ソン・シギョン、国境を越えて感動を届けるバラードの皇帝――日本ミニアルバム『しあわせのかたち』全曲解説

韓国の国民的シンガーであるソン・シギョンが、9月17日に待望のミニアルバム『しあわせのかたち』をリリースする。前作『こんなに君を』から約2年ぶりとなる日本オリジナル作品は、すべて新曲、日本語で構成。四半世紀もの長きにわたり、“バラードの皇帝”として数々の名曲を生み出し、国境を越えて感動を与えてきた彼だが、今作では等身大の言葉を、そっと寄り添うようなあたたかい歌声でありながらもよりストレートに表現しているのが印象深い。収録された全6曲のサウンドとボーカル、世界観を通して、“歌手 ソン・シギョン”の魅力に迫りたい。
01. あなたに出会わなければ
『しあわせのかたち』のオープニングを飾るのは「あなたに出会わなければ」。作詞曲を担当した川崎鷹也は、「レコーディングを終えて楽曲を聞かせてもらった時、僕の仮歌をたくさん聴き込んで頂いたのだなぁと感銘を受けました」(※1)と語っている。それほどまでに世界観を明確に歌声で表現してみせたこのナンバーは、しっとりとしたトラックとともに別れた人への切ない気持ちを吐露。〈もう一度、逢いたいだなんて/言えない 言えるはずもない〉というフレーズがたびたび登場するが、歌うたびに異なる思いが浮かび上がるところに表現者のプライドを感じさせる。アコースティックギターの上品な響きが、過ぎ去った日々を懐かしく思い出す主人公を的確に描写。回想していくうちに感情を抑えきれない自分がいることに気づく様子を、抑制の利いたリズム隊で演出するあたりが心憎い。人生経験をある程度積んだ大人にこそ深く響く。
02. しあわせのかたち
2曲目は「しあわせのかたち」。この楽曲は漫画『コウノドリ』(講談社)とCO・OP共済のテレビCMソングとして7月中旬からお茶の間などで流れているので、すでに耳にしている人も多いはずだ。歌詞を手掛けたのは松井五郎。主にニューミュージック/ロック畑でキャリアを積んできたベテランだが、テレビドラマ『冬のソナタ』(KBS)でブレイクした俳優、パク・ヨンハの一連の日本オリジナルソングにも関わるなど、K-POPシーンでも実績がある。アーティストの特性を瞬時に見抜き、本曲でもソン・シギョンの人柄と重なる〈ぬくもり〉〈安らぎ〉〈優しい〉といったワードを散りばめてハートウォーミングな物語を構築。ピアノの流麗なタッチとアメリカンハードロック調の盛り上がりを融合したアレンジも、ポジティブに育っていく恋を明快に描く。年齢や性別を超えた魅力をこの曲は宿している。
03. 残月
言葉と言葉のあいだの余白に重きを置く日本語詞を海外のシンガーが歌いこなすのは、相当難しいと思う。しかしソン・シギョンは、冒頭の〈どんな言葉なら 君に届くだろう〉という一節で、いきなりリリカルな世界にリスナーを誘い込む。一音一音を慈しむように歌い、切ない恋心をピュアに表現するソン・シギョン。その歌声を聴くと、もはやK-POPやJ-POPといったジャンル分けが無意味だとすら痛感させられる。「純粋に歌い手としての可能性を追求したい、望みはそれだけ」という彼の真摯な思いもしっかり受け止められる楽曲である。ピアノとストリングスで織りなすスローバラードは、オーソドックスに感じられるかもしれないが、さにあらず。できるだけ音数を減らすことでピュア度を高め、同時に各フレーズから滲み出る気持ちを丁寧かつ美しく磨き上げた作編曲のZiyoonにも心からの拍手を送りたい。
04. メトロノーム
本作の顔となるナンバーは「しあわせのかたち」だが、ほかの収録曲も味わい深い。「メトロノーム」は、生楽器の音色を大切にした落ち着きのあるアコースティックポップ。ゆったりとしたリズムに身を任せるように〈なんでもないこと 全てが宝物〉と、何気ない日々の大切さを歌う。トレンドに左右されないこうした曲作りは、永遠の時を刻むかのようなメトロノームのイメージによく似合う。韓国のエンターテインメントでは、起承転結がはっきりとした作品が好まれる傾向にあるが、この曲は劇的な展開というよりも、自分たちのペースで歩いていくことの大切さを淡々と語り、しばしのあいだ感慨に浸るような感触に近いかもしれない。母国のオリジナルソングとは若干テイストが異なるナンバーでも自分の色に染めてしまう彼は、唯一無二の存在と言えよう。
05. 僕が代わりに
