M!LK、AiScReam……作家・Hayato Yamamotoが語る2025年大ヒット曲の裏側、ロジカルな仕掛けとライブの熱狂

Hayato Yamamoto、ヒット曲の裏側

DECO*27も信頼する“読解力”、ジャンルや想いを深く掘り下げる制作の極意 

――最近は、ボカロPのDECO*27さんの楽曲に共編曲で関わることも多いですよね。以前、自分がDECO*27さんに取材をした際に、Yamamotoさんのことを「やり取りのスピードも速いし、僕の音楽に対する理解度も高いし、音のアイデアをいくつも出してくれる方」(※2)と評していました。

Yamamoto:僕がジャンルをたくさんご提案させていただいているというよりは、そもそもDECO*27さんのビジョンの中にいろんなジャンルが入っているんですよね。DECO*27さんとの制作は、まずミーティングから始まるんですけど、お互いの感性を持ち寄って「このジャンルとこのジャンルを掛け合わせたら面白そう」みたいな話をする中で、一緒に盛り上がれたら、それが絶対正解だと思っていて。しかもDECO*27さんの場合、その作っている曲を発表するのは2年後の予定だったりするんですよ。なので流行りを追うのではなく、そのジャンルをどれだけ深く読み込んで、自分のものとして扱うことができるか、というのが大切なんです。編曲は作曲とほぼニアリーイコールというか、曲が素体だとして「何を着せる?」みたいなレベルで大事なことだと思うので、その音が嘘にならないように、本当の意味でしっかりと取り入れていくイメージで取り組んでいます。

DECO*27 - マシュマロ feat. 初音ミク

――コアな部分を煮詰めていくことで、嘘のない音楽にしていくと。

Yamamoto:はい。もちろんいい嘘と悪い嘘があって、でも音楽を作る時には嘘は必要ないと思うんですよね。あるいは嘘が入ってもいいけど、その嘘が本当になるまで固めていく必要がある。「言ったならやる」みたいな。そこから出来上がった音楽を世の中に広めていくためにはいろんな方法があっていいと思います。

 僕、MUSIC FOR MUSICに入る時に、ちょっと嘘をついていたんですよ。当時、音楽理論のことをよくわかってなかったんですけど、「音楽理論できます!」って言って(笑)。そう言ったからにはやるしかないので、できるようになったっていう。そうやって“やれる自分”を速攻で作るというのは、自分の中のひとつのやり方なのかもしれないです。

――職業作家として“人に届ける音楽を作る”という意味において、意識していることや信念はありますか?

Yamamoto:僕の中では、より多くの人に音楽が届いて、その人たちがその音楽を聴いて喜んでくれるかが重要で、自分の作った曲に共感や共鳴が生まれること自体がすごく楽しいし、それが自分の活力になっているんですよね。僕の作ったものが“アーティスト”という大きな存在を通じて広がっていく時に、自分の言葉をさらに上手くしゃべってくださっているような感覚があって。そうやってたくさんの人に楽曲が届くのを実感したり、ライブで喜んでるのを見るのが、ほかでは得られないくらいの快感なんです。その歌を歌ってくださるご本人も喜んでいて、ファンも喜んでいて、喜んでる人だけの世界を作り続けられる可能性があると考えたら、辞められないですね。

Hayato Yamamoto(撮影=林将平)

――ライブを通じての反応や反響において、ご自身の中で印象に残っている楽曲を挙げるとすれば?

Yamamoto:たくさんありますが、ひとつはさっきライブアイドルとして名前を挙げたNEO JAPONISMに今年書いた「Never fade away」という曲です。NEO JAPONISMは、僕が一緒にバンドを組んでいたSayaというクリエイターが制作陣にいて、自分たちでは叶えられなかった夢を彼女たちに託しているような気持ちで制作に臨んでいるんですけど、「Never fade away」に関しては、1番の歌詞が自分の実体験そのままなんです。別にそういうテーマで書くつもりはなかったけど、歌詞がスラスラと出てきたんですよね。そういう経緯もあったので、ライブでその曲をファンの皆さんが肩を組んで歌っているのを見た時に、ものすごく感動してしまって。ライブアイドルのシーンは一体感が大切だと思うのですが、そういう楽曲を生み出すことができて、自分にありがとうと思った瞬間でした。

 それと、この曲はメンバーの滝沢ひなのさんと共作したのですが、彼女が書いてくれた部分にも、ちゃんとその子の等身大が入っていて、さっきの話じゃないですけど、まったく嘘をついていない曲だと感じたんです。歌っているみんなも共感して自分のこととして歌ってもらえたらという気持ちがあるので、それを叶えた曲かもしれないですね。

NEO JAPONISM「Never fade away」 Music Video

――『ラブライブ!シリーズ』のライブ現場で受けた熱にも繋がりますね

Yamamoto:2023年に『アイドルマスター』シリーズと『ラブライブ!シリーズ』の合同ライブ(『異次元フェス アイドルマスター★♥ラブライブ!歌合戦』)が東京ドームで行われたのですが、そこで『蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』のDOLLCHESTRAというユニットが、岡嶋さんと一緒に書いた「KNOT」という曲を歌ってくれたんです。自分の曲を東京ドームで生で観るのはそれが初めてだった上に、キャストの方が「行くぞ東京ドーム!」みたいな感じ煽ってくれたんですよ。それで『アイマス』が好きな人も『ラブライブ!』が好きな人もみんなドーンと盛り上がって……そりゃあもう、ブチ上がりますよね(笑)。あの瞬間は脳汁がとんでもなかったです。

