chelmico Rachelがohayoumadayarouで掬い上げるもの “満たされなさ”を抱える人たちに届けたい音楽

Rachelがソロで掬い上げるもの

「飛行機」ではなく「紙飛行機」 それが私の“リアル”

ohayoumadayarou Rachel(撮影=Yasuda Madoka)

ーー「紙飛行機」も、ライブでとても印象に残った曲でした。

Rachel:昔、ラッパーの方に「chelmicoって『リアル』なん?」と聞かれたことがあったんですよ。意味が掴めなくて、その時は「わかんない」と返したんですけど、あとから考えるとすごく難しい質問だなと。私は 「こうありたい像」 を表現してchelmicoをやっているし、それは私にとってはリアル。でも、いわゆるストリートのリアルみたいな文脈と並べられると、私はどこまでリアルなんだろう? と考えてしまうんです。もちろんラッパーだって 「こうありたい自分」 を作品として描くわけじゃないですか。いい車、いい服、肩書き、成功……それが演出だとしても、表現している構造は同じなのかもしれないし、だったらリアルってなんだろう、と考えるきっかけになったんですよね。

 その頃ちょうど、自分のアイデンティティに対する曖昧さも感じていたのも大きかった気がします。私はアメリカと日本のハーフだけど英語は喋れないし、アメリカに行ったことはあるけど「地元」っていう感覚はない。横浜には長く住んでいたけど、土地への強い愛着があるわけでもない。chelmicoとしても、何か特定のシーンに属している実感はなくて、周りの人がよくしてくれたから続けてこられた。それゆえ「私って本物なのかな?」とわからなくなる時期があったんです。

ーーその感覚が「紙飛行機」というモチーフにつながった?

Rachel:はい。空港の近く、頭上を飛行機がすごく低く飛ぶのを見ていて、「自分は飛行機にはなれないけど、紙飛行機くらいなら作れるし自分で飛ばせるな」って思ったんです。飛行機は大きくて強いけど、いつかは壊れる。紙飛行機はすぐ折れるけど、楽しいし身近だし自分の手で作れる。そういう感じが自分自身にすごく重なって、「(自分には)紙飛行機くらいで十分じゃない?」と思えたんですよね。その腑に落ちた感じをそのまま曲にしました。

ーー「chelmicoは『リアル』なのか?」というラッパーの問いに対して、Rachelさんなりの回答は出たのですか?

Rachel:うーん……難しいですね。ただ、同じように感じている人ってすごく多いと思うんですよ。私は「ミュージシャン」と名乗っているけど、ギターも弾けないし簡単なコードが押さえられるくらい。ピアノも弾けないし、コード理論もわからない。フリースタイルができるわけでもない。周りには、いわゆる本物がたくさんいるんですよ。私に足りないものを全部持っている人が。

 そういう人たちは、揺るぎない自信とか、積み上げてきた文脈があって、「自分はジャンボジェットだ」と歌えるわけじゃないですか。たとえ虚勢でも、それを言い切れる強さ。それもカルチャーとしてすごく大事なことです。でも私は、それを堂々とは言えないタイプ。「私には言えないからこそ、これが私のリアルなんだろうな」 と思って書いたのがこの曲です。

ーーこの美しいメロディは、Rachelさんの中のどんな部分から出てきたものだと思いますか?

Rachel:……どこから来たんでしょうね。でも、この曲は珍しく最初に「鼻歌」でメロディが出てきたんです。普段は詞先(先に歌詞を書く)なんですけど、「紙飛行機」はほぼ同時進行で、メロディが先にスッと降りてきた感じでした。「歌ってみたい」と思ったんだと思います。

ーー少し切なくて、どこか童謡を彷彿とさせるノスタルジックな曲です。

Rachel:私が作る曲は、基本的に童謡っぽくしたい。子どもでも歌えるような、難しくない旋律。最近の曲ってテクニカルなメロディが多いけど、私は合唱曲にできるくらいのシンプルさがすごく好きで。ビブラートみたいな技術がなくても成立して、メロディそのものの良さで聴かせられるもの。耳にすっと馴染んで覚えられる感じ。自分が目指しているのは、そういうたたずまいのメロディなんだと思います。

ohayoumadayarou Rachel(撮影=Yasuda Madoka)

ohayoumadayarou Rachel(撮影=Yasuda Madoka)

