愛し、音楽を通じて繋がり、そのことに誇りを持っているからなんだ)」
「音楽は言葉の壁を超える」。これまでの人生で何度も聞いたフレーズだが、実際に地元の言葉=スペイン語で歌うことにこだわり続け、やがて誰もが認めるほどの成功を手にしたバッド・バニーが語るその言葉は明らかに説得力が違う。ハーフタイムショーの感想を見てみると、「何を言っているのかは一言も分からなかった。だけど、ものすごく心を動かされた」という主旨の言葉が数多く並んでいる。もちろん、「実際には何を言っているんだろう」と考え、学ぶことは重要だが、そこにある言葉を超えたエネルギーこそが、何よりも人々を動かしたのだ。


だからこそ、バッド・バニーが「あえて」日本語を使う時、そこには計り知れないほどの尊敬の想いが込められているのは、言うまでもない。
「Esta canción es muy especial para mí. Y cuando la hice, jamás imaginé cantarla aquí, en Japón, con ustedes.
(この曲は僕にとって、とても特別な曲なんだ。この曲を作ったとき、まさかここで、日本で、みんなと一緒に歌うことになるなんて想像もしていなかった)」
さまざまな名場面が生まれた今回の来日公演だが、最大のハイライトを挙げるのであれば、当時、日本語のリリックが大きな話題となった「Yonaguni」(2021年)が、リリースから約5年の年月を経て、ついにこの日本で披露されたことだろう。MCからも分かるように本人にとっても相当に思い入れがあったようで、セットチェンジ前、通常のライブであれば本編ラストの位置に相当する重要なポジションに配置されていた。
桜を想起させるピンクの照明に照らされたバッド・バニーが切なく歌いあげる〈今日はセックスしたい/でもあなたとだけ/どこにいますか?〉。正直、日本人的な価値観では相当に赤裸々なフレーズで、字面だけを見れば今でもそう思う。だが、その歌声と眼差しは胸を打つほどに真摯なもので、あまりにも美しいメロディと、余韻を引き立たせる譜割りも相まって、この上なく切ない光景が目の前に広がっていく。それは、まさに「侘び寂び」と形容したくなるような、美しいものだった(慎ましいか?という点はここでは置いておこう)。そんな彼の気持ちに応えるように、観客もこの日一番の大合唱で、感謝の想いを伝えていた。







バッド・バニーが熱心に活動を続ける理由が詰まった地元バンドを従えたセット
ここまではクラブの熱狂をそのまま届けるかのようなセットでフロアを沸かせ続けたバッド・バニーだが、ライブが終盤を迎えると、最新作の制作にも深く関わり、ハーフタイムショーやワールドツアーにも帯同しているLos Sobrinos(プエルトリコ出身の若手ミュージシャンで構成された大所帯のバンド)と、Los Pleneros de la Cresta(2013年、当時の大学生同士で結成された同じくプエルトリコ出身のプレナバンド。ちなみにプレナはプエルトリコの伝統的な音楽だ)とともに、生楽器によるパフォーマンスを披露した。
モダンなレゲトンの原曲を伝統的なサルサにアレンジした「Callaita」で幕を明けたこのセクションでは、先程までのスピーカーを揺さぶるようなサウンドから一転して、軽やかな音色のトランペット/トロンボーンや、ギロやボンゴの心地いいリズム、見事なコーラスワークが表情豊かに鳴り響き、瞬く間に会場全体にポジティブなムードが広がっていく。プエルトリコの次世代を担うミュージシャンたちの素晴らしい演奏を前に、観客も導かれるように自由に踊り歌い始め、まるで太陽の下で音楽を楽しんでいるかのような充足した感覚が全身を満たしていく。





「Esta es una de las canciones que se están celebrando en la noche de hoy. Una de las canciones que tiene... millones, un billón... muchos números.
Pero no son números, sino personas con las que he conectado a través de todos estos años con mi música. Entonces... por eso estamos aquí con ustedes.
(次の曲は、今夜お祝いする曲(Billions Club)の一つで、数百万、10億…、とにかく、膨大な数字を誇っている。
だけど、それは実際には数字じゃなくて、僕が長年かけて音楽を通じて繋がってきた人々なんだ。それこそが、僕が今夜ここに来た理由なんだよ)」
その言葉とともに披露されたのは、なんと2018年にドレイクとリリースした「MIA」のバンド編成によるサルサバージョン。自身の名義で初の全米チャートTOP10入りを果たした同楽曲は、当時のラテンポップブームの勢いも追い風となって、現在の世界的なブレイクの足がかりとなった記念碑的な存在だ。そんな「MIA」が、原曲のマイナー調の妖艶なムードから一転して、この日は開放感に満ちた祝福の歌としてどこまでも広がっていく。
興味深いのは、本来であれば原曲のクラブユースなスタイルの方が踊れそうなのに、そこにあるエネルギーはむしろ何倍にも膨れ上がっていて、むしろダンスが止まらないということだ。きっと、これこそが、バッド・バニーが熱心に活動を続ける理由なのだろう。その熱量をたっぷりと引き継いで披露された「BAILE INoLVIDABLE」と「NUEVAYoL」ではひと際大きな歓声が上がり、キャリア史上最も自身のルーツを投影して制作された『Debí Tirar Más Fotos』がいかに世界中の人々を魅了したのかを鮮やかに示していた。





























