星野源「人はいつか死ぬ。だから今、みんなで一緒に歌おう!」ーー『MAD HOPE』で体現した“今”を楽しむ理由
ステージに表れたあらゆる“楽しむ”の形。すべてには終わりがくる、だから今をできるだけ楽しもうーー。彼らしいこの考え方が、音楽や本人の言葉などを通じてステージで一貫して表現されたこのライブ。そうした意味でも、彼の鳴らす音楽の幸福感と、それもいつかは終わってしまうという切なさとが常に存在するアンビバレントな時間だった。ラストに星野源に戻って歌った「Hello Song」において、曲中に「ライブは終わりますよ。人はいつか死ぬ。だから今、みんなで一緒に歌おう!」と叫んでいたのも印象的だった。
一方で、ソロデビューから激動の15年間をくぐり抜けてきた現在の彼だからこそ表現できるものもあった。「歌を歌う人になるとは思っていなかった」時代の曲(「くせのうた」)も歌ったし、それまで暗い曲しか書けなかった彼が、徐々に明るい曲を書けるようになり、ようやく「できた!」と思えたという曲(「夢の外へ」)も歌った。さらには「人生が変わった」という曲(「恋」)も披露した。まだ何者でもなかった頃から、老若男女を楽しませることができるようになった現在まで、星野源の歴史を感じ取れるライブでもあった。
最後に、そんな彼の人柄の一端が垣間見えるエピソードをひとつ。筆者は6月1日に行われたさいたまスーパーアリーナでの2日目の公演を観覧したのだが、ライブ中盤のセンターステージでの弾き語りを終えて移動する際に、観客が落としてしまった指輪を星野が拾い、すぐに持ち主に返してあげるという粋な計らいによって会場中からどよめきが起きる一幕があった。あまりにもできすぎていて仕込みなのかと思っていたが、後にラジオで、落とした本人(のパートナー)から届いたメッセージを読み上げていたのを聴くにつけ、本当に起きた奇跡なのだと思う。こうした偶然が起きる持って生まれた運、そしてその時に行動できる機転の利く人間力。それが星野源という人間なのだ。
『Gen Hoshino presents MAD HOPE』すべての写真を見る