HACHI、増していく"歌”の説得力 4thアルバム『Revealia』への序章――初ホールワンマンを観て

HACHI、初ホールワンマンレポ

 12月12日、HACHI初となるホールワンマンライブ『HACHI Live Tour 2025 "Unlockture"』が、カルッツかわさき(川崎市スポーツ・文化総合センター)で開催された。神奈川公演を皮切りに、翌年には台北公演へとつながっていく本ツアー。配信も同時に行われ、会場の熱気がそのまま画面越しにも広がっていくような一夜だった。

HACHI(提供=Kenta Umeda)

 この日のセットリストはアンコール含め全19曲。未発表の新曲が4曲も盛り込まれ、ただの“ツアー初日”にとどまらない特別感があった。2026年2月発売の4thアルバム『Revealia』へ向けた“序章”という位置づけを、曲順の流れそのものがわかりやすく伝えていく。新曲を目玉として並べるのではなく、既発曲と組み合わせながら“今のHACHI”を更新していく——そんな手触りが、ステージ全体に通っていた。

HACHI(提供=Kenta Umeda)

HACHI(提供=Kenta Umeda)

 ステージが暗転し、鍵穴越しに新たな世界を映し出すオープニング映像が流れ、鍵が解き放たれると同時にHACHIが登場。幕開けを担ったのは「To Be Alive」。音の輪郭がはっきりと立つアレンジに対して、HACHIの歌声はその上をしなやかに滑り、サビでは一段上の高さへ迷いなく伸びていく。ホールの残響を味方にしながらも、言葉の子音は潰れず、ピッチの安定感が曲の推進力を底上げしていた。続く「fragment」は、テンポ感を落としながらも感情の濃度を上げる配置で、序盤の勢いを熱へと変換する役割を果たす。さらに初披露の「∞」が放つのは、未知の曲であるはずなのに、すでに観客の身体感覚に触れるような確信だ。音数の多いパートでも言葉が埋もれず、フレーズの末尾がふっと消える瞬間にまで表情が宿る。ホールという空間でこそ際立つ、バーチャルシンガーとしての精度がここで提示された。

HACHI(提供=Kenta Umeda)

 そこからTVアニメ『SHIBUYA♡HACHI』(テレビ東京系)主題歌でもある「Brand New Episode」へ。HACHIが「盛り上がっていきましょう!」と声をかけると、客席の熱がもう一段上がっていく。スクリーンには渋谷の街を歩くアニメーションが映し出され、楽曲の疾走感に合わせて景色が流れていくようだった。軽やかに跳ねるビートに乗ってサビで歌声が大きく開くと、会場の歓声も一気に膨らみ、フロアの一体感がぐっと増していく。

HACHI(提供=Kenta Umeda)

 全編を通じて印象的だったのは、ホールだからといって単純に声を強くするのではなく、細部まで届く歌い方で勝負していたことだ。盛り上げたい場面では声の芯をしっかり立て、繊細なフレーズでは語尾をすっと軽くして余韻を残す。ビブラートも必要以上に揺らさず、言葉がきちんと伝わる範囲でコントロールしていた。映像演出が華やかな場面でも、自然と耳が歌へ引き寄せられるのは、そうした積み重ねがあるからだろう。

HACHI(提供=Kenta Umeda)

 「まなざし」から「いつまでも」へと続く場面では、その歌の丁寧さがいっそう際立った。「いつまでも」では幻想的な緑の光がステージを包み、楽曲のやさしさをそっと後押しする。声量は抑えたままでも、息の置き方や言葉の間合いで、観客との距離をじわりと縮めていくのがHACHIの強みだ。そこから「√64」が始まると、リズムに乗せて声の輪郭もくっきりしていく。しっとり聴かせた余韻を、アップテンポで自然に受け取り直す、その緩急の付け方が、ライブ全体の流れをきれいに整えていた。

HACHI(提供=Kenta Umeda)

