『もののけ姫』『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』……宮﨑駿の“作詞家”としての顔、ジブリの世界を拡張する言葉たち
8月29日、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)にて『もののけ姫』が放送される。
『もののけ姫』は1997年の公開当時、それまでの日本映画の興行収入記録を塗り替えた大ヒット作品である。同時に、米良美一が歌う映画の主題歌「もののけ姫」も反響を呼んだ。
楽曲「もののけ姫」は、これ以外にも多くのジブリ作品に携わっている久石譲が作曲、そして、宮﨑駿監督が自ら作詞を手掛けている。ほかにも、『天空の城ラピュタ』(1986年)のエンディングテーマ「君をのせて」や、『となりのトトロ』(1988年)のエンディングテーマ「となりのトトロ」なども彼が作詞した楽曲だ。おそらく、映画とともにこれらの楽曲に慣れ親しみ、なんとなく口ずさめる人も多いのではないだろうか。
アニメーション映画監督として知られる宮﨑駿だが、“言葉”を扱うことにも長けているのだと、彼が作詞した楽曲を聴くとあらためて感じる。たとえば、「もののけ姫」は1番しか歌詞がなく、以降はハミングで同じメロディをなぞっていくのみ。だが、それでも映画のストーリーやキャラクターの心情が的確に表現されているのだ。歌い出しの〈はりつめた弓の〉からは弓術に優れた主人公・アシタカが連想され、その直後の〈ふるえる弦よ〉からは彼が緊張感を伴って弓を構えている画が浮かぶ。その後に登場する〈そなたの横顔〉に当てはまる人物は、おそらくヒロインのサンだろう。『もののけ姫』は森と人の争いを描いた物語であり、〈悲しみと怒りにひそむ まことの心を知るは/森の精 もののけ達だけ〉と、アシタカの切ない心情を綴ったような歌詞が続いていく。映画の世界観を少ない言葉で描写する宮﨑駿の手腕が冴え渡っている楽曲だ。
「君をのせて」は宮﨑駿の詩をベースに、高畑勲と久石譲が楽曲にあわせて歌詞を制作したものだという。冒頭の〈あの地平線〉という言葉から、地上と空とで繰り広げられる『天空の城ラピュタ』のストーリーが想起される。メロディはどこか物寂し気で、〈たくさんの灯が なつかしいのは/あのどれかひとつに 君がいるから〉〈父さんが残した 熱い想い/母さんがくれた あのまなざし〉など、何かを思い返しているような歌詞が多い。直接的な表現はないが、伝説の城・ラピュタを目撃して写真に収めたものの詐欺師扱いされたまま亡くなった父のために、その存在を証明しようとする主人公・パズーの姿とも重なるように思う。
神秘的でシリアスな雰囲気の「もののけ姫」や、哀愁漂う「君をのせて」とは違い、「となりのトトロ」は明るく楽しげな楽曲だ。この曲でも、〈木の実〉〈バス停〉〈オカリナ〉といった、映画のワンシーンが思い浮かぶ言葉が盛り込まれている。さらには、〈秘密の暗号〉〈森へのパスポート〉〈魔法の扉〉といった、映画のストーリーを踏まえながら子ども心をくすぐるような歌詞が頻出するのも特徴だろう。サツキとメイの幼い姉妹を主人公にした映画をなぞるように、大人が知らない、子どもたちだけの特別な冒険と心のときめきが詰まった楽曲である。トトロは子どもにしか見えない存在で、歌詞でも〈子供のときにだけ あなたに訪れる/不思議な出会い〉とある。「もののけ姫」などとはまた違ったトーンで、作品や曲調にあわせて表現を使い分けられるのも、宮﨑駿の巧みな部分と言っていいだろう。
宮﨑駿が作詞を手掛けた楽曲たちは、映画とともに私たちの心に深く刻まれている。『もののけ姫』が放送される今、あらためてこれらの楽曲の歌詞をじっくり読み解いていくのもいいかもしれない。


























