牧野由依の20年、訪れたいくつもの転機 変化がもたらした“再会”の奇跡――道のりのすべてを語る

喉を壊した“最悪”な最中に訪れた三浦祐太朗との出会い、そしてたどりついた20年

――ほかにも転機になった曲はありますか?
牧野:かの香織さんに書いていただいた「きみの選ぶみち」ですね。この曲、2015年にインペリアルレコードからリリースしたのですが、実はエピック時代に制作を始めていたものだったんです。その頃から、ライブでは「未来へのうた」という仮タイトルで披露していて、でも音源にはなっていなかったので、ファンの方のあいだでは何年間も“謎の曲”と呼ばれていたそうで(笑)。移籍するなどもあったのですが、この曲をどうしてもリリースしたくて、自分でいろんなところに交渉してずっと調整を進めていたんです。いろいろな変化が目まぐるしくあった時期で、そんななかで「謎の曲」と呼ばれていた楽曲を、やっと名前を持って世に出すことができる。その時に「これは由依ちゃんの曲だから」と、あたたかく託してくださったかのさんのお気持ちがすごく心に沁みましたし、リリースできないかもしれなかったことも含めて自分の気持ちが凝縮したような曲で、盤になるまでのプロセスを全部自分で見てきたので、ミックスの音を聴いた時は涙が止まらなくて。リリースに対して、ここまで一生懸命「何としてでも」と訴えたのは初めてだったので、自分的には転機だったと思います。
――デビュー10周年のタイミングで発表された楽曲でしたが、そんな経緯があったとは。
牧野:2018年にリリースしたアルバム『WILL』(2018年)も、自分にとっては大きな転機の作品になりました。このアルバムは声帯の治療による活動休止からの復帰タイミングで出した作品で、歌うことに対してもう一度向き合い直す機会になったんです。私はそれまで、声って当たり前に出るものだと思っていたんですけど、本当にまったく声が出なくなったんですよね。声帯から出血してしまって、内視鏡で確認できないくらいまわりも充血していて、かなりひどい状態でした。お医者さんにはちゃんと元に戻るかもわからないと言われて、完全に治るまでに3年ぐらいかかったんです。だから『WILL』の時の声と今の声もまた違うんですよ。このアルバムを作る時はリハビリもしながらだったので、「歌うってすごいことなんだな」「声は本当に楽器なんだな」ということを認識した制作期間でした。
――大変な経験でしたね。
牧野:でも、喉を壊した最悪の状況のなかで、ひとつだけよかったと思えることがあるとすれば、うちの主人(三浦祐太朗)との出会いのきっかけだったんですよ。その前から知り合いではあったんですけど、三浦さんもその年のあたまにちょうど喉を壊されてて、「新しい歌い方を得た」と答えているインタビュー記事を読んだんです。それで「どうやって得たんだろう?」と思って。どうやってそのマインドに持って行けたのか、あるいはいいボイトレの先生や病院を知ってるかもしれないと思って、連絡を取ったのがきっかけでした。
――ひとつだけのよかったことというのが、とてつもなくデカいですね(笑)。
牧野:たまたまTwitter(現X)で相互フォローしていたのでDMを送って、「食事でもしながら話しますか」ということで集まったのに、私はそのまま朝5時くらいまでウィスキーをガンガン飲んで(笑)。そこで主人は面白いと思ってくれたみたいです。当時は『アイドルマスター シンデレラガールズ』(牧野は佐久間まゆ役で出演、三浦は本作の大ファンとしても知られる)が好きなんて1ミリも言ってなかったんですけどね(笑)。
せっかく20周年を振り返るなら、“みんな”のほうが楽しいですから
――(笑)。でも、“再会”というキーワードで言うと、2022年のミニアルバム『あなたとわたしを繋ぐもの』の収録曲「世界でいちばん愛しい音」は、ご自身で作曲され、岩井俊二監督に作詞していただいた、まさに“再会”の楽曲ですね。
牧野:娘が生まれたタイミングで書いた曲で、「家族で作った」みたいな感じの温もりのある曲にしたかったんです。幼い頃からお世話になり父のような存在の岩井さんに歌詞を書いていただきたくて。アレンジは、どんな曲ができあがっても絶対に受け止めてくれるであろう滝澤(俊輔)くんにお願いしたいと、曲を作る前から決めていました。出産前に曲を書いて提出していたんですけど、ずっとボツになってしまって。それでタッキー(滝澤)に愚痴を聞いてもらったりもしていました(笑)。最終的にOKが出たのは、出産してから2週間くらいのタイミングで、子供を抱きかかえながら打ち込みをして作った曲です。パソコンの前に座って、キーボードと哺乳瓶を置いて(笑)。だからこそ、あのメロディになったのかもしれないですけどね。
――「世界でいちばん愛しい音」というタイトルにはどんな想いが?
