DECO*27×佐々木渉、初音ミクに注がれる“パンク”の精神 「10年前にこの曲を発表していたら炎上する」

DECO*27×佐々木渉 特別対談

『TRANSFORM』はとにかく実験だらけ(DECO*27)

ーー今作はサウンド面においても、よりカラフルかつビビッドになった印象があります。あくまでもポップスの範疇にあるけど、尖った部分がたくさんあって。

DECO*27:前作の『MANNEQUIN』が全力のポップスだったので、今回は実験的な部分を盛り込みつつ新しいDECO*27を模索していければと考えていたタイミングで、Disc-1のほぼ全曲の編曲でご一緒しているHayato Yamamotoさんと楽曲提供の案件で出会って。まず僕がフレーズやビートの設計図を作って、それを元に制作を進めていくのですが、そのやり取りのスピードも速いし、僕の音楽に対する理解度も高いし、音のアイデアをいくつも出してくれる方なんです。一緒に作っていて楽しいですし、だんだん僕からも普段は出ないようなアイデアが出るようになって。「ハオ」はDECO*27っぽいメロディと構成ですけど、メロはチャイナポップ風なのに、イントロからハードスタイル、2番はエレクトロスウィングになるし、「モニタリング」はベースハウス、「本命」はダブステップが入っていて……とにかくいろんなジャンルを混ぜ合わせつつポップスとして成立させることを意識して制作しました。

佐々木:きっと、尖った音楽を聴いてみたい人、いままで知らない味わいに触れてみたい人が、動物的な感覚で「これヤバそう!」と近寄ってきますよね。いろんなトラップが仕掛けられていて好奇心を刺激するDECO*27さんの迷路と言いますか。しかも音楽的にテクニカルな部分というよりも、もっと大きな意味での遊びや感覚的なすごさがあって、細かく分析して聴くこともできるけど、とにかく圧の強いミクとDECO*27さんが待ち構えているので、楽曲としての迫力に持っていかれる。実験的でありながら繰り返し聴ける作品だと思います。これぞミクスチャーだなーと。

ーー近年のK-POPでよく取り入れられているビートスイッチの手法に近いノリもあって、それもまたトランスフォームらしさを感じました。

DECO*27:そうなんです。今回はとにかく実験だらけで、ミクの声やサウンド感も変わるので、過去曲の要素もこまめに入れつつ作っていたんですよ。ネタバラシすると、実はアルバムのジャケットに映っている試験管、その1本1本がDisc-1の収録曲に対応していて、ラベルに楽曲タイトルの英訳とその楽曲に含まれている過去のDECO*27楽曲や音楽ジャンルの成分が書かれているんです。例えば緑色のラベリングの試験管は「ハオ」で、過去楽曲は「サラマンダー」、音楽ジャンルはハードスタイルとエレクトロスウィング。いつか見やすい形で公開できればと思っていますが、ファンの方は過去楽曲の要素に気付いてくれるんですよね。

ーーボカロ楽曲は文脈を読み解きながら聴く楽しみもありますが、その意味でも刺さる試みですね。

DECO*27:そう、この情報を踏まえて聴くとまた新しい発見があると思います。「ハオ」を聴いてハードスタイルに目覚めるファンの方もいるかもしれないですし、そういう音楽の出会い方もできるかなと思って、試験管に音楽ジャンルも書いたんですよ。サウンドメイクは毎回楽しんでやっているんですけど、その中でも『TRANSFORM』は群を抜いて楽しかったです。僕が共編曲で入るのは久々だったんですけど、僕が入ると暴れだしてしまうし、音で遊んでしまうんですよね(笑)。

佐々木:DECO*27さんとミクの距離が接近して化学反応が起こっているし、サウンドもいろんなジャンルが接近して化学反応が起こっている感じが強いですよね。

ーーきっとDECO*27さん自身にパンク精神があるんでしょうね。

DECO*27:いやあ、あるんでしょうね。『MANNEQUIN』でポップスを追求したあとのアルバムなので、きっと反骨精神が出てしまったんだと思います。

「砂の惑星」を受けて生まれた「ブループラネット」

ーーせっかくなので、Disc-2の「SINGLE COLLECTION」に収録されている楽曲のうち、佐々木さんが関わったプロジェクトの制作エピソードについても聞きたいです。「ボルテッカー」は『ポケットモンスター』と初音ミクのコラボ音楽プロジェクト“ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs”の第1弾楽曲として発表されました。

DECO*27:僕はミクも『ポケモン』も大好きなので、打ち合わせで初めてお話をいただいた瞬間に「えっ!」と思って。そのとき、ちょうど札幌にいたのですが、夜になって寝ようとしても、『ポケモン』の音楽やSEをサンプリングしていいという話だったので、ずっと頭の中で音が鳴り止まなくて悶々としてしまって(笑)。翌日は札幌を観光して夜の便で帰るつもりだったのですが、急遽昼の便で帰って、スタジオで「ボルテッカー」を作り始めたんです。

佐々木:とにかく閃くのが早くて、『ポケモン』サイドがびっくりしていました(笑)。

DECO*27:それくらい嬉しかったんですよ。「サラマンダー」は「カップヌードル チリトマトヌードル」と「カップヌードル 辛麺」をイメージして制作したのですが、そこにどう恋愛要素を絡めてDECO*27らしい曲にするかを考えながら制作するのが楽しかったですね。「辛い」や「赤い」といった味覚・視覚のイメージを汲み取りつつ、DECO*27っぽく落とし込むっていう。その意味では「ボルテッカー」も『ポケモン』には恋愛要素がないので似ていました。でも「ブループラネット」は特殊でしたね。

佐々木:そうですね。この楽曲は“初音ミク Happy 16th Birthday記念曲”として書き下ろしていただいたのですが、自然と生まれたような経緯がありまして。

DECO*27:僕が2022年の「マジカルミライ」のライブを観て刺激を受けて、「このテーマで楽曲を作らなくてはいけない」と思い立って作った曲なんです。それをクリプトンさんに聴いてほしくてマネージャー経由で送ってもらった流れで。

佐々木:そうなんですよ。たまたまミーティングしているときにメールが届いて「なんかDECO*27さんからアンサーソングが届いたんですけど……」ってなったのは覚えています(笑)。すごく珍しいことで、これまでそんなことはなかったですよね?

DECO*27:初めてですね。基本でしゃばるようなマネはしないんですけど、「ブループラネット」ばかりは、2022年の『マジカルミライ』を見て感じることがあったので。

DECO*27 - ブループラネット feat. 初音ミク

ーーそれを言葉にすることはできるものですか?

DECO*27:そのライブのセトリに「砂の惑星」が入っていたんですよね。僕はあの曲がすごく好きなんですけど、ライブでそれを聴いたときに、そういえば僕はこの曲に対して何も応答していなかったなと思って。なので歌詞にそういう要素も入れつつ、珍しく何かに刺激されて書いた曲になります。それこそ2013年の『マジカルミライ』のときと同じで、やっぱりライブにはパワーがありますよね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる