『写らナイんです』コノシマルカ×「バケバケ」ナユタン星人 特別対談 『日メゾ』で描かれる“音楽×漫画”の化学反応

バケバケ(from「写らナイんです」)サムネイル

 今春始動した『日曜日のメゾンデ』は、音楽プロジェクト・MAISONdesと少年サンデー編集部による、“歴代サンデー作品の音楽化”アーティストプロジェクト。ボーカルは一貫して元ツユの礼衣が各曲の世界観を表現する一方で、これまでも多彩なアーティストやクリエイターらがサンデー漫画を“音楽で表現”した、ユニークな楽曲を数多く生み出してきた。中には『アイツノカノジョ』(小学館)を音楽化した「ふり」など、SNSでのバイラルヒットをきっかけに世間への認知が広まった楽曲も。

 そんな『日曜日のメゾンデ』が仕掛ける、音楽×漫画の化学反応の面白さやその魅力をより子細に紐解くべく、今回、漫画家×音楽クリエイターの対談が実現。話を聞かせてくれたのは楽曲「バケバケ」でのコラボとなった、『写らナイんです』(小学館)の作者・コノシマルカとボカロP・ナユタン星人である。

 超霊媒体質な少年・黒桐まことと霊感ゼロすぎる少女・橘みちるのホラー青春譚を描く『写らナイんです』。話を聞けばコノシマは昔からナユタン星人の曲を愛聴しており、一方のナユタン星人も以前から原作漫画の愛読者とのこと。相思相愛から始まった本コラボでは、「バケバケ」制作を通じてどのようなケミストリーが生まれたのだろうか。両者から相互に飛び交う微笑ましい質疑応答も交えた、穏やかな対談の様子をお届けしたい。(曽我美なつめ)

プロジェクト『日曜日のメゾンデ』の印象は?

ーーまず初めに、音楽×漫画で新たな表現の可能性を探る『日曜日のメゾンデ』というプロジェクトの印象をお伺いできますか?

ナユタン星人:漫画作品を楽曲にするというコンセプトが「すごく面白そうだな」と思ったのが第一印象でした。昔マガジンの漫画のPRのテーマ曲みたいなものを作ったことはあるんですが、漫画作品をテーマとした曲は作ったことがなくて。あと、僕はいろんなクリエイターさんのコラボ曲をチェックするのが好きなんです。MAISONdesさんの楽曲ももちろん好きでしたし、お洒落でカッコイイ曲が多いイメージで憧れがあったので、お誘いいただけたのが嬉しかったです。これからはお洒落アーティスト顔していこうと思います(笑)。

ナユタン星人
ナユタン星人

コノシマルカ(以下、コノシマ):私は、普段からネームや漫画を描くにいろんな音楽を聴くことが多くて。作品やストーリーにテーマソングを据えて描くことも多いぐらい音楽が好きなので、漫画を音楽で表現するのも単純にすごく楽しそうだし、「どうやってやるんだろう?」というワクワクが大きかったですね。そんな企画で『写らナイんです』を取り上げていただけたのも嬉しかったですし、ナユタン星人さんの曲も以前からよく聴いていたので、今回本当に光栄で。

コノシマルカ
コノシマルカ

ナユタン星人:本当ですか? 嬉しいなあ。ちなみにどんな曲を聴いてくださっていたんですか?

コノシマ:それこそ『写らナイんです』の裏テーマ的な感じで「いにしえロマンティック」とか……。

ナユタン星人:『妖怪ウォッチ』のオープニングで作ったやつだ(TVアニメ『妖怪学園Y ~Nとの遭遇~』オープニングテーマ/P丸様。feat.YSPクラブ)。

コノシマルカ:そうです! 漫画の雰囲気に合うエピソードを音楽から“降霊”するような感じで(笑)。

ナユタン星人:ボカロ曲だけじゃなく、そこまで聴いていただいてたんですね。実は僕も『写らナイんです』はもともと個人的に好きで読んでいた作品で。元々ホラーも好きで、最近だと小説や映画で流行りのモキュメンタリーホラーにもハマってるんですけど。『写らナイんです』はホラーをベースにしつつコミカルさやエモさ、いろんな要素が入っているのがすごく面白くて。「急にこのワード言う!?」みたいなセリフ回しとか、言葉のチョイスもすごいツボにハマりました。

コノシマルカ:嬉しい……ありがとうございます! ちなみに、お好きなキャラはいますか?

