SUKEROQUEが描く、旅立ちの希望と不安 アンビバレントな感情をポップに昇華した「雪国」という新境地
“非東京”をテーマにした歌詞をニュージャックスウィング系のサウンドに乗せた「OYKOT」、“物価高と低収入のダブルパンチを食らいながらも楽しく生活してます!”とでも言うようなダンスチューン「滞納」と、2025年に入ってからも快調なアクションを続けている、シンガーソングライター SHOHEIのソロプロジェクト SUKEROQUE。R&B、ソウル、ロックなどを自在に取り入れたミクスチャーサウンド、聴く者の感情を揺さぶるボーカリゼーションでじわじわと注目度を高めているSUKEROQUEだが、10月に入ってリリースされた最新曲「雪国」は、これまでリリースしてきた楽曲とは一線を画すナンバーだ。
最初に断っておくが、この曲は“雪国”(≒新潟や北海道などの豪雪地帯)のことを歌った曲ではない。そうではなくて、〈雪国の娘になってみたい〉などと愚にもつかないことをぼんやり思っている〈僕〉が、いろんなものが溢れているのに何もない〈ココ〉から出ていく前日のことを描いた“旅立ちの歌”なのだ。
どうやら〈僕〉には何かやりたいことがあるらしい。あるらしいのだが、一直線に「絶対にやってやる!」とはならず、何となくつまらない仕事をしながら日々を費やしてしまっていたようだ。いろいろあってとりあえず〈明日僕は旅に出る〉と言ってみたものの、不安ばかりが胸を覆い、どこか煮え切れない。そして最後に〈僕〉はこう歌う。〈戻れない戻れない人生だから 永いグッバイを〉と。
実際のところ「やりたいことをやるべきだ」とか「一度きりの人生、全力で生きろ」と言われても、それを実行できる人はおそらくほとんどいない。多くの人はごちゃごちゃと心の中で言い訳し、誰かに(何かに)与えられた居場所からなかなか動けず、遠慮や忖度を繰り返しながら日々をやり過ごしている。さらに問題なのは、心の中にある“やるべきこと”をそのままにしておくと、いろんなところに歪みが出てしまうということ。その根底にあるのは、新たな場所に旅立つときの希望と不安。ポジとネガが自分の中で渦巻きながら、しかし、どうしても行かなくちゃいけないという焦燥に突き動かされる。そういうアンビバレントな状態がきちんと感じられるからこそ、この曲はリスナーの感情を揺り動かすのだろう。
と、こんなふうに曲の内容を説明すると(筆者の妄想も多分に含まれているので、実際に曲を聴いて確かめてみてください)暗そうな感じだなと思われるだろうが、「雪国」を聴き終えた感触はとても爽やかで、気持ちがいい。サウンドの基調は、シンプルな8ビートと軽快なギターサウンド。切なさをまとったピアノや透明感のあるコーラス、転調を交えたコード構成を含め、耳当たりのいいポップチューンへと導いているのだ。憂いを帯びたリリックをどこまでもポップに昇華する。この対比もまた、SUKEROQUEの音楽的な特徴の一つだと思う。
1980年代の邦楽ロックのテイストも感じられるサウンドの中でSUKEROQUEは、抑制を効かせたボーカルを聴かせている。慣れ親しんだ街並みへの名残り、新たな旅立ちに対する想い、そして、決してプレイバックできない人生に向けられた諦念。様々な感情のニュアンスを同時に感じさせる表現力は、ここにきてさらに向上しているようだ。最後の最後まで決して大げさにならず、どこか淡々としたテンションを保っているのも心地いい。
2025年を通して行われているハヤシライフとの共同主催イベント『Soulfood Brotherhood』も盛況。8月22日には下北沢SHELTERでの公演を終え、11月16日には同じく下北沢SHELTERにて同イベントの東京での最終公演が予定されている。楽曲のリリースやライブを重ねる中で、自らの音楽性を広げ続けているSUKEROQUE。音楽マニアを唸らせると同時に、趣味趣向を超えたポップネスを備えた彼の音楽はここから、さらに幅広いフィールドに浸透することになるはず。本格的なブレイクは目の前だ。
◾️リリース情報
SUKEROQUE「雪国」
10月8日(水)リリース
配信:https://big-up.style/lLSZ5xIByi
◾️ライブ情報
『Soulfood Brotherhood 5th MATCH』
日程:11月16日(日)
場所:下北沢SHELTER
イープラス2次先行:10月6日(月)12:00~13日(月)23:59
【受付URL】https://eplus.jp/sukeroque/