『学マス』新規層を取り入れる大胆な“拡張施策” 「仮装狂騒曲」カバー動画投稿が示す一つの答え

 今年のハロウィンは、そういえばやけに「仮装狂騒曲」のカバー動画を目にした――。思い返してみると、そんな記憶を持っている人も少なくないのではないだろうか。アプリゲーム『学園アイドルマスター』(以下、『学マス』)のシーズンイベント楽曲として誕生したこの楽曲は、発表から1年を経た2025年のハロウィンに合わせて、多くの歌い手や配信者によってカバー動画が投稿された。

 だが、数多の魅力的な楽曲が存在する『学マス』において、なぜこの曲でそのうねりが起きたのか? 本稿ではこのムーブメントが生まれるまでの土台や「仮装狂騒曲」でなければならない必然性などについて解説しつつ、『学マス』楽曲のカバー動画の今後についても考えていきたい。

今まで以上の新風を吹き込む、『学マス』ならではの施策とは

 この現象を紐解くには、まずは『アイドルマスター』(以下、『アイマス』)シリーズにおける『学マス』というブランドの持つ、ある特色を押さえておく必要がある。それは、「新規ファンを迎え入れるための施策を積極的に行っている」というものだ。

 一般的に長寿コンテンツというものは、いかに人気であっても、現状のファンを満足させながら新規ファンを獲得していかなければならないもの。望む/望まざるにかかわらず、コンテンツを離れざるを得なくなるファンは、どうしても発生するからだ。そしてそれは、2025年に20周年を迎えた『アイマス』シリーズにとっても例外ではない。

 そんな長寿シリーズに登場した『学マス』というブランドは、旧来の“プロデューサー”(『アイマス』シリーズのファンの総称)以外にもリーチするような施策を積極的に打ち出している。その意図は、リリース当初の楽曲を手掛けたクリエイターの顔ぶれにすでに表れていた。音楽シーンで注目を集めているものの、アニメ/ゲームジャンルが主戦場ではない原口沙輔(「初」作詞曲/宮川弾との共編曲)やGiga(「Fighting My Way」作編曲)といったクリエイターが多数参加。加えて、渡辺翔(「clumsy trick」作詞曲)が初めて『アイマス』シリーズに楽曲提供するなど、本作とはこれまで縁遠かったクリエイターも『学マス』の音楽に多く参加していたという点からも、それを感じることができるはずだ。

【学マス】1周年記念PV 【アイドルマスター】

 加えて公式ラジオにおいても、自社プラットフォーム・ASOBI STAGEよりも先にApple Musicにて『初星学園音楽部』の配信がスタート。その第6回には花海咲季役の長月あおいとともにAdoがゲスト出演したという点も含め、こちらも従来のプロデューサーの枠に留まらない多くのリスナーをも巻き込み、話題を呼んだ。

 そういったファン層開拓のための施策のうち、「仮装狂騒曲」カバー動画によるムーブメントの要因として大きく作用したと考えられるのが、公式からのインストゥルメンタル音源のデータ公開だ。『学マス』は『アイマス』シリーズの中で最もサブスク配信に積極的なブランドだが、ガイドライン(※1)にさえ沿えば、公式インスト音源を用いたカバー動画を自由に制作できるのだ。しかも、YouTubeでの動画の収益化やスーパーチャット機能も認めるなど、ユーザー側がカバー動画を投稿しやすい環境を整備。公式からの一次的な発信のみならず、ユーザー経由の二次的な発信も活かす形で新規層へのリーチを狙う試みを行っているのだ。

初星学園 「仮装狂騒曲」Official Music Video (HATSUBOSHI GAKUEN - Fancy dress party)

 こうして、ユーザーによって楽しむための土台が醸成された『学マス』楽曲。今回の「仮装狂騒曲」の盛り上がりをもたらひた要素のうち、最も大きいものは、日付の限定性だろう。『学マス』はアプリリリース1年目から、シーズンイベントとそれに紐づく季節曲を多数発表してきた。だが、楽曲発表直後に作り込んだカバー動画を投稿するのは、スケジュールという物理的な面を鑑みると至難の業。単に1人で歌うだけならまだしも、コラボ相手の調整や各人のレコーディングやミックス、MV作成といったさまざまなプロセスを楽曲発表から数週間で行うことは現実的ではないため、季節に合わせてタイムリーに投稿できるのは2年目に入った今年が最初のチャンスとなる。しかも、その中で「仮装狂騒曲」は、ハロウィンソングであるため、とりわけピンポイントなタイミングを狙いたくなる楽曲だ。それが、同じく発表から2年目に入った「キミとセミブルー」や「冠菊」といったほかの季節曲との大きな違いでもあるかもしれない。

 そして、「歌ってみたくなるハロウィンソングである」ということもまた、よりこの曲のカバー動画制作の意欲を高める要因のひとつ。昨年の発表時点で衝撃をもたらし、多くの支持を集めていたこの曲は、高速ラップという挑戦してみたくなる要素も持ちあわせている。そこに自身の個性を乗せて発表し、多くのファンとともに盛り上がりたいという想いを持つのも、ごくごく自然なことだろう。

 これらの要因が複合的に絡み合ったことで、2025年のハロウィンに数多くの「仮装狂騒曲」のカバー動画が投稿されるに至ったのだ。

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