ナユタン星人:どのキャラも魅力的ですけど最近は日下(輝雄)先輩です。一挙手一投足がいちいち面白いですよね(笑)。イケメンでがめついけど、どこにも振り切れてない。どこかに振り切るとめっちゃ嫌な奴になるんですけど、それが全部振り切れてないから、結果的になんだかすごく可愛い人間になってるっていう。お金が好きだけどすごい規模の小さな金額で喜んでたり、そういうところもいいなって。

コノシマルカ:そうなんです。“小規模な男”なので……(笑)。

(C)コノシマルカ/小学館
(C)コノシマルカ/小学館

ナユタン星人:(鬼崎)愛子さんが登場した時もそうでしたけど、初めて会ったキャラ同士がどんな反応するのかめっちゃ気になりながら読んじゃうんですよ。新キャラと出会った時の反応が全然予測できなくて、そこも魅力のひとつだと思います。

ーーそんなお二人のタッグから生まれた「バケバケ」ですが、今回の制作にあたって事前にお二方での方向性の擦り合わせなどはあったんですか?

ナユタン星人:本制作の前に、望まれてる雰囲気を探ろうと思って「どんなタイトルの曲をイメージしていますか?」と聞いた記憶はありますね。そうしたら漫画サイドの方から、「ゴーストゴースト」というフレーズをもらって。僕の曲に「エスパーエスパー」(『ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs』オリジナル楽曲)という曲があるので、あの楽曲の“おばけ版”はどうでしょう? というお話から「こういう曲調かな」という構想が見えてきた気がしますね。

ーーとなると、「バケバケ」という曲題もかなり早い段階から決まっていたんでしょうか?

ナユタン星人:そうですね。作っているうちに“ゴースト”っていう洋風のオカルトよりは、“日本のお化け”って感じかな、とか。あとは“バケーション”っていう単語とも絡ませたいな、と思って「バケバケ」になって。ただ、今放送してるNHK朝ドラ(連続テレビ小説『ばけばけ』)のタイトルと丸被りするっていう……(笑)。

ーーまさかの展開でしたね(笑)。とはいえ、カタカナの同じ単語を繰り返す曲題はナユタン星人さん本来の作風もかなり感じられるな、と。その上で改めて、制作の際まずどんな部分に注力されましたか。

ナユタン星人:やっぱり漫画自体、魅力が溢れまくってる作品なので、それをなるべくそのまま音楽化したい、という点は特に意識しました。音楽版『写らナイんです』を作るというか。

歌詞は「コノシマ先生を自分に“憑依”させる」イメージで制作

ーー具体的にどんな形で、漫画の魅力を音楽で表現したんでしょうか。

ナユタン星人:たとえば、先ほども触れた楽しさや怖さ、エモさなんかがごちゃ混ぜになった感じをオケで表現できないかな、とか、あとはやっぱりコノシマ先生のワードセンスですね。それを歌詞にどうにか落とし込みたいと思いながら作りました。

ーー〈枯れ尾花ならまだプリチー〉や〈まだまだ強くなりたいわ〉など、曲中には原作読者であればついニヤリとする歌詞も随所にありますね。個人的にはもともとナユタン星人さんの主題であるSF感と今回のホラーテーマも、“人外感”という点でマッチすると思いまして。

ナユタン星人:オカルトとSFって近しい部分はありますもんね。ただ、ホラーを好きでも自分の作風ではなかなかガッツリしたホラーネタを使える機会がないな、とずっとモヤモヤしてたんです。なので、今回溜めに溜めた「ホラー系作りたい欲」を思う存分満たせて、そこも嬉しかった部分ですね。

(C)コノシマルカ/小学館
(C)コノシマルカ/小学館
(C)コノシマルカ/小学館
(C)コノシマルカ/小学館

ーーそれはたとえば、具体的にどんなものですか?

ナユタン星人:ホラーやオカルトって独特な言葉が結構あるじゃないですか。お経っぽいフレーズとか、あとは「祀る」「魑魅魍魎」とかもあまりほかでは使わないですよね。

ーー言葉をそのまま使うのでなく、一捻りして〈魍魎メチャメチャ魑魅魑魅に〉とキャッチーな語感にした点も、ナユタン星人さんらしさが垣間見えます。

ナユタン星人:その辺りのフレーズは、それこそコノシマ先生のワードセンスをイメージしましたね。先生を自分に“憑依”させる感じで。でも、いざ出来上がったものを聴いてみると、意外と自分っぽさもあるな、と思いました。このマッチ具合はコラボの組み合わせを考えてくださった方々がすごいです。お話をいただいた時、自分のことなのに「このコラボ、わかる!!」とひとりで言ってました。

