Billyrromが目指すポップミュージックとは “素直さ”から生まれたEP『Jupiter=』と海外公演での刺激を語る

Billyrromが目指すポップミュージック

 Billyrromが新作EP『Jupiter=』を11月5日にリリースした。

 ここ1〜2年でライブの動員を大きく増やし、『SUMMER SONIC 2025』や『SWEET LOVE SHOWER 2025』といった国内の大型フェスはもちろん、海外でのフェス出演も増えてきている。2026年2月からは大阪、東京、ソウル、香港、上海、北京、台北の7都市を回る初のアジアツアー開催を控えている彼らだが、新作はその勢いだけでなく、音楽性の広がりと充実したクリエイティビティを示す一枚だ。

 グルーヴィなバンドサウンドで“未知への旅”を描くリード曲の「Unknown Island」や、アフロビートを導入したアッパーチューンの「Bon Voyage」、ハードなラップナンバーの「Stained Glass」など幅広い楽曲を収録。今回はメンバーを代表してMol(Vo)、Rin(Gt)にインタビューを行い、制作の背景はもちろん、バンドのアイデンティティ、そして海外でのライブやコラボレーションを通じて得た新たな価値観についても語ってもらった。(柴那典)

「衝動とか直感的なものを落とし込んだ時に、5曲が並び出た」(Mol)

――新作EP『Jupiter=』を聴かせていただいての感想なんですが、一言で言うと、Billyrromというバンドが“音楽探求集団”なんだということが伝わる作品だと思います。そこに意味があるし、動員やセールスも大事だけれども、Billyrromはこういうバンドなんだというアイデンティティを示すことって、今のタイミングだからこそより大事だったんじゃないか、と。そういう意識はありましたか。

Mol:まさしくですね。今言っていただいた全部に大きく頷きたいぐらいです。このEPを制作していくにあたって、僕らの現在地って何だろう、それを踏まえてもっと大きい括りでどうなっていきたいんだろうというのを、地元の喫茶店で5〜6時間ぐらいみんなで喋ったんですよ。そこで話したのは、やっぱり僕らが一番大事にしたいのって、今自分たちが表現してることに納得できてるかどうかだということで。動員も大事だけど、いわゆるバズるとかよりも、自分たちをちゃんと素直に表現できてるかというところが僕らにとっては一番大事なので。それを形にできたEPだというのは、自分たちでも思います。

Billyrrom Mol ソロ写真
Mol

Rin:『WiND』を作った去年は海外に行ったり、大きいフェスに出たり、全員にとって初めての経験がたくさんあった年だったんですけれど、今年は初めてのことは実は少なくて。自分たちって何なんだろう、自分たちの音楽、自分たちのアイデンティティって何なんだろうっていうのを、ちゃんともう一度俯瞰してみる機会だったと思います。だからこそ、『WiND』とか、その前の『noidleap』は自分たちの未来を語っていた作品だったんですけれど、今回のEP『Jupiter=』は現在に重きを置いている。そこから派生して過去とか未来も見えてくる。現在の中心にある作品だなって思います。

――地元の喫茶店でメンバーみんな集まったということですが、そういうのって結構やるような感じなんですか?

Mol:ポイントポイントでやりますね。今回みたいにひとつの大きい作品をバンドとして作るような時もあれば、たとえば新しいグッズのアイデア出し合おうよとか、そういうくだけた時もあります。みんなで話すとなると、そこが居心地が一番いいんですよね。

――「Funky Lovely Girl」と「Hold Me Tight」は先行リリースですけど、喫茶店で話したのは、それが世に出たくらいのタイミングでした?

Mol:「Funky Lovely Girl」が出て、「Hold Me Tight」の制作期間中かリリースされるかされないかくらいの時期だったと思います。

Billyrrom - "Funky Lovely Girl"【Official Music Video】
Billyrrom - "Hold Me Tight"【Official Music Video】

――なるほど。「Bon Voyage」とか「Unknown Island」とか「Stained Glass」とか、EPの収録曲って、音楽的には“守り”じゃなくて“攻め”の曲だと思うんです。そういう曲がどんどんできていった制作期間だったんじゃないか、と。

Mol:そうかもしれないですね。でも感覚としては「いろんなことやってみようぜ」というよりは、自分たちが表現したいことを素直にやっていった感じでした。“素直”というのがキーワードだったと思います。頭で考えて何かを生むよりも、衝動とか直感的なものを音に落とし込んだ時に、あの5曲が並び出たみたいな感覚なんですよ。

「ポップの本来の意味を問いたい」(Rin)

――もともとBillyrromのメンバー全員、ミュージックラバーだし、仲はいいがバラバラな趣味嗜好があるわけで。そういうバンドのあり方に素直になったらこうなる、みたいな。

Mol:まさにそういう感じですね。よくみんなで話すんですけれど、僕らには「ポップミュージックをやりたい」というのが根底にずっとあるんです。ただ、ポップミュージックを作ろうとして作ることはしたくない。今の自分たちのトレンドとか、バンドのムードだったり、好きなカルチャーだったりとかをアウトプットしたもの、そのエネルギーの集約が人に届いて、それがポップになるっていう出来事だと思うので。そっちに重きを置いているというか。バンドとしてもそれが形にできたのはすごく大きかったですね。

――Rinさんはどう考えますか? ポップミュージックとは、みたいなことについて。

Rin:「ポップとは何か」って言われたら、自分はジャンルじゃないと思ってます。ポップミュージックというジャンルのようなものより、ポップの本来の意味を問いたいという感覚はバンド全体としてありますね。それこそマイケル・ジャクソンは「キング・オブ・ポップ」と言われていたけれど、マイケル・ジャクソンの曲って、ジャンルとしてポップミュージックに当てはまるかと言われたら、それは違うかなと思ってて。でも、それがポップである。その時代を象徴する音楽がポップであるべきだから。自分たちの音楽がそうなりたいよねっていう感じはあります。

