aespa、圧倒的な熱気が渦巻いた『SYNK : aeXIS LINE』ツアー どのグループとも違う“何か”――その正体を観た

aespaの日本アリーナツアー『2025 aespa LIVE TOUR – SYNK : aeXIS LINE – in JAPAN』の国立代々木競技場 第一体育館公演が11月8日、9日の2日間にわたって開催された。本稿では、1日目のライブレポートをお届けする。
会場を埋め尽くす圧倒的な熱気。その視線は一様に、突如として出現した、センターステージを天井から床まで360度丸ごと覆い尽くす巨大な白のカーテンへと向けられていた。「あのなかに間違いなくaespaがいる」――そんな興奮が渦巻くなか、光と映像が交錯しながら、幾何学模様がカーテンの表面へと描かれていく。期待が最大値へと膨れ上がる。そして、カーテンが一気に落ちるとそこにいたのは、空中に浮かぶステージと、そこに設置された椅子に堂々と座るメンバー4人の姿だった。

意表を突いた演出に会場の熱狂は、一気にピークへと到達する。悲鳴にも似た歓声のなかで、表情を決して緩めることのないメンバーはステージごと地上へと降り立ち、クールな表情を貫いたままで「Armageddon」を投下した。重厚感に溢れたビートと浮遊感に満ちた音色と一体となりながら、aespaが自分たちの世界へと一気に染め上げていく。さらに、オールドスクールなHIPHOPの影響が色濃い「Set The Tone」が放たれ、会場全体が揺れる。口笛の音色遣いがクールな「Drift」では、激しいカーレースの光景を想起させるド派手なVJも相まって、会場全体の熱量がさらにじわじわと上がっていくのを肌で感じることができた。
筆者がaespaの単独公演を観るのは今回が初めてなのだが、この光景を観ながら、漠然と「これまでに観たどのK-POPグループとも違う“何か”がある気がする」という感覚を抱いていた。うまく言葉にするのが難しいのだが、それはどこか余裕があると感じられるムードが漂っているように感じられたのである。それは、冒頭の演出における予想を裏切る展開や、大観衆を前にしてもクールな表情を貫き、どこか余裕のある感じで軽快に踊る4人の姿、ミドルテンポの楽曲を続けて披露する冒頭のセットリストの構成からも印象付けられるものだった。

そうした一つひとつの演出は、期待されている、あるいは世間から与えられる役割を気にすることなく、自分たちのやりたいようにやるという彼女たちの強さを感じさせるものだった。タイトなHIPHOPのビートに合わせて、クールに踊る4人の手足の動きを注視すると、余裕があるように見えながら、軸が一切ブレることなく的確に芯を射抜いていることがわかる。それは、“全力”を表現する以上にテクニックを要するものだ。MCを挟んで披露された「Dirty Work」では、メンバーのウインクも炸裂し、ゆっくりと醸成されていく独特なムードのなかに、少しずつポップな表情が顔を出していく。
「求められる役割を気にしない」というのは、幕間に投影された映像においても重要なポイントとなっていたように思う。「DIRTY CLUB GIRLS WORK」と題された最初の映像では、調理場に集まった4人がそれぞれの注文に合わせてスイーツを作る光景が映し出されるが、そのプロセスは破綻しており、ただ闇雲に謎の生地をフォークで刺し続けたり、そこらへんにあるものをとりあえず無造作にミキサーにぶち込むといった具合で、明らかに求められる役割を理想とされる形でまっとうすることを拒んでいる。だが、目的であるスイーツはちゃんと完成しているのだ。

映像を挟んで披露されたソロパフォーマンスのセクションでは、胸元にカタカナで「カリナ」と書かれた名札も印象的な白の制服姿で登場したKARINAの「GOOD STUFF」、紫、水色、ピンクの光が織りなす幻想的な空間のなかで踊る姿に魅了されたNINGNINGの「Ketchup And Lemonade」、センターステージを舞台にダンスホールのビートに合わせてダンサーたちと快活に踊るGISELLEによる「Tornade」、そのポップな光景から一転してモノトーンのシックな衣装で雄大なロックバラード「BLUE」を見事に歌い上げるWINTERと、四者四様の表現が観客を次々に魅了する。
その後のMCでそれぞれのメンバーが「何が好きで、何がやりたくて、何を表現したかったのか」を熱心に語っていたように、今回のツアーのトピックでもあるソロパフォーマンスに関しては、「本当にやりたいことをやる」という印象が強かった。それは、KARINAのパフォーマンスが(本人が語った「今回は大人しくて優等生的な学生を演じてみたかった」という言葉とのコントラストも鮮烈な)赤、白、黒を基調とした大胆なストリート的クールさに満ちたVJとともに披露された超ドープなHIPHOPだったことからも裏付けられるかもしれない。

