花*花「今がいちばん楽しい」 大ブレイクからの活動休止、自分たちのペースで続けるデビュー25周年

花*花インタビュー「今がいちばん楽しい」

一時は歌いたくなかった“ヒット曲”との向き合い方

こじまいづみ

――そして2003年には所属事務所がSARSによる経営悪化にともない、音楽事業から撤退。突然の活動休止となりました。

おの:突然だったので驚きはあったんですけど、肩の荷が下りたような気持ちもありました。地に足がつくような、ホッとした部分もあったんです。「ちょっと休んでゆっくりできるかもしれない」と思ったことの方が強く残っていますね。

こじま:悲しくはなかったですね。もし「売れたい」という気持ちから音楽を始めていたら辞めてなかったと思います。事務所は音楽事業から撤退しましたが、たとえば移籍するとかで、花*花を止める必要はなかったので。

――ここからはそれぞれソロで活動をしていくことになります。おのさんは、一度音楽から離れたそうですね。

おの:はい。音楽番組も観なかったし、CDも聴かなかったです。音楽から離れることで、自分が本当に音楽が好きなのか確かめたかったんです。小さいときから音楽をやっていたので、これはチャンスかもしれないと。そこで「あ、そんなに好きじゃなかったわ」って思ったら、全然違うことをやっていたと思います。

――その期間はどれくらい続いたんですか?

おの:半年ぐらいでしたね。たまたま「ライブ観に行かない?」って誘われて、久しぶりに音楽を聴きに行ってみたら「なんやこれ、めっちゃ楽しいな」って(笑)。そこで自分の気持ちを確認できたというか。

――そこからは「歌を指導する」という活動も始めました。

おの:もう自分のためにやっていますね。自分にとって当たり前なことが、生徒さんにとっては当たり前じゃないこともあって。どうやったらそれを解消できるのか、自分でも勉強するようになりました。生徒さんができることをひとつでも増やしてあげたい、という気持ちです。小学生の子どもから70代の方までたくさんの方がいらっしゃって、子だくさんです(笑)。

――こじまさんはいかがでしたか?

こじま:車の免許を取りました(笑)。

――めちゃくちゃ“生活”ですね。

こじま:ほかにも友達とあちこちに遊びに行ったり、海外を旅したり。音楽療法の専門学校に行って勉強したり、ソロでライブもしていました。やっぱりインプットをしていたんでしょうね。自分の足で、好きなときに、好きなところに行くことの幸せを噛み締めていました。あとはソロアルバムを作ったり、結婚して子どもを生んだり、誰に言われるでもなく自分のペースで生活を送っていました。

――おふたりにとってのこの時期は、“自分のペース”という言葉がひとつのキーワードになりそうですね。

おの:確かに。“取り戻す”ですよね。

――生活を、取り戻す。

こじま:社会人としての一歩目が特殊な業界だったので、自分の生き方をちゃんと決めておいた方が良かったな、と今となっては思いますね。

おのまきこ

――いよいよ2009年、花*花として活動を再開します。

こじま:デビュー10周年に合わせての再開だったんですが、ライブをしたときにファンのみんなが「おかえり」って拍手で迎えてくれて。こんな好き勝手にしていたのに、待っててくれたことがすごく嬉しかったです。

おの:やっぱりライブの場で初めて「待っててくれた」ということに気づいたんですよ。

こじま:復活してからは、もう自分たちのペースでの歩き方を分かっているので、「これはやりたい」「これはやりたくない」ということを一つひとつ選びながら活動しています。「自分たちを好きでいてくれるお客さんがいる」ということも分かったうえで、プロとしてちゃんと返していく。愛してくださる方のために歌おうって。

おの:やっとアーティストとしてスタートしたような気持ちです。

――ファンの方との関係性にも変化を感じますか?

おの:今では親子3世代でライブに来てくれたりしますからね。

こじま:皆さんが「受け止めてくださっている」ということを、こちらも受け止められるようになったというか。ライブが一方通行じゃない、いい時間になっている気がします。

おの:音楽を通して、対話ができるようになってきましたね。ファンの方の人生のようなものが見えるような瞬間があったりとか。

――今、すごくいい距離感で音楽ができているように見えますね。

こじま:そうですね。今がいちばん楽しいです。

おの:年々、楽しさを更新している感じですね。

こじま:年々、体は大変になっているんですけど(笑)。

花*花 デアゴスティーニでGT-Rを作る。#1

――ちなみに、「あ〜よかった(setagaya-mix)」や「さよなら 大好きな人」といったヒット曲を歌うことばかりを求められるのが嫌になった時期はあったりしましたか?

おの:昔はありましたね。「もっとほかにもいい曲がいっぱいあるのに!」って(笑)。

こじま:もう何周もしたよね。

おの:今では「これ聴きたいんやろ(笑)?」って思いながらも、感謝を込めて歌っています。

こじま:ヒット曲っていうのは、20年経ってやっとその意味が分かるんですよ。

――“生活”が変化しているので、当然歌詞のテーマも25年で変わってきますよね?

おの:変わりますね。40代になったら可愛いラブソングは書けないし(笑)。

こじま:今も昔のエモい曲をやったりするんですけど、自分で作ってるくせに照れながら歌うっていう(笑)。

――それでもファンの方が求めてくれるなら、と。

おの:本当にそうですね。ずっと追いかけ続けてくれている人もいるので、その人たちに向けて「今日は何を歌おうかな」って考えるのが楽しいです。

こじま:最近ライブをしていて思ったことなんですけど、私たちが主役じゃなくていいんですよ。私たちの歌を通して、ファンの方が誰かを思い出したり、自分の人生を振り返ったり、そのためのパイプのような存在になることができれば、花*花は続くんじゃないかなって。

おの:ファンの方と私たちのあいだに音楽があればいいんです。

こじま:そのために“生活”を大事にして、生きていければいいと思いますね。

花*花

――最後に今後の目標を教えてください。

おの:武道館じゃないことは確かです(笑)。でも最近は、自分たちが見えなくてもいいと思っていて。たとえば楽曲提供をしたり、舞台の音楽を作ったり。昨年、校歌(両荘みらい学園)を制作したんですけど、自分たちが歌わない音楽をここ数年作っていて。チャンスがあればどんどんやっていきたいと思っていますね。

――もともと「自分たちが楽しいからやっている」という気持ちだけで活動していたおふたりが、25年経って「ファンの方のために歌う」から、「自分たちが歌わなくてもいい」というマインドにまでなったのはすごい変化ですね。

こじま:ほんまやね。

おの:自分たちがやることの楽しさっていうのは、今も十分に味わえているんです。長くやってきたことで、ファンの人はもちろん、スタッフの人にも楽しんでほしいとか、外に目が向けられるようになってきたんだと思います。

こじま:周りで助けてくれているスタッフ、そして今の活動スタイルをよしとしてくれているファンの方のおかげで続けることができていますからね。これに対して、私たちが返せることは歌しかないので。

おの:おお、かっこええな。

こじま:ここは絶対に書いておいてください(笑)。

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