牧野:直接的には言っていないんですけど、このタイトルには“鼓動”という意味を込めていて。もともとは曲名も「鼓動」にするつもりだったんですけど、力強い感じではなく、もっとマイルドにしたいなと思って、出てきたのが「世界でいちばん愛しい音」。胎動が出てくるまで、日常的に赤ちゃんとのつながりを確認できるのは心音しかなかったんですよね。なので妊娠中、エンジェルサウンドという赤ちゃんの心音を聴ける心音計で、ずっと聴き続けてた音。それが私にとっての「世界でいちばん愛しい音」でした。
――素敵なお話をありがとうございます。さて、そういった経験を経て、アーティストデビュー20周年のアニバーサリー楽曲を制作されるわけですが、今はどんな思いや構想がありますか?
牧野:今まではアニバーサリーで曲を作るとなっても、自分で書くという選択肢を積極的には持てなかったんです。でも、「世界でいちばん愛しい音」を作らせていただいて、「曲を作るのって楽しいのかも?」と思うようになって。実は今度、別件でとある番組用に私が歌う曲の作詞作曲をやっていて、そこでも曲を書く楽しみがひとつ叶っているんですよね。だから、次の20周年の曲は「自分でやってみたいな」という気持ちに変わっています。今までにあまりなかったことなんですけど。楽曲としては、これまでの道のりを全部描こうとまでは思わないですけど、聴いた時に昔の自分の環境とか感覚を思い出せるような曲、「牧野由依のこんな時代あったな」というのが明確に浮かぶような、一緒に20年を歩めるような楽曲を作れたらいいなと思っています。でも、ファンの皆さんはとても優しくて想像力が豊かなので、どんな曲を書いても絶対それを想像してくれるんですよね。甘えつつ、振り返る心情で書けたらいいかなって。
――最後に、2026年8月11日に浜離宮朝日ホールで行う20周年の締めくくりとなるライブ『Yui Makino 20th Anniversary LIVE ~I LOVE YOU So Much!!~』への意気込みをお聞かせください。
牧野:私がデビューしてから初めてコンサートをやった場所が、府中の森芸術劇場ウィーンホールという、グランドピアノがあるクラシックホールだったんです。だから今回もホールでやりたいこだわりがあって。浜離宮朝日ホールは、ウィーンホールに通じるものがあると思うので、当時のコンサートにきてくださった方は、その姿をふと思い出せる時間を作れたらいいなと思っています。それとバンドの皆さんにもきていただきますが、ピアノでの弾き語りもやりたいなと。この前のライブでやった滝澤くんとの20周年スペシャル連弾メドレーも、またやろうかなって話しています。このあいだは、限られた人数の方にしか聴いていただけなかったですし、せっかく20周年を振り返るなら、“みんな”のほうが楽しいですから。ぜひ楽しみにしていてください!
※1:https://realsound.jp/2025/08/post-2132354.html
■公演情報
『Yui Makino 20th Anniversary LIVE ~I LOVE YOU So Much!!~』
2026年8月11日(火・祝)浜離宮朝日ホール
OPEN 16:15/START 17:00
<チケット>
チケットぴあ先行受付中:https://w.pia.jp/t/yuiyuimakino-t/
料金:8,800円(税込/全席指定)
枚数制限:お一人様4枚まで(4歳未満入場不可)
牧野由依 オフィシャルサイト:https://www.yuiyuimakino.com/
X(旧Twitter):https://x.com/yuiyui_makino
STAFF X(旧Twitter):https://x.com/makino_niceeeeY
Instagram:https://www.instagram.com/yui_makino0119/



















