牧野由依の20年、訪れたいくつもの転機 変化がもたらした“再会”の奇跡――道のりのすべてを語る

牧野由依、訪れたいくつもの転機

水木一郎「ずっと大事に歌いなさい」――牧野由依に転機をもたらした楽曲たち

牧野由依(撮影=はぎひさこ)

――創作の話に繋げると、1stアルバム『天球の音楽』(2006年)の収録曲「幸せのため息」で、初めて作詞だけでなく作曲も担当しました。

牧野:これは今だから話せるのですが、当時は父(作曲家の牧野信博)が家にいたので、実は父の手も借りて作りました(笑)。メロディを歌って「このメロディだとコードはどうなるの?」って聞くと、「たぶんこのコードになるから、この和音のなかで作ってみたらいいんじゃない?」みたいにアドバイスをもらって。おそらくディレクターさん的にも、困ったら家に助けてくれる人がいるだろう、っていう見越しがあったんだと思います。なのでコードを打ち込むのは確か父にやってもらって、メロディは全部自分で弾いて提出した覚えがあります。

――その時はどんなテーマで作ろうと?

牧野:本当に何の縛りもなかったので、自由への不安をとても感じた記憶があります。当時はまだ学生で、いただいた球を打ち返す生活をしているなかで、縛りがないことに対して逆にすごく不安だったんですよね。それで「どうしようかな?」と考えるなかで、サビのメロディが何となく浮かんできて。陽気な感じになりそうだったのですが、私、性格が天邪鬼なので、陽気なメロディに対してダークな歌詞を乗せたくなるんです。それで、すごく浮かれてるように見えて、実は状況がひどい感じの恋愛の物語を乗せてみたら、意外にもOKをいただけて……。

 そういえばあの曲ではウーリッツァー(エレクトリックピアノの一種)を自分で弾いているんですけど、そういう経験も初めてでした。それまでにもピアノをレコーディングで弾くことは何度かあったのですが、音の感じもタッチも全然違っていて。電子楽器なので、工具を使って半田付けみたいな感じでコンディションを整えるんですよね。すごく面白い経験でした。

――あらためて、これまでの20年の歩みのなかで、ご自身にとって転機となった楽曲は何になりますか。

牧野:それこそ「オムナ マグニ」から「アムリタ」「ウンディーネ」に至るまでは、全部がターニングポイントという感じです。「オムナ マグニ」はそもそも人生の転機になった曲ですし、「アムリタ」はやっぱり『ツバサ・クロニクル』という作品の存在が大きくて。今でもライブで歌わせていただいていますし、海外でも、最後にブレイクが入って「アームリター♪」と歌うところで、フライングして私よりも先に「アームリター♪」と気持ちよく歌ってくれる人がいるくらい人気なんです(笑)。水木一郎さんとご一緒した際に「『アムリタ』は素晴らしい曲だから、ずっと大事に歌いなさい」と言ってくださって、より大事に歌っていきたいなと思った曲です。

 2ndシングルの「ウンディーネ」は、それこそ『ARIA The ANIMATION』シリーズとの出会いの曲で。今まさに20周年記念コンサート(『ARIA The CONCERT 2025~20年に1度の奇跡~』)のリハーサル中(取材は10月初旬)なのですが、まさか20年経っても歌っている未来があるなんて、当時は全然予想してなかったですし、2021年には再録(『ウンディーネ ~2021 edizione~』)もしたりして。人生が輝きながら目まぐるしく変わっていった瞬間の3曲という感じですね。

“再会”が繋いだ人生と音楽の輝き「音楽がもたらすご縁を感じます」

牧野由依(撮影=はぎひさこ)

――デビュー当初から大きな出会いに恵まれていたんですね。

牧野:次に転機となったのが、エピックレコードに移籍して最初に発表したシングル『ふわふわ♪』でした。当時のディレクターさんやスタッフさんたちと話し合って、それまでとは方向性をガラッと変えたデジタルポップな楽曲にチャレンジしたんです。高野(健一)さんと初めてご一緒して、恋愛ソングにしましょうということで、私の恋愛遍歴についてもヒアリングしてくださって。なので、この曲の歌詞には実体験も盛り込まれています(笑)。

 でも、リリースした当時はすごく不安でしたね。それまでの活動でできあがっていた“アーティスト・牧野由依”のイメージについてくださっているファンの方たちから、どんな反応があるのか。はじめこそ驚かれていたみたいですが、今となっては人気曲になっています。結婚式場(メルパルク仙台)のCMソングだったので、それまでとは別の方向からの広がりもありましたし。あと、この曲のリリースイベントにきてくれていた当時中学生だった女の子が、今は声優になって、お仕事でご一緒した時に「実は……」と教えてくれたことがあって。

――へえ! それも長く活動を続けているからこそのご縁と言いますか。

牧野:はい。ほかにも現場でご一緒するいろんな声優の方に「あの曲、聴いてました」と声をかけていただくことが多くて。なんだかこっぱずかしい思いもなくはないんですけど(笑)、これも続けていないと味わえない再会というか出会いなので、音楽がもたらすご縁を感じます。それで言うと、以前にディズニーのカバーアルバム(『Disney Glitter Melodies』)でSerphさんとご一緒したのですが、私のデビューシングルのカップリング曲「ジャスミン」が大好きで、お声がけしてくださったらしいんです。「いつか絶対にご一緒したくて、虎視眈々と機会を狙っていました」とおっしゃっていました(笑)。

――牧野さんはフィーチャリングボーカルや歌のお仕事も多いですもんね。2024年には、Aiobahnさんの楽曲「non-reflection」に参加していました。

牧野:Aiobahnさんも私の曲を聴いてくださっていたみたいで、ライブイベントでお会いした時に、具体的な曲名を挙げて「好きです」と言ってくださって。いろんな楽曲がそういうご縁をもたらしてくれています。

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