“母性を感じさせる”、“たおやかな”といった修飾語は、歌姫を評価する際に使われるケースが多いが、5曲目の「僕が代わりに」における彼のボーカルもそれと同じ味わいがある。特に〈Good Night〉〈どんな痛み、悲しみも/僕が代われたならいいのに〉といった歌詞から伝わってくる包み込むような優しさは、ソン・シギョンにしか表現できないものではないだろうか。サウンドメイクのほうも聴き逃せない。静かに始まり、弦楽器などを効果的に使って盛り上げていく流れは、雰囲気だけで作り上げてしまうとチープに仕上がってしまうこともしばしば。しかしこの「僕が代わりに」は、ボーカルの純度を上げることだけに集中したアレンジで、深遠な世界を生み出している。また、ジェームス・テイラーやビリー・ジョエルといったレジェンドシンガーソングライターの香りもそこはかとなく漂わせるところに、彼のルーツと美学を感じ取れる。
06. Separation
本作を締めくくるのは、「Separation」。日本語にすると、“別離”、“独立”、“離脱”という意味になる。松井五郎が提供した歌詞は、「しあわせのかたち」と同様に簡潔かつ詩情溢れる言葉で綴られているのが興味深い。かつて恋人と愛し合った日々を糧に前に進もうとする主人公を見事に描き切っている。メロディを書いたのは、ソン・シギョン本人。その強さは、人間の複雑な感情を瞬時に伝えられるのはバラードしかないとさえ思うほど。そして、やはり“歌の力”もこのうえなく感じられる。ピアノ一台による静謐な演奏で強調された美しいボーカルを聴くと、最も感動を与えるのは人間の声だと痛感させられる。
自分の歌を聴きたい人がひとりでもいれば、どこへでも駆けつける――。そのようなシンガーとしての真心を、スターダムにのし上がっても貫き続けてきたソン・シギョン。日本における活動で、自身の歌声をより深く感じ取ってもらいたいとナチュラルな日本語で歌う彼は、昔も今も“謙虚”や“誠実”といった言葉がしっくりくる。
新作『しあわせのかたち』は、時間をかけて国内外の活動で得たものを十分に活かしたナンバーがずらりと並ぶ。“バラードの皇帝”の魅力を堪能するにはこれ以上の作品はないだろう。10月5日にパシフィコ横浜 国立大ホール、10月7日にグランキューブ大阪 メインホールにて行われる単独公演『2025 SUNG SI KYUNG LIVE TOUR「A Song for You」』への期待も膨らむばかりだ。ソン・シギョンの表情豊かなボーカルは、より一層音楽を楽しむための“新たな扉”となるに違いない。
※1:https://news.kingrecords.co.jp/2025/07/41317/
■リリース情報
『しあわせのかたち』
発売中


購入URL:https://king-records.lnk.to/shiawasenokatachi
配信URL:https://king-records.lnk.to/shiawasenokatachi.st
<収録内容>
M1. あなたに出会わなければ
作詞・作曲:川崎鷹也/編曲:cloud
M2.しあわせのかたち
作詞:松井五郎/作曲・編曲:cloud
M3.残月
作詞:Mari-Joe/作曲・編曲:Ziyoon
M4.メトロノーム
作詞:Mari-Joe/作曲:Shin Ae An/編曲:cloud
M5.僕が代わりに
作詞:堀井亮佑/作曲:Kim Jong-Seo/編曲:cloud
M6.Separation
作詞:松井五郎/作曲:SUNG SI KYUNG/編曲:Ziyoon
■公演情報
『2025 SUNG SI KYUNG LIVE TOUR「A Song for You」』
・パシフィコ横浜国立大ホール
10月5日(日)開場 17:00/開演 18:00
・グランキューブ大阪 メインホール
10月7日(火)開場 17:30/開演 18:30
<チケット>
ローソンチケット:https://l-tike.com/concert/mevent/?mid=388049
チケットぴあ:https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=33290048
イープラス:https://eplus.jp/sf/detail/0146650001
ソン・シギョン 日本公式ファンクラブHP:https://ssk-purpleocean.jp
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