そして再び幕間である。「ARE WE CRIMINALS?」と題された映像では、「なぜここにいるのですか?」と問われたそれぞれのメンバーが、無表情を貫きながら破壊的な行動を取るシュールな光景が続いていく。大胆不敵なエディットが施された映像の数々は、2025年現在のメインストリームの最先端と比較しても、十分にクールでセンセーショナルだ。だが、それ以上に重要なのは、そこに映し出された4つのスローガンだろう。それは、前述の質問に対する答えでもある。
KARINA「REJECTION OF GOOD GIRL」(良い女の子であることを拒絶する)
NINGNING「DISREGARDING THE FRAME」(枠組みを無視する)
WINTER「REFUSAL TO KNOW HER PLACE」(立場をわきまえることを拒む)
GISELLE「VIOLATION OF SILENCE」(沈黙を打ち破る)
これらを総括するように、映像の最後には「WHO DARES TO CALL US CRIMINALS?」(誰が私たちを犯罪者と呼べるんだ?)という言葉が表れ、「Hot Mess」を皮切りにライブの中盤戦が幕を開ける。ポップとドープが入り乱れるカオティックな「Hot Mess」は、ここまで発信されてきたメッセージを見事に総括していく。メンバーの表情にも笑顔が増え、ダンスのキレはさらに目に見えて上がっている。

原曲よりもかなりハードロック成分が増した「Trick or Trick」では、まるでaespa自ら凶悪なギター&ベースを従えているような迫力に圧倒され、「Flowers」「Lucid Dream」「Thirsty」とバラードが続くパートでは、美しい極彩色の映像と、どこか自分たちの世界に誘うかのようなメンバーの浮遊感に満ちた姿も相まって、まるで別の世界へと吸い込まれていくような感覚に陥った。そうしてたどり着いた、キャリア屈指のラブリーな楽曲である「Angel #48」におけるシャボン玉とピンクの光が行き交う空間の幸福感といったら、筆舌に尽くしがたいほどだった。
メンバー同士のシナジーも次々と炸裂し、トロピカル調の「Better Things」から一気にギアを切り替えるように放たれたアッパーチューン「ZOOM ZOOM」では、目まぐるしく移り変わる楽曲のなかで、WINTERが力強い歌声で感情を昂らせ、NINGNINGが鋭い眼差しで場を引き締め、サビで一気にスパークさせるといった見事な連携技で会場を盛大にブチ上げていく。

冒頭から一貫して発信され続けるaespaのスタイルと、それを体現するかのような演出/パフォーマンスの数々は、観客やシーンに歩み寄って共感を求めるのではなく、むしろ「私たちはこれが最高にクールだと思っているから、気に入ったなら一緒に楽しもう」という無言のメッセージを発信しているようにすら感じられた。それに呼応するように観客もステージへ引き込まれていき、気づけば会場全体に強靭なグルーヴが生まれていた。
この日、特に大きなハイライトとなったのは、メンバーが思うがままに札束を集めまくり、最後は「Just Married」と書かれた車に4人が大量の現金と一緒に乗り、走り去ってフィニッシュするという痛快極まりない映像を経て披露された最新曲「Rich Man」だろう。理想の相手=結婚相手を見つけなさいという母親からの言葉に対して、〈I already have everything〉(私はもうすべてを持っている)」と返す同曲は、今のaespaをこれ以上ないほどに象徴している。札束を積み上げたセットをバックに、この日最もゴージャスな衣装で登場した4人が、観客の大合唱に対して豊かな表情と熱量に満ちたダンスで応戦する。楽曲の終盤では映像の札束に火が放たれ、巨大な炎をバックに4人が凛々しくポーズを決める。楽曲中でGISELLEが〈Don't need the money〉(お金なんて必要ない)と歌うように、お金なんてなくても、ここにいる人たちは最初からすべてを手にしているのだ。

凄まじい攻撃力を誇る「Kill It」「Dark Arts」ではブッ飛んだ音色の応酬を弾き返すくらいに4人が放つあまりのエネルギーに圧倒される。MCも、後半になるにつれて無邪気に“つるとんたん”や“ガリガリ君”の話題が行き交い、フリーダムなトークが展開されていく。本編終盤を飾った「Next Level」「Supernova」「Whiplash」のキラーチューン三連発では、「この瞬間を待っていた!」というほどの盛り上がりと大合唱が巻き起こる。ただ楽曲を披露するだけでは、ここまでの壮絶な熱狂を生み出すことはなかったのは事実だろう。本編ラストに披露された「Drama」とのマッシュアップによる「Girls」では壮大な花火が祝福のムードを演出し、スクリーン全面を使って映し出された巨大な「GIRLS」の文字が、この場が、そしてaespaが一体誰のためにあるのかを高らかに宣言していた。
アンコールでは、トロッコに乗って「Sun and Moon」と「Live My Life」が披露されるなど、終始リラックスした多幸感に満ちたムードが会場を覆う。そして、この場で発表されたのが、2026年4月に開催される東阪ドームツアー『2026 aespa LIVE TOUR – SYNK : aeXIS LINE – in JAPAN [SPECIAL EDITION DOME TOUR]』である。
ライブ全体を使って自分たちのスタイルを提示し、会場全体を凄まじいグルーヴで揺るがしたこの日のaespaは、「Rich Man」で歌うように〈I'm my own biggest fan〉(私が私の最大のファン)であることが最強であるということを、これ以上ないほどに証明していた。
























