『蓮ノ空』が今“ロック”を掲げる意義とは? スクールアイドルに対するカウンター的存在が鳴らす夢と覚悟

 6月29日に開催された『蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』(以下、『蓮ノ空』)の『105期 1st Term Fes×LIVE』で、私は“等身大のロック”を見た。増幅され歪むサウンドとともに届けられる歌声には、天で光る星に照らされながら、精一杯大地に根を張り、懸命に咲こうとする花のような少女たちの魂が宿っていた。その時、私は『蓮ノ空』がライブで、“ロック”というテーマをあえて押し出し、彼女たちにとって渾身のロックナンバー「アイドゥーミー!」を披露した意味を感じた。本稿では、彼女たちがロックを背負った意義を綴っていきたい。

【冒頭配信】105期 1st Term Fes×LIVE -撫子祭- #Fes蓮ノ空撫子祭 (ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ)

 筆者が個人的に定義しているロックとは、カウンターカルチャー的な性質を持った音楽だ。政治や社会問題など、マイノリティな立場にある人間がマジョリティな存在に対してのカウンターとして放つ音楽という側面があり、それこそかつてはポップスに対するカウンターとしての性質も持ち合わせていた。だが、現代ではメインストリームに対するカウンターという側面は、やや感じにくくなっているように感じる。

 現代におけるロックとは、自分が鳴らす音楽の立ち位置を理解し、「何に対するカウンターなのか」というオリジナリティを突き詰めた先にこそ成立するものなのだろう。それを思えば、『蓮ノ空』が今ロックを取り入れようと試みたのは必然だったのだと思う。なぜなら、今の『蓮ノ空』はまさしく、スクールアイドルのシステムや概念に対する“カウンター的存在”となっているからだ。

 そもそも、彼女たちがロックに触れたきっかけは、自らが掲げるスクールアイドルの概念に抵抗するという、途方もない夢が発端となっている。2025年3月、3人のスクールアイドルがその肩書を手放し、学舎を去った。“スクールアイドル”という名は、高校生活の3年間という限られた中でしか名乗ることを許されず、卒業とともに手放さなければいけない。これは、スクールアイドルである以上、必然的に訪れるものであり、どれほど「スクールアイドルを続けたい」と思っていようと抵抗できない。それは生き物はいつか命が尽きてしまうのと同じように当たり前のことであり、むしろその“有限性”こそが、刹那を精一杯駆け抜けるスクールアイドルの輝きに繋がるという共通認識があるからだ。

常識を覆す『蓮ノ空』の挑戦、「アイドゥーミー!」で示す有限性への抵抗

 だが、日野下花帆は、愛おしい先輩たちの卒業を前にして、その“当たり前”をただ受け入れるようとはしなかった。むしろ、「スクールアイドルをしたい」という気持ちを重視するため、有限性に抗う道を選んだのである。そして、再び卒業生たちとライブをするため、「いつでもスクールアイドルができる場所」の実現という夢を掲げたのだ。そんな夢の第一歩として、6月の活動記録(『蓮ノ空』におけるストーリー)でロックフェスへの出演を決意する。結局、フェスで芳しい成果は得られなかったものの、そこで学んだロックを取り入れて完成したのが「アイドゥーミー!」だった。

蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 「アイドゥーミー!」 リリックビデオ (Link!Like!ラブライブ!)

 今の『蓮ノ空』が成し得ようとしていることが、いかに無謀で、いかに異端であるか。それは、スクールアイドルを知っている人間ほど強く感じられるだろう。これまで有限性は抗うものではなく、未来への糧として受け入れるものであり、それこそがスクールアイドルの常識だったのだから。だが、だからこそ『蓮ノ空』がロックを掲げた意義があるのではないだろうか。

 もし仮に、ロックを音楽性やマイノリティとマジョリティの対立構造でのみ語るならば、現在の『蓮ノ空』がロックを歌う意義はぼやけてしまうだろう。スクールアイドルは『ラブライブ!』の世界において、すでにカルチャーとして確立されているため、彼女たちの立場がマイノリティ側であるとも言い難いし、昨年度の『ラブライブ!』大会で優勝を果たした『蓮ノ空』は、スクールアイドル界ではマジョリティとして評価される存在だ。さらに言えば、スクールアイドルにおいてバンドサウンドは珍しくなく、むしろメジャーなジャンルの音楽。ゆえに、『蓮ノ空』が今わざわざロックを掲げるには、その意義が明確でなければ、単なる“選曲”に見えてしまいかねなかっただろう。

 だが彼女たちは、「なぜ今あえて“ロック”を掲げるのか」という問いへの答えを見事に示していた。「卒業すればスクールアイドルではなくなる」という、誰も抗うことのなかったシステムと概念に対して、少女たちがその身ひとつで真っ向から抵抗する。大地を踏み締める花だからこそ、自分の立ち位置を理解できる――少女たちが鳴らしたのは、間違いなく、決して途切れない精神性を宿した等身大のロックだったのだ。

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