King Gnu 井口理、観る者を惹きつける理由 音楽・演技の両面に通ずるユーモラスで多彩な表現を紐解く
ミュージシャンとしてだけではなく、近年、俳優としての存在感も高まっているKing Gnuの井口理(Vo/Key)。2025年12月に東京で始まった主演舞台『キャッシュ・オン・デリバリー』も好評を集め、1月の大阪公演も大盛況で幕を閉じた。
学生時代にも演じた『キャッシュ・オン・デリバリー』で別の役に挑戦
『キャッシュ・オン・デリバリー』の原作は、映画『アイデンティティー』(2003年)などの脚本家としても知られるマイケル・クーニーの代表的な戯曲だ。架空の間借り人を何人もでっちあげ、社会保障手当を不正受給して生活するエリック・スワンと、彼の身辺を洗おうとする社会保障省の調査員のジェンキンズ、そしてその騒動に巻き込まれる本物の間借り人であるノーマン・バセットたちのやりとりを描くシチュエーションコメディである。日本でも過去には小田島恒志による再翻訳のもと、引き続き演出を手掛けている小貫流星らによって上演されており、今回が決定版と銘打たれている。
井口は学生時代にミュージカルサークルで、小貫とともに同作を上演したという(※1)。今回、井口はエリックを演じているが、学生当時はノーマン役だったそう。嘘に嘘を重ねて自らその状況に踊らされるエリックも、騒動に巻き込まれるノーマンも、いずれも滑稽さが求められる役どころ。そのため、幅広い多彩な演技表現が必要だ。
King Gnuで見せる演技的なアプローチとユーモア溢れるキャラクター性
井口はこれまで、King Gnuにおいても、その表現にユーモアや奇抜さを交え、見る者を引き込んできた。たとえば、2020年1月に公開された「Teenager Forever」のMVは、大金を配られたメンバーがやりたいことを自由にやるというストーリーの中で、井口はフィリピン旅行で羽目を外してしまい、追いかけてくる女性からタンクトップ&短パン姿でストリートをひたすら疾走。その姿が話題になった。また、2020年6月放送の『CDTVライブ!ライブ!』(TBS系)で「Teenager Forever」を披露した時には、曲中にスーツからタンクトップ姿に変身し、楽曲の最後にどんでん返しとも言える展開を見せたことが注目を集めた。いずれも井口のユーモア溢れるキャラクター性と演技的なアプローチが光る立ち回りだったように思う。
個人的に衝撃を受けたのが、2018年に発表された「It's a small world」のMVだ。井口は映像の中で、宇宙人をモチーフにしたキャラクターに扮して、3分46秒の尺の中で独特なダンスと仕草を見せる。しかも驚くべきは、これが長回し撮影だったことだ。筆者はこれまで映像制作のワークショップや演技レッスンの現場に多く立ち会ってきたが、1分間の長回し撮影であっても、その手数が途中で尽きてしまうことは少なくない。そう考えると、鑑賞者をまったく飽きさせない井口の表現のバリエーションの多さは脱帽である。しかも撮影中は、想定外の風が吹いたり、逃げていく設定だった猫が動かなかったりと、思いがけない出来事と向き合いながら進んでいったという(※2)。これらのエピソードからも、普段からライブのステージに立っている井口の瞬発力と勘、そして演技表現のバリエーションの多さが感じられる。
井口は、映画『ひとりぼっちじゃない』(2023年)出演時のインタビューで、想定外のことが起きても「NO」と言わず、できるだけ「YES」と受け入れて芝居を進めることを演技レッスンで教わったのだと明かした。井口は「この考え方は何においても言える」としたうえで、「ライブで歌詞が飛んだりとか機材の音が出なくなったりした時にそれすらも楽しめて表現にできたら、逆にプラスにできる」(※3)と語っている。インタビュー記事と「It's a small world」のMVの制作年が異なるものの、表現においてライブ感と対応力を大切にしてきたことが分かる。
映画、ドラマ、歌唱に通底する多彩な表現力
あえて自分を崩して見せることで関心を引き、笑わせたり、驚かせたりできる部分も井口の天性だ。だが、その一方で、立ち居振る舞いに滲むかっこよさや色気も魅力のひとつだろう。それが最も表れていると感じたのが、映画『劇場』(2020年)だ。井口は才能豊かな劇団主宰者を演じ、登場した瞬間から只者ではない空気を醸し出した。動作は控えめで、台詞中心の演技。それでも佇まいには色気が溢れ出ていた。一方で、同年に放送されたドラマ『MIU404』(TBS系)では、デリバリー配達員の飛田という役を演じ、そのコミカルなキャラクターを見事にまっとうした。抑えた役も、手数の多い役も、どちらの芝居も過不足なく見せられる点で、やはり井口には俳優としての才能を大いに感じる。
演技とは、いろんな人や職業になりきるもの。そのため、演じるキャラクターの設定に近い経験や知識を持っていた方が有利に働く場合も多く、俳優たちは、未経験の職業を演じる場合は撮影前にリサーチや習い事を行うことも多いという。その点で興味深いのが、井口がメジャーデビュー前に、生活費を工面するために“愚痴屋”という仕事をしていたエピソードだ。2020年1月放送の『バズリズム02』(日本テレビ系)で井口は、電車賃を稼ぐために駅前で人の愚痴を聞いていたと話していた。ちなみに、愚痴屋というのは、名字の井口=“いぐち”に引っ掛けているそう。新井和輝(Ba)は「ダンボールに『愚痴屋です』って書いて、立っているだけで」と当時の様子を証言していた。しかし、そうやって他人の話を聞いていた経験も、もしかすると演技をするうえで活かされているのかもしれない。さまざまな経験で得た引き出しの多さこそが、井口の表現におけるバリエーションの豊富さにつながっていると考えられる。
もっとも、それらはすべて音楽の上に成り立っているだろう。井口は歌声やその巧みな歌い方で、楽曲の情景を聴き手にイメージさせる。たとえば、「白日」(2019年)での繊細で美しい歌唱表現を耳にすると、歌詞の世界観がより立体的に感じられる。歌い出しから空気を変え、緊張感を生み、聴き手を引き込む力。それは井口がいかに、優れた音楽表現者であるかを表している。人気ミュージシャンが演技のフィールドでも活躍することは、決して珍しくない。そのなかでも井口は、 ミュージシャンとしての表現力を軸に、俳優としても独自の存在感を確立しつつある。
※1:https://milano-za.jp/news/article?id=49
※2:https://madamefigaro.jp/culture/190925-kaito-satoru.html
※3:https://www.leon.jp/peoples/167812