ーーサウンド面に関してはいかがでしょう。

ナユタン星人:作品を音楽にどう落とし込もうか悩んで、サウンドはいろいろ試しましたね。まずホラー感のある音を曲に散りばめようと思って、悲鳴や鐘の音や不協和音みたいな、いかにもホラーっぽい効果音をかき集めるのが楽しかったです。でもホラーな音をたくさん使いながらも、曲自体はポップでコミカルにしようとしたり、さらに展開してエモさも込めたり。その試行錯誤が悩みつつ注力した部分です。

バケバケ(from「写らナイんです」)/ 日曜日のメゾンデ

ーー制作の中でも一番悩んだのはその点ですか?

ナユタン星人:そうですね。あと、これは贅沢な悩みなんですけど、やりたいことが多すぎて、アイデアの取捨選択もかなり苦労しました。「これも入れたい」「これもやりたい」がいっぱいあったんですけど、泣く泣く諦めたアイデアもあって。

ーーどんなアイデアがボツになったんです?

ナユタン星人:本当はもっといろんな展開を入れようとしていたんです。急に暗くなったり、逆にパーティ感強めの部分を増やしたりとか。でも入れすぎるとごちゃごちゃで本当にワケのわからないことになってしまうので、曲全体の統一感と変化のバランスはかなり悩みながら作りましたね。ほかにも苦渋の選択で削ったアイデアが結構あるので、それはまたどこかで出せる機会を待つことにします(笑)。

ーーその反面、楽しかった作業としてホラーの音集めという話も先ほどありましたが。

ナユタン星人:ホラーの効果音って、音階がないものや不協和音が多いじゃないですか。不安を煽る時のストリングスとか。そういう変な音たちをできる限り工夫して並べて、できるだけメロディっぽく音楽的にしていく過程が、ハチャメチャすぎてすごく楽しかったです。

 あと、原作のワードセンスを“憑依”させて作詞してみると、普段自分じゃ絶対に思い浮かばない突拍子もない表現が出てきたんですよ。いつも提供曲を作る時は作品や元ネタに寄り添いつつも、やはり自分の言葉で書くことが多くて。ただ、今回は原作のワードセンスが魅力の肝でもあったので、普段あまりやらない発想で歌詞を書くことで、新しい言葉の引き出しが開く感じもありました。

ーーちなみに制作の際は、作詞と作曲どちらが先だったんでしょうか?

ナユタン星人:完全に同時進行でしたね。僕は普段曲を作る時に、鼻歌というか、実際に“フニャフニャ”言いながら曲を作っていて、その“フニャフニャ”がだんだんと言葉になっていく、という感じで。今回だとサビの〈ナンマイダ ナンマイダ〉も、最初はフニャフニャと歌ってたワードだったんですが、フニャフニャだったおかげで〈何枚や 何枚や〉って響きが同じで面白い言葉の変化が生まれたりしました。折角の機会なので、僕も逆にコノシマ先生に聞きたいことがあって……漫画の中でまこととみちるがカラオケに行くシーンがあるじゃないですか。あのシーンの〈どこまでいってもチュパカブラ〉は歌詞が先なのか、実は先生の中でメロディまで決まってたりするんですか?

コノシマ:あれは歌詞が先ですね(笑)。それこそ『妖怪ウォッチ』みたいなユーモアというか、子どもが好きそうな歌詞にしたかったんですよ。今回の曲にも取り入れられていて、本当に嬉しかったです。「メロディがついてる~!」って。

ナユタン星人:歌詞が先だったんですね! そういえば、「バケバケ」の作詞については、耳で聴いた時と目で見た時で印象が変わるよう作ったところもこだわりかもしれないです。『写らナイんです』って、最初に読んだ時と2回目に読んだ時で印象が変化するストーリーやキャラが多い気がしていて。それをどうにか曲の構造でも再現したいと思ったんです。

(C)コノシマルカ/小学館
(C)コノシマルカ/小学館

ーーサビの箇所ですね。耳で聴くと「You and me」「Eyes on you」ですが、歌詞の表記は〈幽遠み〉〈合図オン幽〉。漫画の各話タイトルも踏襲していたり、総じて歌詞には原作の小ネタをかなり細かく仕込んでいますよね。

ナユタン星人:そうですね。各話タイトルや作中のさりげない台詞から、かなり言葉を取らせてもらってます。あまりわかりやすく引用してるわけではないのに、聴いているとジワジワと「これは間違いなく『写らナイんです』だ!」という印象になるように頑張りました。

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