炙りなタウン、弱さに寄り添いともに戦う“本音の熱狂” 最大規模のワンマンに挑んだ『かかあ炎天下』

炙りなタウン『かかあ炎天下』レポート

 岡山の3ピースバンド・炙りなタウンは、今、人生の真夏を迎えている。今年3月に岡山 CRAZYMAMA 2ndRoomで初のワンマンライブ『かかあ天下』を開催した彼女たちは、東京、愛知、福岡でも『かかあ天下』を開催。7月9日には現体制初のフルアルバム『炙りなタウン② -最終兵歌を口ずさむ-』をリリースし、現在は来年1月まで続く全国ツアーを行っている。

 ツアー初日の渋谷 CLUB QUATTRO公演(8月29日)は、東京では2回目となるワンマン。『最終兵歌を口ずさむツアー かかあ炎天下編』と銘打って、自身のワンマン史上最大規模の会場に挑戦した。そんな挑戦を観客に「見守って」「見届けて」ではなく、「一緒に挑戦してください」と伝える姿が印象的だった。

炙りなタウン ライブ写真
ゆきなり(Gt/Vo)

 なぜ「見守って」「見届けて」ではなく「一緒に挑戦して」なのか。メンバーは、身をもって理解したのだ。ワンマンとは、フロアのみんなとの対バンなのだと。予定調和とか生ぬるい考えはいらない。ライブバンドである自分たちの血が滾るのは、“炙りなタウン vs 炙りなタウンが好きな人”という関係性が実現した瞬間なのだと。

 ただし、この“vs”は対立を意味するものではない。3人は、大好きな音楽を聴いたあなたの笑顔や涙の美しさをステージからずっと見てきた。その純粋な輝き、オーディエンス一人ひとりのカッコよさを知っているからこそ、ライブハウスでは躊躇うことなく、自分自身をさらけ出してほしいと求めるのだろう。

炙りなタウン ライブ写真
しおきち(Ba/Vo)
炙りなタウン ライブ写真
めぐぞう(Dr/Cho)

 炙りなタウン自身もまた、全力でステージに向かっていく。観客の前に現れたゆきなり(Gt/Vo)は、楽器を構える前に胸に手を当て、呼吸を整えた。いつもより広いライブハウスということで、緊張しているのかもしれない。そして、しおきち(Ba/Vo)、めぐぞう(Dr/Cho)とともに最初の一音を鳴らす。緊張を振り払うような前のめりなスタートは、心のままに音楽を鳴らす彼女たちらしかった。

 炙りなタウンの楽曲の歌詞によく出てくる――そしてアルバムやツアーのタイトルにも掲げられている“最終兵歌”という造語が象徴するように、ゆきなりにとって歌は、この世界と戦うための武器だった。自分にとって大切なものを軽んじられたり、傷つくようなことを言われたりしても、言い返すことはできず、その場の空気に合わせてしまう――10代の頃に抱いていた閉塞感がパンクロックの精神性と結びつき、やがて炙りなタウンが誕生した(※1)。この日も披露された楽曲「ゴキブリ人間」で〈つまらんのは毎日じゃなくて僕の方だった〉と歌っているように、ズレているのは自分であり、いっそ自分がいなくなった方が話が早いと思ってしまうような、繊細な心の持ち主だが、ライブハウスでは大きな音を鳴らし、本心を歌うことができた。

 そんな彼女が一人で歌う姿を見て、一緒にバンドをやろうと決めたしおきち。この日「必殺」と書かれたTシャツで臨んだめぐぞう。2人もまた「音楽があれば強くなれる」という感覚で、戦うような気持ちで、音楽を鳴らしているのだ。そんな背景を持つ3人は、がむしゃらに楽器を掻き鳴らしながらも、炙りなタウンの音楽に何かを感じ、ライブハウスに集まった観客一人ひとりの人生に想いを巡らせる。ライブ序盤の「プルースター」では、ゆきなりが歌詞を〈一人部屋で炙りなタウンを聴いて紛らわすのさ〉〈そんなことより大事な金曜に炙りなタウンを選んでくれて大事件だ〉と変更。この日のライブを楽しみに1週間を乗り越えた人たち、炙りなタウンの音楽を聴いて人生を頑張ってきた人たちを温かく迎え入れるようなアレンジだ。

炙りなタウン ライブ写真

 続く「桜花」でゆきなりが〈やらかしにいこうぜ!〉と投げかけると、観客が拳を上げて応じる。「隣の人と結託してもいいし、一人ぼっちになってもいいから、自分自身の“カッコいい”で戦いに来てください。よかったら炙りなタウンに勝ちに来てください」。そんなMCからも、炙りなタウンの観客に対する想いは伝わってきた。