ーー「惑星」の歌詞もとても好きです。惑星って、交わらなかったり、すれ違ったり、並走したり、それぞれの軌道を持っていて。そのイメージが、人間関係の出会いや別れと強くリンクしているように感じました。

Rachel:無理に追いかけるのではなく、「たまにすれ違えればいい」と思えるような関係ってありますよね。人間関係もそうですし、仕事も同じ。忙しいときは忙しいし、暇なときは暇。自分でコントロールできる部分もあるけれど、思うような評価や結果につながらないこともあって。

 「惑星」は、そういう「思い通りにならなさ」に対して、ポジティブな諦めーー前向きな意味での「しょうがないよね」という気持ちで書いた曲です。もちろん頑張りはするんですけど、必要以上に自分を追い詰めたくないし、「私が悪かったのかな」とか「あのときああ言わなければよかった」とか、誰かのせいにしたり、自分を責めすぎたり、そういうことをしたくなくて。

ーー今は「ゆっくり行こう」というモードなんですね?

Rachel:そうですね。自分ではコントロールできない領域で何かがうまくいかないとき、そこに執着せずに手放すことで、少し自由になれる気がする。人間関係も同じで、他人はコントロールできないからこそ、こういう距離の置き方があるんじゃないか、という提案にもなっているように思います。

もっと影響力を持つことができたら、その力を社会のために使いたい

ohayoumadayarou Rachel(撮影=Yasuda Madoka)

ーーXには、楽曲提供もしてみたいと投稿されていましたね?

Rachel:はい、すごくやりたい。最近「もっと音楽をやりたい」という気持ちがどんどん強くなってきていて。ラジオの仕事もめちゃくちゃ楽しいんですけど、やっぱり私の軸は音楽なんだな、と改めて思っています。自分で言うのもなんですが、私は案外いろいろできるタイプなんですよ。歌もメロディも作れるし、ディレクションもできる。プロデューサーとのコミュニケーションもちゃんと取れるし、時間も守る。機嫌で空気を悪くしないし、適当な仕事もしない。つまり、仕事相手としてけっこう信用できる人物なんじゃないかと(笑)。接待もできるし、お酒も強いし、場を盛り上げるのも得意です!

ーーohayoumadayarouというプロジェクトを、今後どういう形に育てていきたいと考えていますか。

Rachel:今後、もっともっと聴かれたい気持ちが強くなってきました。ライブももっとしたいし、歌も曲作りも見せ方も、全部もっと上手くなりたい。聴いてもらうために必要なことを、一つひとつ磨いていきたいと思っています。

 そして、もっと影響力を持つことができたら、その力を社会のためにも使いたいです。たとえば子どもが来やすいイベントを企画したり、ひとり親家庭の支援につながることをしたり。まずは自分の背景に近いところから手を伸ばしていきたい。

ーー日本では、音楽活動と社会活動をセットで考えるアーティストがまだあまり多くないですよね。

Rachel:いや、絶対みんなできるはずなんですよ。もちろん音楽だけで照らすのも素晴らしいけど、私はもう少し具体的な形で何かを届けたい。そういう思いがずっとありました。グッズ売上の一部を寄付するとか、本当に小さな一歩でもいい。そういうできることを増やしていくためにも、私はめちゃくちゃ売れたいんです。

■リリース情報
EP『そこにないもの』
2025年11月21日(金)
<トラックリスト>
M1. Crawl / M2. 玉ねぎ / M3. 西澄寺 / M4. 紙飛行機 / M5. 惑星

『そこにないもの』(LP)
2025年12月20日(土)リリース
品番:OHMD-001
価格:4,400円(税込)

<トラックリスト>
SIDE A : 1. Crawl / 2. 玉ねぎ / 3. 西澄寺 
SIDE B : 1. 紙飛行機 / 2. 惑星 / 3. mo osoi(Bonus Track) 

■関連リンク
<ohayoumadayarou>
X(旧Twitter):https://x.com/ohayoumadayarou
Instagram:https://www.instagram.com/ohayoumadayarou/
YouTube:https://www.youtube.com/@noobdrivedirectedbyrachelf6675
chelmico:https://chelmico.com/

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