真心ブラザーズ、33年ぶり凱旋! 東京娯楽の原点・浅草で繰り広げた等身大のショー『真心道中歌栗毛』

東京の庶民の娯楽の原点・浅草に真心ブラザーズがやってきた。ふたりだけの弾き語りツアー『真心道中歌栗毛 2025』のセミファイナル、台東区立浅草公会堂。ふたりの記憶によると、この会場でのライブは33年ぶりらしい。昔ながらの1ベル、2ベル、そして出囃子、上手にはツアータイトルとグループ名が書かれた“めくり”を模したセット。音楽というよりも、落語を待つような気分が楽しい。
「よろしくお願いしまーす」
緞帳が下りたままの舞台にふらりと現れたふたりは、アロハシャツにスニーカーのラフな姿で、雑談トークで軽く笑いを取っておもむろに歌い出す。たぶんこれが前説のかわり。そして、緞帳が上がった向こうには、能楽でおなじみの松の絵、紅白の幔幕、金屏風に提灯、アコースティックギターと譜面台だけ。バンドなし、ゲストなし、電子楽器なし、等身大のショーの始まりだ。


序盤は懐かしい曲が次々と飛び出して、古いファンの胸を熱くさせつつ、ユーモラスな歌詞で和ませる。35年前のデビューアルバム『ねじれの位置』からの「のり弁女」は、桜井秀俊のイカしたボトルネック奏法と、YO-KINGのハーモニカが冴えわたる。4枚目『善意の第三者』からの「老後」は、しっとりを通り越してじっとりと、救いのない暗さが胸に迫る哀愁のフォークブルース。日替わり曲が多いこのツアー中、「『老後』は全会場やりました。望まれてもいないのに(笑)」と笑うYO-KING。常に期待の斜め上、明後日の方向からファンの予測を裏切って楽しませる、それが真心ブラザーズ。


ツアーの静岡公演で宿泊したホテルに洗濯物一式を忘れたという桜井が、切実な思いを込めて歌う物忘れソング「あれあれ、あの、あれ」は、観客とのコール&レスポンスを交えて軽快に。YO-KINGが素晴らしいフォークバラードシンガーぶりを見せつける「遠い夏」は、胸いっぱいの抒情とノスタルジーとともに。「今日も声出てますね」と桜井に褒められ、「俺、上手いを芸にしてないけど、上手いから」と返すYO-KING。アコースティックだからこそ歌の細部の魅力が全開になる、それが『真心道中歌栗毛』の醍醐味のひとつ。


続く“三楽会のコーナー”は、開演前に募集したファンからのリクエストに応えるお楽しみ企画だ。歌詞も譜面もない出たとこ勝負ながら、1曲目「愛」は桜井のキレキレのカッティングとYO-KINGの熱唱で大成功。2曲目「ぼくのギター」はふたりともうろ覚え、よれよれになり途中棄権。3曲目「突風」は演奏も歌詞も完璧で迫力満点。続く“KING 2兆曲のコーナー”は未発表曲が2兆曲あると豪語するYO-KINGの新曲をお披露目する企画で、桜井もまったく知らない曲にもかかわらず、歌詞とコードを頼りに間奏ですごいギターソロを決めて大喝采を浴びる。「疲れすぎない暮らし(仮)」と題したYO-KINGイズム丸出しの曲、この日聴けた東京のファンはラッキーだ。


このツアーはコーナーが盛りだくさんで、続いては“『KING OF ROCK』のコーナー”。今年で30周年を迎えた名盤から日替わりで披露していく。この日選ばれたのは「日曜日」と「スピード」の2曲。特に「スピード」は、鬼気迫るテンションで弾きまくる桜井のプレイが圧巻で、演奏後の拍手と歓声が凄まじい。「新しい曲も楽しいですが、昔の曲を新しいアレンジにするのも楽しいです」と桜井。今なお進化中のふたりの真価を見せる、それも『真心道中歌栗毛』の大事なポイントだ。

「最もこの舞台にふさわしい曲をやりましょう」――。YO-KINGの曲紹介で始まった「どか~ん」から後半スタート、間髪入れずにアップテンポを連ねてぐいぐい飛ばす。「素晴らしきこの世界」はしっとりした序盤から白熱の後半へ、アコースティックだからこそより生々しい、YO-KINGのボーカルのパワーと桜井の多彩なギタープレイに引きこまれる。2025年の今なお――いや、今だからこそ意味を持つ歌詞に心打たれる。
そして終盤のハイライトはやはりこの曲「サマーヌード」。どんな場所でもどんなアレンジでも映える名曲は、2025年もみずみずしさを失わず、素敵な夏のBGMになるだろう。歌い終えて「33年ぶりに帰ってきた浅草。ありがとうございました」と感謝を述べるYO-KING。能楽堂、温泉、フラワーパークなど、異色の会場が多い『真心道中歌栗毛 2025』のなかでも、庶民の芸能と伝統に彩られた浅草公会堂でのライブは、メンバーにもファンにも忘れがたい体験になったはずだ。

「ステージで機嫌よくしてるのが俺の芸。声が出なくなっても、それでやっていくから。これからもどうぞよろしく」
アンコールでは、YO-KINGの機嫌のいい宣言に続き、12月から始まる次のツアー『have a nice TRIP!』の詳細を発表して、さらなる活発な活動を約束してくれた。ファンとともに年輪を重ねながら音楽という芸に邁進する、真心ブラザーズならではの芸人魂を見せた『真心道中歌栗毛 2025』は、7月20日の沖縄でツアーファイナルを迎えた真心ブラザーズのライブには、ここでしか得られない心の栄養がたしかにある。12月からのツアーを、今から楽しみに待とう。

