 本人も語っていた通り、この日は初披露の曲が多く並んだ。そんな新曲の流れのなかで、観客の参加がはっきり見えたのが「空が待ってる」だ。曲が進むにつれてクラップが自然に広がり、会場のリズムがひとつになっていく。「ビー玉」では水色のペンライトが客席で揺れ、澄んだメロディの質感が、その光の色と重なって見えたのも印象的だった。HACHIは細い旋律をブレずにまっすぐ届け、客席の揺れもそれに寄り添うように整っていく。続く「夏灯篭」は、どこか懐かしさを含んだメロディが会場を満たし、夏の夜の気配をふっと呼び戻すような時間だった。歌声は少しだけ陰を帯び、眩しさだけではない切なさが滲む。その微妙なニュアンスが、曲の情景をより立体的にしていた。

HACHI(提供=Kenta Umeda)

 「万華鏡」では、スクリーンのなかには複数のスクリーンが映し出され、視界いっぱいに模様が広がっていく。本当に万華鏡を覗き込んでいるような感覚になる演出だが、その華やかさがあってもHACHIの歌はブレず、言葉の輪郭がきちんと届いてくる。続く「Rainy proof」では一転して空気が落ち着き、細かなフレーズを丁寧に重ねながら、切なさが滲む。この流れについて、MCでHACHIは「歌いたいと思っていた5曲」と語っていた。つまりこのブロックは、盛り上げのためというより、彼女自身が“今ここで歌いたかった曲”を並べた時間だったのだろう。だからこそ、映像や照明が豊かに動いても、中心にあるのはあくまで歌。演出はその気持ちを支えるように寄り添い、楽曲の世界をよりはっきりと浮かび上がらせていた。

HACHI(提供=Kenta Umeda)

 後半は「Empty Town」のチルでダウナーな質感が、空間の色を一段暗くする。低い温度のまま、しかし沈み切らないところで踏みとどまる歌い回しが巧い。「Deep Sleep Sheep」を経て「異星から」へ向かう流れは、地上からふっと重力が抜けるような感覚を連れてくる。ステージが“どこでもない場所”になるとき、HACHIの声は観客を迷子にさせず、むしろ次の景色へ連れていく導線として機能していた。高音の伸びに頼り切らず、低域の支えで世界観を組み立てられるところに、歌としての説得力がある。

 独白から始まった「Chère amie」は、この夜の感情をぐっと深いところへ連れていく一曲だった。「みんなの心のなかにいる大切な人に送るラブソング」というHACHIの言葉通り、歌は特定の誰かを指すのではなく、聴く側それぞれの記憶や想いにそっと触れていく。息の置き方や語りかけるような歌い回しが丁寧で、会場の広さを忘れるほど近い距離で届いてくるのも印象的だった。後半にかけて声のトーンが少しずつ明るくなり、切なさだけで終わらない温度が残る。

HACHI(提供=Kenta Umeda)

 「次の曲は、今の私の原点です」と紹介され披露されたのは、活動初期に発表された「光の向こうへ」。HACHIは「この曲があったからここまでこられました」と当時を振り返り、感極まった面持ちで歌い始め、「Pale Blue Dot」は、個人的な感情を抱えたまま視界が遠くへ開けていくようなスケールで、本編の締めくくりにふさわしい余韻を残していた。

 アンコールの「Before anyone else」では、〈夜明けが来るまでずっとそばにいるから〉というフレーズが静かに胸に残り、終演後もしばらく、その言葉が頭の片隅で反芻した。新曲と既発曲を綿密に配置したセットリストが、HACHIの現在地とこれからを一本の線として描いた『Unlockture』。映像や照明の演出が豊かに動くなかでも、最後まで揺るがなかったのは、HACHIの歌声の強さだった。2026年2月11日に控える4thアルバム『Revealia』で、この夜の新曲たちがどんな形で完成するのか。そして、ツアーが台北公演へ向かう先で、どんな景色を見せてくれるのか。序章の先を、楽しみに待ちたい。

HACHI(提供=Kenta Umeda)

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