Spotifyで『鬼滅の刃』プレイリストがグローバル1位の快挙 アニメソング海外輸出の新たな可能性

Spotify『鬼滅の刃』プレイリストが快挙

 国産劇場アニメーション作品のヒットが止まらない。4月に公開された『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』は興行収入146億円を記録、現在公開中の『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』も公開から9週で87億円を突破するなど現在も興行収入を伸ばし続けている。こうしたアニメ作品は日本のポップカルチャーを語る上で欠かすことのできないコンテンツとして年々その存在感を増している。

 なかでも7月に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の勢いは凄まじい。2020年の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』以来5年ぶりの劇場版として制作された本作は、11月16日現在で379億円という興行収入を記録。これは歴代興行収入ランキングで『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』に次ぐ2位という記録である。国内だけでなく国外においても人気を博しており、全世界の総興行収入は11月16日までで1063億円を突破。2025年に公開されたすべての映画の中で、10月13日時点で世界興行収入第5位を記録(※1)するなど、世界的に注目を集める作品となった。

Spotify『鬼滅の刃』プレイリストがグローバル1位を獲得 体験を楽しめる仕掛け

 『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』のこの大きな反響は音楽シーンにも大きな影響を与えている。そのことを象徴する動きの一つとして、Spotifyで公開された『鬼滅の刃』公式プレイリストが日本発のプレイリストとして初めてデイリーアクティブユーザー数においてグローバル1位を獲得したことに着目したい。「Today’s Top Hits」や「Rap Caviar」などの人気プレイリストをおさえ、9月21日から25日までの5日間連続でトップを維持すると、その後もグローバルで上位圏をキープしており、国別では日本の他、US、インド、東南アジア、中南米諸国が上位にランクインしているという(Spotify調べ)。

「鬼滅の刃」公式プレイリスト英語版
「鬼滅の刃」公式プレイリスト英語版

 日本発のプレイリストとして史上初の快挙を成し遂げた『鬼滅の刃』公式プレイリストのグローバルヒットは、国産アニメの世界的な人気や勢いを裏付けるものであり、アニメそのものの注目と合わせて日本のアニメソングが世界各地で親しまれた。しかし、今回このプレイリストがここまでユーザー数を伸ばしたのには、特別ないくつかの要因があるように思われる。

 まず、世界各地で『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が公開されるタイミングに合わせ、Spotifyでは体験型デジタルコンテンツ「無限プレイリスト(Infinity Playlist)」を展開。アプリ内のバナー設置やグローバルのSpotify公式SNS投稿を通じて、海外の『鬼滅の刃』ファンにもタイムリーに本プレイリストを届ける施策を行った。また、「無限プレイリスト」内「キャラクターカード」施策もユーザー数を伸ばした大きな要因の一つだろう。プレイリスト体験の最後にランダムで全19種類のキャラクターカードが表示されるというもので、このゲーミフィケーション的な仕掛けがファンの没入感を高め、SNSでの体験共有やUGC(ユーザー生成コンテンツ)の拡散につながったのではないかとSpotifyは分析する。実際、TikTokやInstagramでは、さまざまな言語で「Infinity Playlist」にまつわる投稿が行われている。このように各地の『鬼滅の刃』ファンが、音楽を聴くだけでなく体験を通して本プレイリストを楽しめる要素がふんだんに盛り込まれていたのである。

「鬼滅の刃」公式プレイリストの「無限プレイリスト」を体験している状態
『鬼滅の刃』公式プレイリストの「無限プレイリスト」を体験している状態
無限プレイリスト体験の最後にランダムで表示される全19種類のキャラクターカード
「無限プレイリスト」体験の最後にランダムで表示される全19種類のキャラクターカード

“鬼滅ファン”が集まる場所づくり サントラ楽曲人気も顕著に

 また、本プレイリストには『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の主題歌であるAimer「太陽が昇らない世界」やLiSA「残酷な夜に輝け」に加え、LiSA「紅蓮華」「炎」やAimer「残響散歌」といった『鬼滅の刃』シリーズの歴代主題歌、歴代シリーズのサウンドトラックも収録されている。そうした楽曲のなかでも、再生数・お気に入り数・保存数ともに上昇しているのが、椎名 豪や梶浦由記によるサウンドトラックの楽曲だ。9月21日から25日までのプレイリストでの再生数を見ると、前述の主題歌群のほか、「竈門炭治郎のうた -OST ver. -」「竈門禰󠄀豆子のうた -full ver. -」といったサウンドトラックの楽曲が再生数のトップ圏内にランクインしている。 また、プレイリスト再生ユーザー数における、楽曲がお気に入りに登録された割合(Heart Rate)を見ると、 「煉󠄁獄と猗窩座の戦い」「猗窩座 出現」「煉󠄁獄の死闘」といった「無限列車編」の楽曲が上位にランクイン。 『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が日本国内のみで公開されていた期間のデータを見ても、再生数に関しては似たような動きをしていたという。ただし、Heart Rateに関しては国内と海外で少し異なる部分があり、日本国内公開時には過去主題歌のHeart Rateが高く、海外公開後はサントラ楽曲のHeart Rateがより高い傾向にあったという。

 最新作だけでなく、『鬼滅の刃』関連楽曲を広く取り揃えることで“『鬼滅の刃』ファン”も集まる場所として機能することができたと思われるのが、本プレイリストの功績だ。その結果、主題歌だけでなくプレイリスト全体の楽曲がグローバル規模で聴かれるという潮流を生み出せたのだろう。また、『鬼滅の刃』公式プレイリストから再生されたサウンドトラックの割合は、全体として非常に高いという。『鬼滅の刃』関連楽曲の中でも、特にサウンドトラックの再生数上昇については、本プレイリストの施策が大きく貢献したと考えてよいだろう。

 国産アニメーション作品のヒットと合わせて主題歌がヒットする流れは『鬼滅の刃』に限らず、昨年の『マッシュル-MASHLE-』第2期におけるCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」や一昨年の『【推しの子】』におけるYOASOBI「アイドル」など、直近だけでも前例は多数存在する。今回の『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』とSpotifyによる施策がこれまでと一線を画しているのは、ユーザー参加型・体験型コンテンツを通して作品のファンにしっかりプレイリストを訴求することができた点に加え、主題歌だけでなくプレイリストに収録された楽曲が一体となって再生回数を伸ばした点にあるだろうと考える。今回の結果からは、言語を超えて作品世界を味わうことのできるサウンドトラックの海外輸出の可能性の高さを改めて感じるとともに、アニメーション作品をきっかけとした多様な音楽の届け方のヒントを見出すことができるのではないだろうか。

※1:https://www.oricon.co.jp/news/2413043/full/

※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」、煉獄の「煉」は「火+東」が正しい表記となります。

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