松任谷由実、幻想的な宇宙空間で“私が私に会いに行く夢”を演出 最新ツアー公開ゲネプロで体験したユーミンワールド

松任谷由実、全国ツアーの公開ゲネプロ

 最新アルバム『Wormhole / Yumi AraI』のリリースを翌日に控えた11月17日、東京・府中の森芸術劇場 どりーむホールを皮切りに、アルバムと連動した松任谷由実の全国ホールツアー『THE WORMHOLE TOUR』がスタート。このツアーは、2026年1月19日にユーミンが72歳になることから、2026年12月まで1年以上にわたって、全72公演が開催されることでも話題になっている。11月15日、同会場にてメディア関係者やファンクラブから招かれた観客を前に行われた公開ゲネプロの模様をレポートしていく。

 ライブは、まるで宇宙空間にいるような映像が映し出されるなかでスタートした。夜、部屋の灯りを消して窓から星空を眺めながら、無限に広がる宇宙やまだ見ぬ自分の将来像に想いを馳せていたーーオープニングの演出に、未来を夢見ていた幼少期を重ね合わせた人も多かっただろう。

 ユーミンは「タイトルの通り、このライブは全編にわたって宇宙のお話です」と切り出し、タイトルの『Wormhole』について、クリストファー・ノーラン監督の映画『インターステラー』を例に挙げながら、「そこを通ると違う時間に出てしまう、タイムスリップのようなもの。現実では不可能だけれど、意識のなかではそれが可能になる。意識のなかではいつでも、過去にも未来にも、現実の世界にも空想の世界にも行くことができる。意識は多次元世界に存在しているのかもしれない」と説明した。

松任谷由実 ライブ写真

 その上で今回のライブテーマは、「私が私に会いに行く夢」とのこと。現実ではあり得ないことであるが、ユーミンの言葉を借りれば意識のなかでは可能なことであり、それこそライブや歌の世界ではなおさらだろう。ユーミンのナビゲートによって、そんな文字通りの「不思議な体験」がスタートした。まるで映画音楽のように壮大でヘヴィな「DARK MOON」では、シルバーのドレスに王冠をかぶった王女のような出で立ちで登場して客席をアッと言わせた。

 MCでは『Wormhole / Yumi AraI』がAIを駆使して制作されたことにも触れ、それがいかに大変な作業であったかを明かしたユーミン。「しかし残念ながら、それをライブで披露するには今のテクノロジーでは間に合いません。だから、このライブでAIはナシです」とコメントし、続けて「リアルタイムでホログラムをコントロールできる時代になれば、それもきっと可能になるのでしょう。それもそんなに遠い未来ではない気がします。その頃、私は人型ロボットになったりしていて、それも悪くないかも!」と言って、客席の笑いを誘った。

松任谷由実 ライブ写真

 サビで美しく響くハイトーンが胸を締めつける「岩礁のきらめき」(テレビ朝日系金曜ナイトドラマ『魔物(마물)』OST)、陽だまりのような温かさを感じられ、どこかノスタルジックなムードが広がる「天までとどけ」(フジテレビ系木曜劇場『小さい頃は、神様がいて』主題歌)といったドラマ楽曲を続けて歌ったパートでは、会場に手拍子が鳴り響いた。制帽をかぶりブルーのロングコートにブーツというミリタリーテイストに衣装替えをしたユーミンは、コートの裾や真っ白のスカーフをはためかせながら歌唱した。

松任谷由実 ライブ写真

松任谷由実 ライブ写真

 現在、温暖化で四季がなくなりつつあると言われているが、四季があるのは地球の回転軸が傾いているからであり、その傾きがある限り四季はきっとなくならないーーそんな話を上の句に、四季を題材にした楽曲も披露された。スモークが立ちこめステージが一気に雪の情景になった後、ユーミンは花冠をかぶり白のドレスをまとった、北欧神話に出てくる湖畔の妖精のような姿で登場し、アルバムから「CINNAMON」を披露。メランコリックなサウンドに合わせて、スカートの裾をひるがえしてダンスするように歌い、客席を沸かせた。

松任谷由実 ライブ写真

 1973年の1stアルバム『ひこうき雲』に収録された「ベルベット・イースター」を披露し、同作に収録の名曲「ひこうき雲」を歌う際には、空想の世界に生きていた少女時代を「あの頃に戻りたいような、戻りたくないような」と振り返りながら、「あの頃の自分に聞いてみたいことがある。しかしなぜ同じ自分なのにわからないのか。きっと永久にわからないのでしょう」とコメントして、“あの頃”に想いを馳せるように遠くを見つめながら歌った。

松任谷由実 ライブ写真

 その後の楽曲では、勢いあるドラムのフィルインを合図に、オーディエンスが一斉に立ち上がって手拍子をかけ、そんな客席に向かって嬉しそうに手を振ったユーミン。そして両手を広げて、彼女に贈られる大歓声と拍手を全身で受け止めた。

 1970年代から2020年代まで6つの年代全てで、オリコン週間アルバムランキングの1位を獲得し、「日本のアルバムチャートで1位を連続で獲得した最多デケイド数」のギネス世界記録に認定されているユーミン(オリコン調べ/※1)。このライブでは最新アルバム『Wormhole / Yumi AraI』収録曲を中心に、実にさまざまな時代の楽曲が散りばめられ、それらが違和感なく一つの物語のように紡がれていった。今のユーミンが生み出す現代的なポップナンバーと、過去のユーミンが未来の我々に向けて放ったメッセージのような名曲の数々。まさしく“ここ”が“ワームホール”の中心であることを体感することができるライブだった。

※1:https://www.oricon.co.jp/news/2294840/full/

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