――『ラブライブ!シリーズ』では、『ラブライブ!サンシャイン!!』のスピンオフ作品となるTVアニメ『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』(TOKYO MXほか)の挿入歌やDVD特典楽曲などにも多数関わっているほか、AqoursのFinale LIVE テーマソング「永久hours」(2024年)の作曲・編曲も担当しています(作曲は岡嶋かな多との共作)。

Yamamoto:「永久hours」は感慨深かったですね。Aqoursさんの楽曲制作に携わるのはこの曲が初めてだったんですよ。それまでコンペに参加しつつご縁がなかった中で、フィナーレライブのテーマソングを書かせていただくことになるとは思ってもみなかったので。やっぱりAqoursというグループがしんみり終わる感じは想像できなかったので、軽やかで華やかなイメージ、みんながちゃんと笑って歌える曲、というのは意識して作りましたね。

Aqours「永久hours」Promotion Video

――また、ライブ向けの楽曲という意味では、YUUKI SANOさんとYUKI(2D)さんとコライトしたSixTONES「アンセム」(2024年)も、現場で大きく盛り上がる曲に育っているみたいですね。

Yamamoto:そうなんです。あの曲もビートとベースから作ったのですが、イントロのベースのフレーズが最初に浮かんだ時点で「勝ったな!」と思いましたね(笑)。あの曲では、ロックのリフ感と今のHOPHOPのトラックを混ぜたミクスチャーロックをやりたくて。両方のジャンルのリフレイン感の合わせ技っぽくできたかなと思っています。やっぱりブチ上がるのが好きなので、この曲もラスサビは倍のテンポにしました(笑)。

SixTONES – アンセム [YouTube ver.]

――ちなみにYamamotoさんは、Itaiさん、岡嶋さん、MEGさんといった事務所のクリエイターとコライトする機会が多いですが、MUSIC FOR MUSIC内でのリレーションシップについてどのように感じていますか?

Yamamoto:別に事務所自体がコライトを推奨しているというわけではないのですが、お互いにシナジーを感じる案件で呼び合う結果、コライトで制作することが多いんです。僕の感覚としては、それぞれが独立して動いている中で、MUSIC FOR MUSICは集会所というか“ギルド”みたいな感じですね。張り紙を見て「あ、俺これ得意だな」と思えば一緒にクエストに臨む、みたいな。うちには今名前を挙げてくださった方々以外にもSoma GendaやTeje、ほかにもいろんなタイプのクリエイターがいるんですけど、「あ、この人のここが欲しいな」と思った時に呼び合うっていう。その輪の中に入れているおかげで今の自分があるので、ここからは恩返しタイムだなって思っています。

――そんな事務所の中で、自分が求められる持ち味についてどのように自認していますか?

Yamamoto:僕はトラックを作ることも、トップラインやメロディを書くことも、作詞も全部できるところが強みだと思います。昔は器用貧乏に感じていて、何かに特化している人を羨ましく思っていたのですが、今は全部のパラメーターを高い水準で保てていると自分でも思うので、たぶんいろんなシチュエーションで使いやすいんだと思います。「何でもやります」っていう人はよくいますけど、結果が伴うほどそれができる人はなかなかいないっていう……もちろん上には上がたくさんいるんですけど、僕もそういった人たちの仲間入りができるように意識してやっています。

――2025年はクリエイターとして躍進した年でもあったと思いますが、この先どのようにキャリアを重ねていきたいか、今後の活動のビジョンについて、最後にお聞かせください。

Yamamoto:おかげさまで、今年は自分の個性が世の中に少しは滲み出たのかなと感じる中で、来年以降はそれをより色濃くしていきたいですし、僕の名前を見ただけで安心したりワクワクしたりする人がたくさんいる世界にしたいんです。「この名前があるならいい作品になりそうだな」と思ってもらえるクリエイターになっていけたらと思っています。個人的には、AIの分野にも興味があるので、年末年始にちょっと触って遊んでみようかなと思っていて。まだまだ人間が書いたほうが面白いものが生まれるのは明白ですけど、補佐的な役割に関しては気になる部分があるし、触らないで何かを言うことはできないので、それこそ音楽の仕事が終わった後の音楽で遊ぶ時間に使ってみようかなと(笑)。

 それと、やっぱり僕はバンドが好きなので、自分がいいなと思ったバンドをプロデュースのような形で支える活動もやってみたいなと思っています。自分からライブハウスに足を運んで、普通に物販でCDを買うところから始めてみたくて。僕自身もバンドをやっていた頃は、音楽をやっている人に自分のCDを買ってもらうのはすごく嬉しかったし、ライブを観て感動できた人と一緒に何かをやりたい気持ちがあるので。そういう根源的な部分は忘れてはいけないと思うんですよね。いろんなアーティストさんとそういうことができればと思います。

Hayato Yamamoto(撮影=林将平)

※1:https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/shingo/2025/
※2:https://realsound.jp/2024/12/post-1863289_2.html

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