海外バズでも注目! ガールズバンド・ハク。「それしか言えない」でメジャーへ 着実な歩みと独自のポップセンスを徹底解説

ハク。 世界に届く独自のポップセンス

 2019年結成、大阪を中心に活動する4ピースバンド・ハク。が8月9日(=ハク。の日)にトイズファクトリーからメジャーデビューすることを発表。9月10日に第一弾シングル「それしか言えない」をリリースする。本稿ではハク。のこれまでの歩みを振り返り、「それしか言えない」から伝わる彼女たちのオリジナリティについて書いてみようと思う。

 僕のハク。に対する最初の印象は“いそうでいなかったバンド”というものだった。毎年8月9日に開催される対バンイベント『ハク。の日』に、去年はMONO NO AWARE、今年はドミコを呼んでいることからも伝わるように、彼女たちは王道のJ-POP/J-ROCKというよりは、少し捻くれた、オルタナ感のある、でもしっかりポップなバンドである。ほとんどの曲が高校時代に作られたという2022年発表の1stミニアルバム『若者日記』の時点では、まだ演奏もアレンジも初々しく、しかしギター/ボーカル・あいの作曲センスや独自の言語感覚を持った歌詞には可能性が渦巻いている、という感じだったが、河野圭がプロデュースで参加した2023年発表の1stアルバム『僕らじゃなきゃダメになって』では、彼女たちの個性が明確に表れていた。

 クリーン~クランチ主体で単音の反復フレーズを弾くなずなのギターは、MONO NO AWAREであり、そのルーツにあたるThe StrokesやVampire Weekendといった海外のインディロックともリンクし、あいのボーカルは高校生のときから好きだったという中村佳穂にも似た多彩な表情を見せる。それを支えるベースのカノとドラムのまゆによるリズム隊も一年半ですっかりたくましさを増した。ステレオミックスに遊び心を感じさせ、コーラスの要素も強まった「回転してから考える」、ダンサブルなビートの「ナイーブ女の子」、転調を用いた作曲センスが光る「直感way」、スケール感のあるミドルバラードの「無題」など、アレンジの幅も大きく広がっている。河野といえば宇多田ヒカルや森山直太朗といったJ-POPど真ん中の著名なアーティストとの仕事も多いが、ハク。との組み合わせという意味で思い出すのはねごととの仕事で、ねごともまた国内外のインディな音楽を愛するミュージックラバーだったことを思い出させる。

ハク。"回転してから考える" Official Music Video

 2024年には『ハク。の日』での共演を前にMONO NO AWAREの「かむかもしかもにどもかも!」をスタジオでカバーした動画がバズを生み、その影響は日本のみならず海外にも波及。近年J-POPに対する注目が世界的に高まっていたなかで、“早口言葉”をモチーフとした楽曲に日本語に興味を持つ多くの海外ファンが反応し、しかもそれをキュートな雰囲気の4人が洗練された演奏とアレンジで鳴らすという相乗効果が、このバズを生んだのではないかと考えられる。今年6月には韓国のフェス『Asian Pop Festival 2025』に出演し、同日に出演していたMONO NO AWAREのステージにあいが参加。9月には2010年から日本のバンドをカナダに紹介し続けている『Next Music from TOKYO』への参加も決定している。海外ファンの増加を今後の活動にどう繋げていくのかも楽しみな部分だ。

【ハク。Cover企画】MONO NO AWARE "かむかもしかもにどもかも!"

 2024年は単曲をリリースしながらライブ活動を続けてきたが、今年1月にリリースされた4曲入りのEP『Catch』を聴けば、ハク。がネクストレベルに達したことが伝わってくる。シンセを用い、ルッキズムに対する言及とも取れる歌詞が印象的な「奥二重で見る」、エフェクトを用いたサウンドデザインがユーモラスな「頭の中の宇宙」、『シナぷしゅ』(テレビ東京系)の12月のつきうたに選出された「あいっ!」もそれぞれいいのだが、最重要曲はやはり「dedede」だろう。

ハク。"dedede" Official Music Video

 得意の反復フレーズを用いつつもグッとBPMを上げ、推進力のあるドラムとベースがグルーヴを担うこの曲は、空間系エフェクトの多用から“浮遊感”という言葉で語られることの多かった彼女たちの楽曲のなかにあって、最も骨太で力強さを感じさせる一曲。反復フレーズとダンスビートの組み合わせという意味では、フレデリックの「オドループ」を初めて聴いたときのようなインパクトがあったし、タイトでグリッドに沿ったリズムはボカロ以降の感覚もある。〈あなた〉とのもどかしい関係性に対する心のざわめき、少しの焦燥感を速いBPMで表現しつつ、サビで鮮やかに転調する展開は痛快で、何度でもリピートしたくなる中毒性の高い名曲だ。

 メジャーからの第一弾である「それしか言えない」では、「dedede」で示した方向性の先で、さらなる進化を遂げてみせた。まず印象的なのが歪みを増したギターサウンドで、ワーミーを駆使した耳に残るフレーズはオルタナかつアヴァンなもの。なずながファンを公言する西田修大(君島大空合奏形態、アイナ・ジ・エンドやBialystocksらのサポートで幅広く活躍)にも近いものを感じる。さらには中盤に出てくるあいの早口な歌唱も大きな聴きどころ。「かむかもしかもにどもかも!」のようでもあり、ボカロのようでもあり、とにかくインパクト大だ。

ハク。"それしか言えない" Official Music Video

 〈「何か言ってよね」、知らないフリして〉〈時々、隠してた、たくさんの文字、落ちてる床に〉と歌う「dedede」にしろ、〈頭で話す ほとんど宇宙/そんな感じでは 何かがずれる〉〈大人になっても 向き合わなきゃね/弱さ そして強さ 変わらず宇宙よ〉と歌う「頭の中の宇宙」にしろ、近年のハク。の楽曲は自分の想いを言葉にすることの難しさ、コミュニケーションの難しさをテーマにした曲が多いように思う。「それしか言えない」でも自身の不安や孤独をうまく言葉にできないもどかしさがサウンドでも見事に表現され、かと思えば、中盤のパートで〈それしか言えない〉という言葉の背景にある想いを一気に吐き出すという、このアンビバレンツな感覚も非常にリアルだと思う。

 歪んだギターによる衝動的なサウンドからは、河野が初めてねごとの曲をプロデュースした「sharp ♯」を連想したりもしたが、もう一組連想したのがねごとと同世代のバンドである赤い公園だった。彼女たちはポップなメロディとオルタナ感のあるサウンドの組み合わせから、デビュー当時に“ポストポップ”というキャッチコピーがあったが、「それしか言えない」を聴くとハク。が2020年代の“ポストポップ”を体現しているように感じる。現在、後期赤い公園のボーカルだった石野理子はボカロとも接点の強いメンバーとともにAoooとして活動していて、この2組に同時代性を見出すことも可能だろう。2010年代はまだ海外との距離が遠かったが、現代においてはこの“ポストポップ”が新たなJ-POPとして海外に広まり、その旗手としてハク。の名が挙がっていくことにも期待したい。

■リリース情報
デジタルシングル「それしか言えない」
配信中
配信リンク:https://tf.lnk.to/SoreshikaIenai_Pre

ハク。
ジャケット写真

■関連リンク
公式サイト:https://hakumaru.com/
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