名曲「最後の雨」はなぜ大ヒットになったのか? 中西保志×都志見隆 特別対談、30年以上の時を経た邂逅と「溶ける愛」

中西保志×都志見隆「最後の雨」を語り合う

 中西保志が、15年ぶりとなる新作アルバム『BONUS TRACKs ~最後の雨2025』をリリースした。佐藤竹善(SING LIKE TALKING)、山根康広、澤田知可子、中西圭三、杉山清貴など多くのゲストアーティストが参加し、1970~90年代の名曲のカバーや新たに制作されたオリジナル楽曲で構成されている。

 なんと言っても目玉になるのは、中西の代表曲であり、大ヒットを記録した「最後の雨」の新アレンジバージョン――サックス奏者のユッコ・ミラーを迎えた「最後の雨2025」だろう。原曲の空気感を纏いつつも、新たな魅力が感じられる楽曲に仕上がっている。そこでリアルサウンドでは、「最後の雨」の作曲家であり、『BONUS TRACKs ~最後の雨2025』にも新曲「溶ける愛」を提供している都志見隆と中西の対談を行った。

 「最後の雨」の制作秘話から巨大すぎる代表曲との向き合い方、カバーされることへの想い、新曲「溶ける愛」についてまで、ふたりの話は尽きなかった。(編集部)

最初から大ヒットではなかった代表曲「最後の雨」

中西保志×都志見隆 対談
中西保志

――僕自身、中西さんはもちろんのこと、本作にゲスト参加されている多くのシンガーの皆さんは10代から20代にかけて通ってきた方々ばかりなので、すごく感慨深いです。

中西保志(以下、中西):ありがとうございます。今回アルバムのお話をキングレコードからいただいた時に、何となく思ったのが、「ひょっとしたら、これが(アルバムを作れる)ラストチャンスかもしれない」「悔いのないように、今まで自分が出会ってきた人たちに何かの形で参加してもらおう」ということ。ゲームの『大乱闘スマッシュブラザーズ』とか、映画だったら『アベンジャーズ』みたいな感じを思い描いて、普段いろんなところで活躍されてる方にこのアルバムで全員集合してもらおうと考えたんです。そうしたら皆さんもすごく喜んでくださって、「いいよ、やろう!」と快諾してくださって。中西圭三くんや澤田知可子さんとはジョイントライブを一緒にやるのですんなり曲も決まりましたし、なかには「何を歌おうか?」っていうところから始まった方もいらっしゃいますし、山根康広くんのように楽曲提供してくれた方もいる。そういうひとつの核があるなかで、「最後の雨」を書いてくださった都志見さんや作詞の夏目純さんとの30年以上の年月を超えた邂逅が、僕のなかにもうひとつのテーマとしてあったんです。

――なるほど。

中西:半年ぐらい前に都志見さんとどういう曲を作るかという打ち合わせをさせてもらったんですけど、これが都志見さんとの生涯初めての打ち合わせだったんです。

都志見隆(以下、都志見):そうだったね。

――「最後の雨」をはじめとする過去の楽曲では、そういう打ち合わせに中西さんは参加したことがなかったんですね。

都志見:それこそ、「最後の雨」のレコーディングの時も会ってないもんね。

中西:そうなんですよ。あの時代は、作家と歌い手が顔を合わすことがあまりなかったんですよね。なので、今回の打ち合わせというのはすごく新鮮でした。

――1992年8月にリリースされた「最後の雨」は中西さんにとって2枚目のシングル。その年の4月に1stシングル「愛しかないよ」を発表しているので、まだデビュー間もないタイミングですよね。

中西:9月に1stアルバム『VOICE PEAKS』をリリースしているので、「最後の雨」はアルバムのなかの1曲という感覚で制作が始まったんです。そんななかで、初めて「最後の雨」を聴いた時は、カラオケでみんなが歌いやすい曲とはまた違った、相当ハイレベルで難しい曲だなと思いましたね。でも、みんなに知ってもらえた曲ができてよかったと喜ぶ一方で、その後に出す曲がすべて「最後の雨」に飲み込まれてしまうというか。都志見さんにもほかにもたくさんの曲を書いていただきましたし。その都度「『最後の雨』を超えるものを作ろう!」ってみんなで頑張るんですけど、どうしてもあの曲が全部を飲み込んでいってしまう。そこから30年以上経って、やっぱり「最後の雨」に戻ってくるというのは、この曲はそれだけ強い力を持っていたんだなと、今あらためて実感しているところです。

中西保志 / 最後の雨【Official Music Video】

――都志見さんは、“中西保志”という新人シンガーに楽曲提供をすることになった当時の記憶って覚えていますか?