 そしてゆきなりは、炙りなタウン史上最大規模のワンマンに挑む今の心境を「めっちゃ緊張してる。告白の直前みたいな気持ち」と明かす。その上で、「告白、受けて立ってください。告白の成功する時間帯は、夕方の6時から23時らしい……やるなら今しかねえ!」と彼女らしい言い回しとともに、鉄板ナンバー「63円」へ。これにはフロアも大沸騰。場内に熱気が立ち込めるなか、ゆきなりは「今年の夏は日本が終わるって言われてたけど、結局終わってない。なんだ終わってないじゃんって不謹慎なことを思ったり……」と呟く。どうせ終わらないなら、何もせずにはいられないと言わんばかりに、3人はこの楽曲を熱く歌い鳴らした。

炙りなタウン ライブ写真

 この日、炙りなタウンは全26曲を披露。ステージから立て続けに楽曲が繰り出されるなか、フロアの温度はぐんぐん上昇。紅潮するメンバーの演奏もどんどん調子が上がっていく。めぐぞうが新しいビートを披露したことに気づいたゆきなりが「これ、どうやってノるん?」と笑ったり(リズムに合わせて声や拳を上げ始めた観客が頼もしかった)、「SING OR DIE」で「地獄に堕ちろ!」のシャウトや怒号のようなサウンドが轟いたり……印象深い場面がたくさんあった。

 ライブの終盤でゆきなりが「みんなは、占い好きですか?」と観客に尋ねた。ゆきなりは昔、占い師から「あんた、ミュージシャンに向いてないよ」と言われたのだそう。「『あんたはいいことも悪いことも含めて、人の感情を拾いすぎる。ミュージシャンは自分が一番って思ってなきゃダメだから』って言われて」と当時のことを振り返りながら、〈出来損ないのブルースが今夜も鳴っている〉と歌い始めた。この楽曲は「ライブハウス」だ。ゆきなりはそのフレーズを歌い終えたあと、「(占い師の発言に)そうだよなーって思って。天才がゴロゴロいる世界に凡人が紛れ込んでしまった」と語る。その後、メロディの続きを口ずさむも、「できるかなあ……」という呟きによって歌は中断。フロアから飛ぶ観客の声を受け取ってから、もう一度歌い始める。

炙りなタウン ライブ写真

 歌という確信に満ちた表現と弱気な心も隠さないMCの往復、そして観客の存在に支えられながら再び歌い始めるその姿に、ゆきなりという人間の在り方、炙りなタウンというバンドが積み重ねてきた日々が凝縮されていた。そして、ゆきなりは言い放つ。「向いてないからって言われて諦められる覚悟でここに立ってないっすわ!」。次の瞬間、想いをともにするしおきち、めぐぞうが楽器を鳴らして合流する。そうしてバンドによる演奏が再開。曲中ではゆきなりの「最終兵歌を口ずさもう!」という呼びかけに応え、観客が〈出来損ないのブルースが今夜も鳴っている〉のフレーズを合唱した。占い師に「向いていない」と言われ、自分のことを「凡人」だと思いながらも、ステージに立ち続ける。そんなバンドマンだからこそ、今を懸命に生きる一人ひとりの気持ちに寄り添うことができるのだろう。

炙りなタウン ライブ写真

 「岡山、炙りなタウン! あんたのバンドでした!」といういつもの挨拶とともに、メンバーは汗と笑顔を光らせながらステージを去っていった。ダブルアンコールまで続いたこの日の熱狂を見るに、炙りなタウンの人生の真夏はまだ始まったばかりで、これからも大きな挑戦を重ねていくのだろう。しかし、ライブの規模がどれほど大きくなろうとも、彼女たちは変わらず“あんたのバンド”であり続けるに違いない。一人ひとりの孤独や寂しさを想い、寄り添い、ともに戦う。そんな炙りなタウンが切り拓く未来を、もっと見てみたい。

※1 https://realsound.jp/2025/07/post-2080135.html

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◾️ライブ情報
炙りなタウン『最終兵歌を口ずさむツアー』
2025/09/22 (Mon) 千葉・千葉LOOK
2025/09/23 (Tue) 宮城・仙台FLYING SON
2025/09/25 (Thu) 東京・八王子RIPS
2025/09/30 (Tue) 大阪・心斎橋BRONZE
2025/11/02 (Sun) 京都・KYOTO MUSE
2025/11/07 (Fri) 広島・4.14
2025/11/15 (Sat) 北海道・札幌SPiCE
2025/11/21 (Fri) 愛知・名古屋HUCK FINN
2025/12/11 (Thu) 福岡・小倉FUSE
2025/12/12 (Fri) 長崎・Studio Do!
2025/12/19 (Fri) 神奈川・F.A.D YOKOHAMA
2025/12/28 (Sun) 岡山・YEBISU YA PRO
2026/01/12 (Mon) 茨城・水戸LIGHT HOUSE
2026/01/14 (Wed) 兵庫・神戸 太陽と虎
2026/01/23 (Fri) 福岡・LIVE HOUSE OP's
2026/01/25 (Sun) 香川・高松sound space RIZIN'
2026/01/29 (Thu) 東京・高田馬場CLUB PHASE

炙りなタウン オフィシャルウェブサイト

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