乃木坂46が地方と築く“持続”する関係 四国八十八カ所巡礼、周遊施策などがもたらす観光、商業への影響とは?
乃木坂46は今、地方をまわっている。『乃木坂46 真夏の全国ツアー2025』でグループ初となる四国公演として香川県でのライブ開催を予定しており、約9年ぶりとなる静岡公演も含め、開催地の選定そのものの重心を地方へと置いている印象だ。今年はJR四国、JR東日本などと交通インフラと手を組み、スタンプラリーや記念乗車券、音声ARを活用した周遊施策、さらには“巡礼型ヒット祈願”までを行っているように、ライブ/ツアーの枠を越えて、地域とファンを巻き込む多層的な動きが同時に立ち上がっているのは偶然ではないだろう。乃木坂46は「なぜ今、地方でライブを行うのか?」という問いに対し、自らの存在意義を更新する形で答えようとしている。
四国初公演の意義は明確だ。2025年2月に新アリーナ・あなぶきアリーナ香川の誕生という受け皿が整ったタイミングで、乃木坂46はそのステージに立つ。地域が新たに投下したインフラ投資を、全国級のカルチャーブランドとして回収可能な物語に変換していく役割のひとつを乃木坂46が担っていることは間違いないだろう。
JR四国とのタイアップとして行われる『THE NOGIZAKA46 TOWN in KAGAWA』は、県内の主要駅のデジタルサイネージをジャックしたりし、ポスター掲出や乗り放題きっぷでファンの移動を可視化/導線化することで、ライブ会場周辺に消費や滞在が集中しがちなを、県全域へと拡張させる設計になっている。ここで乃木坂46が担っているのは、地方にとって単発の興行の開催ではなく、ファンの行動を観光、商業、文化へと繋げる橋渡しとしての役割だ。
【ニュース更新】 JR四国グループ×乃木坂46「THE NOGIZAKA46 TOWN in KAGAWA」開催決定! https://t.co/O5JmKNg7SF
— 乃木坂46 (@nogizaka46) July 22, 2025
乃木坂46は今年、39thシングル『Same numbers』のヒット祈願として、グループ初となるファン参加型の四国八十八カ所巡礼を行った。今作の表題曲センター・賀喜遥香の誕生日=8月8日と、楽曲タイトルにちなんだ“ゾロ目”の発想から生まれたこの企画は、香川公演を含む『真夏の全国ツアー2025』と有機的に連動している。メンバーはツアー開催地である香川県にある第66番札所から第88番札所までを巡礼する一方で、徳島県、高知県、愛媛県に点在する第1番から第65番札所については、ファンとともに達成を目指す共同プロジェクトとなる。ファンは参拝後に納経(ご朱印)の写真を撮影し、特設サイトを通じて投稿できる仕組みだ。これらの写真は公式サイトに掲載されるほか、一部は『乃木坂工事中』(テレビ東京系)やYouTubeチャンネル「乃木坂配信中」でも紹介されるという。
たとえば、宮城県出身の久保史緒里を中心に築いてきたJR東日本とのコラボレーションが証明したのは、乃木坂46が地域の顔として長期的に寄り添うことで、持続する関係が生まれるという事実だ。香川県は新たに開拓する場所であり、宮城県はこれまでの関係をさらに深める場へと育ったわけだ。
この戦略は観光、商業、文化に幅広い影響をもたらすことになり、MVや番組で生まれた“聖地”がスタンプラリーや乗車券などの施策と結びつき、ファンは会場周辺だけでなく県内各地を巡るようになるだろう。その結果、滞在時間や消費が増え、地域の観光価値が高まる。さらに、宿泊や飲食といった直接的な経済効果に加え、関連産業や人材をも巻き込む波及効果が広がる可能性も大いにある。
このような地方展開は、乃木坂46にとっても大きな意味を持っていると思う。6期生11人が初めて参加する今年のツアーでは、彼女たちの出身地の多くを巡る凱旋公演としての意味合いも持ち、個性と地域がリンクすることで“追いかけたくなる物語”が同時に広がっていく。久保が宮城県で築いた“地域アンバサダー”としての成功例は、次世代メンバーにも受け継がれていくだろう。乃木坂46は、地域に根ざしたメンバーを複数輩出することで、特定の都市に頼らない柔軟で強いグループへと進化している。企業や地域側から見ても、スポンサーや共同企画、ライセンス収益などを通じて安定した収益が見込めるため、東京だけに依存しない新しいビジネスモデルとして成長を続けているのだろう。
乃木坂46は、ライブの場所を変えているのではなく、ライブの意味そのものを変えているのかもしれない。四国で初めて単独公演を開催することは、新しいファンに出会うというだけでない。ファンが列車で駅を巡り、地元の商業施設で特典を受け取り、彼女たちの物語と重ねながら名所/旧跡を訪れる――。その体験は地域に経済的かつ文化的な成果を残し、メンバーには発信者として新たな視点と責任を与える。これからは、チャートや視聴率だけでなく、地域にどれだけ前向きな影響を与えられるかが、“国民的アイドル”を定義する新しい基準になっていく可能性もあるだろう。
乃木坂46は、その新しい基準に挑戦し始めている。初の四国公演は、その第一声だ。地域創生の文脈の中で、乃木坂46が担う役割と可能性は、ツアーが進むたびに拡張されていく。明治神宮野球場で迎えるフィナーレまでに、いくつの「おかえり」と「はじめまして」が地域に刻まれるのか。その答えを目撃する夏になりそうだ。

