都志見:当時、中西くんが所属していたレコード会社から作曲の依頼が届いたんですけど、その時は中西くんのことを知らなかったんですね。今でもよく覚えているんですけど、渋谷の公園通りを上がったところにある東武ホテルでスタッフさんと打ち合わせをして、「中西保志というシンガーがデビューして、その2枚目のシングルの作曲をお願いしたい」と言われて。その時点で、バラードという方向性は決まっていたような気がします。僕自身、カラオケで歌えるようなバラードをヒット曲として持ちたいと思っていましたし、しかも中西くんの歌もすごく上手で、これはひとつチャンスをもらった気がしたんですよ。そこから制作したのが「最後の雨」でした。

――「最後の雨」は、時間をかけてゆっくり浸透し、ロングヒットにつながった印象があります。

中西:ロングヒットした理由は、つまり“中西保志”という歌い手が世間にまったく知られていなかったから、認識されるまでに時間がかかったということなんだと思います。もっと有名な人が歌っていれば、もっと早く売れていたかもしれない。「最後の雨」を聴いた最初の印象としては、「こんなに難しい曲を歌える人、いるのかな?」って。音の飛び方とかメロディの起伏も、かなり激しい曲じゃないですか。

都志見:最初に聴いたのは、歌詞が入る前のデモテープ?

中西:そうです。これは皆さんに声を大にして伝えておきたいんですけど、都志見さんの歌声が入ったデモテープの完成度が素晴らしいんですよ! 当時、僕は都志見さんご自身もアーティストであることを知らなかったので、その洋楽チックな仕上がりに本当に驚いたんです。

都志見:当時は、デモテープを提出する際に仮の英詞みたいなのをつけて歌っていたんですよ。だから、余計に洋楽的なニュアンスもあったんじゃないかな。

中西保志×都志見隆 対談
都志見隆

中西:都志見隆っていうすごい作曲家の先生のお抱えの歌い手さんがデモ音源で歌っているんだろうな、ぐらいに僕は思っていたんですよ。しかも、仮の歌詞は英語じゃないですか。完全に当時の海外のAOR(アダルトオリエンテッドロック)の流れを汲むバラードだったんですよね。レコード会社からは「中西さん、これからの曲はいかにカラオケで歌えるかが勝負だからね」「カラオケで歌えるように歌ってくれなきゃ困るよ」とずっと言われていたので、こんなにハイレベルな曲で大丈夫だろうかと不安になってしまって(笑)。でも、夏目純さんがこの曲にぴったりとハマる歌詞を書いてくださって。そこから僕がレコーディングをすることになるわけですが……昔も今もそうなんですけど、(「最後の雨」は)僕にとって本当に難しい曲なんですよ。当時は練習で歌いすぎて、あと2週間でレコーディングだというのに喉がおかしくなってしまったくらいですから。悪戦苦闘しながら歌入れをした記憶があります。

都志見:そんなことがあったんだ。

中西:そうなんですよ。それくらい取り組み甲斐のある曲でした。で、シングルがリリースされてからは全国を飛びまわりましたね。当時は「こういう歌手がデビューしました」というふうに、全国のラジオ局や新聞社、有線放送やレコード店に宣伝まわりをして、「よろしくお願いします」とポスターにたくさんサインをして、地道な宣伝活動に時間を費やして。まずは有線チャートでじわじわと上がってきて、次にカラオケで火がついて……1年、2年と時間が経過するにつれて、この曲がみんなのなかに刻まれているんだなと認識できるようになり。その頃には、僕がこの曲に引っ張ってもらっていろいろなところに連れて行ってもらったんだなと感じるようになりましたね。

――僕が当時、「最後の雨」を初めて耳にしたのはカラオケでほかの人が歌っているのを聴いた時だったんです。その時は「すごくいい曲だな、でもこれは歌うのがめちゃくちゃ難しそうだぞ」と思ったんですけど、この曲を上手に歌えると女の子が喜ぶんですよね(笑)。

都志見:たしかに(笑)。「曲は知っているけど、誰が歌っているのかはわからない」というような期間がしばらくあったよね。

中西:ありました。当時、レコード店にプライベートで足を運んだ時に、ある若い女性がレジの方に「こんな感じの曲なんですけど、CD置いてませんか?」って一生懸命伝えていたんですよ。それがどうやら僕の「最後の雨」らしかったんですけど、レジの店員さんは「ごめんなさい、わからないです」と答えていて。でも、ここで自分が「それ、僕の曲です!」と名乗り出たらすごく小さなヤツに思われるんじゃないかと気にして、そのままスルーしちゃったんですけど(笑)。それぐらい、当初は僕という存在と「最後の雨」という曲が結びつかない時期が長かったように思います。でも、僕はそれでよかったと思うんですよ。だって、本当に一夜にしてものすごく変わってしまう人もたくさん見てきましたから。もし自分がそういう立場だったとしたらその現実に耐えられなかったでしょうし。徐々に知られていったことは、僕にとっても曲にとっても幸せだったと思うし、いろんな人に愛されて、僕以外の人にも歌ってもらえているっていうことも含めてよかった気がします。

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