Billyrrom Rin ソロ写真
Rin

――これは僕なりのポップミュージックについての捉え方なんですけど、2つの方向性があると思うんです。ポピュラー、すなわち大衆性というのがキーワードである上で、その大衆にアプローチする時に“寄り添う”と“連れていく”という2つのアプローチがある。

Mol:なるほど。そうですね。

――“寄り添う”というのは、きっとこういうのがわかりやすいだろう、こういうのが求められているだろう、共感されるだろう、という発想。それはポップスとしての正しいアプローチのひとつ。で、もう1つの“連れていく”というのは、大衆にアプローチせず、むしろすごく輝いているものを作って、それに大衆が引き寄せられて、結果的にみんなが好きになる。Billyrromには両方の発想があると思うんです。その上でこのEPには後者の発想が入っているなと思いました。

Mol:本当にそうです。まさに2年前の『noidleap』の時にそういう話をみんなとしていました。そうなっていきたいねって。

Rin:このEPは、どっちも入ってるなと思います。自分たちの感覚では「Funky Lovely Girl」は、聴いた人が感情移入できる曲だし、寄り添う形のポップミュージックとして作っていて。で、その曲ができた後に、喫茶店での話し合いがあって。そこでいろいろポップミュージックとしてのあり方を話して。それで、自分たちが連れていく、自分たちの音楽がポップミュージックになるっていう考え方を持った時に完成した曲が、このEPのリード曲の「Unknown Island」だという。その2つの考え方がEPに入っていると思います。

――「Unknown Island」は歌ってる内容も曲のムードも、まさに「未知のところに連れていくぞ」という曲になっていると思います。これはどんな感じで作っていった曲なんでしょうか。

Mol:最初からスケールの大きいイメージはみんなにありました。どこかに向かって進んでいくような雰囲気だったり、そういう世界観だったりを持った段階で楽曲の制作が進んでいって。そこに、Rinが書いた歌詞が合わさった時に、すごくピースが合致した感じがしました。

――曲調は全然違うんだけど、なぜかDaft Punkっぽい感じがちょっとありました。『Discovery』(日本盤)の松本零士のジャケットも含めた宇宙感というか。

Mol:そのイメージはあった気がしますね。フューチャー感というか、トリップ感というか。このバンドは始まった時から非日常的なものとか神秘的なもの、未知のものに惹かれる傾向があるので。そこも素直に表現できたなって思います。

Billyrrom - "Unknown Island"【Official Music Video】

――「Bon Voyage」はどうでしょうか。これはアフロビートを意欲的に取り入れてる曲だと思うんですけど、この方向性はどういうところから?

Mol:これは、盛り上がる曲、いわゆるアッパーチューンをEPに入れたいねみたいな話をしていて。最初はロック調なものにトライしてたんです。何曲か候補のデモをあげたんですけど、どれも歯がゆいというか、しっくり来なくて。僕がその時ちょうどアフロミュージックをすごく聴いていて。フェラ・クティからEzra Collectiveまで幅広く聴いてる中で、アッパーってこういうベクトルでもいいなと思ったというか。そこが好きだし、シンパシーがあったので。そのアイデアから僕が最初のさわりだけデモを作ってみんなに投げたら気に入ってくれて。そこから派生させていって広がった曲でした。

――単なるアフロビートの曲じゃなくて、途中でディスコっぽい4つ打ちになったり、1のアイデアがバンドの中で咀嚼されていく感覚の曲でもありますよね。

Mol:まさしく。それが一番うまくできたというか。僕がデモを作った段階は「これポップスなの?」みたいな、やりたい放題やって逸脱するような仕上がりだったんですよ。それをバンドのメンバーで噛み砕いた。主にLeno(Key/Syn)がアレンジで力を発揮してくれたんですけど。やっていく過程で、ちゃんとサビもブリッジもあって、大衆性を意識した仕上がりになった。面白い曲ができたなとは思います。

Billyrrom ライブ写真

――「Stained Glass」はラップナンバーですが、これはどういう風にして作ったんですか?

Rin:この曲のトラックは自分以外のメンバーで作ってもらって。2曲ぐらいリファレンスがあったんですけれど、どっちも80年代あたりのオールドスクールなラップナンバーを基盤にした曲を自分が投げて。それでサウンドを作ってもらいました。

――Rinさんがラップをやろうと思ったのはどうしてなんでしょう?

Rin:ラップは、そもそも楽器をやる前から自分のルーツにあるもので。幼少期とか、RIP SLYMEがずっと好きで聴いていたし、コピーもしていて。そこからずっとラップを聴いているし、バンドサウンド以前に自分のルーツとしてあるんです。だからBillyrromの中でラップをしたいというのは自然な流れで。自分たちの今を示すEPでもラップをちゃんとやりたいなと思いました。

――ラップミュージックにもいろんなスタイルがあるわけですけれど、この曲ではどういうものをイメージしましたか?

Rin:そもそも自分が聴いてたRIP SLYMEって、意外とちゃんとした生のバンドサウンドで、だからこそバンドやりたいと思った部分もあるんですよね。ラップの曲としてはこれが3曲目で、「Flower Garden」と「CALL, CALL」はドラムも打ち込みだったんですけれど、ちゃんと生の音に乗せてラップをしたいというテーマがありました。Yuta Hara (DJ/MPC)もその年代のヒップホップが好きですし、DJという楽器を活かしつつ、生の音で、しかもメロディを入れるんじゃなくて、ちゃんとリズミカルなラップのナンバーを作りたい。それでこの形を選択した感じですね。

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