YMOが残した偉大な功績を感じずにはいられない 山口一郎、岡村靖幸ら豪華面々が完全再現したトリビュートライブの凄み
今年からスタートした日本版グラミー賞とも称される『MUSIC AWARDS JAPAN』。その第一回の“SYMBOL OF MUSIC AWARDS JAPAN 2025”に選ばれたのがイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)だ。“SYMBOL OF MUSIC AWARDS JAPAN 2025”は日本のポップスの歴史において輝かしい功績を残したレジェンドアーティストを讃える賞で、1970年代末から大々的な海外進出を果たし、国内外のアーティストに大きな影響を与えたYMOはその第一回に相応しい存在だろう。
そしてそれを記念し、5月21日からの『MUSIC AWARDS JAPAN』授賞式に先立って、YMOの功績を讃えるトリビュートコンサートが前日の5月20日に国立京都国際会館 Main Hallで行われた。
いまでも根強い人気を持つYMOへのトリビュートなだけにチケットはあっという間に完売して観覧できずに涙を飲んだ人も多いだろう。
その特別なコンサートがついにオンエアされることになった。
7月13日にWOWOWで放送・配信される『MUSIC AWARDS JAPAN - A Tribute to YMO』だ。うれしいことに本編のみならず、それに先立って行われたTOWA TEIによるYMO関連楽曲オンリーのDJセットも収録されている。
TOWA TEIのDJプレイは現場で聴いているとただただ楽しく踊りたくなる欲求が強くなる時間だったが、あらためて映像で観てみると高度なテクニックでエフェクトやブレイクを駆使してYMOの曲を再構築していっていることがよくわかる。ときおり機器を操作する手元もアップになるので、DJ志望者にはそのタイミングなど大きな参考になるのではないだろうか。
またこのDJセットの終盤では1980年の坂本龍一の未発売の楽曲がかかる。プロモーション盤シングルのみに収録されたYMOファンなら歓喜の曲で、ラジオ、テレビなど公の場でこの曲が流れるのは楽曲発表から45年にして初めてだろう。
そして、いよいよコンサート本編。
バンドマスターの高野寛(Gt/Cho)を筆頭としたこの日のためだけのスペシャルバンド、“Modern Vintage Future Orchestra”(MVF Orchestra)の演奏に、次々とゲストが入れ替わりで参加していくという形式でコンサートは進行する。
MVF Orchestraのメンバーは網守将平(Key)、大井一彌(Dr)、ゴンドウトモヒコ(Seq/Horns)、鈴木正人(Ba)、高田漣(Gt/Cho)で、みなYMOやメンバーと親交が深かった面々となる。
そしてゲストは東京スカパラダイスオーケストラのホーン隊であるNARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(T.Sax)、谷中敦(B.Sax)。サカナクションの山口一郎、岡村靖幸、坂本美雨、アメリカから来たGinger Root、小山田圭吾、原口沙輔、松武秀樹と豪華に続く。
どのゲストのパフォーマンスも聴き応えは十分だが、とくに見逃せない演奏も多い。
例を少しだけ挙げると、咲坂守(小林克也)のボイス(ラップ)を再現したGinger RootとMVF Orchestraによる畠山桃内(伊武雅刀)を模したバックコーラスで、スネークマンショー込みで再現した「Tighten Up」や、坂本美雨のサプライズボーカルが入った「東風」など。
また、高田漣が歌う「シムーン」、小山田圭吾と高野寛がハモる「キュー」など、それぞれが自身のアルバムでカバーしている曲だけに堂に入っている演奏も。
圧倒的な表現力で観客を魅了したサカナクションの山口一郎、岡村靖幸、本物のYMOチルドレンだけが持ち得るのもしれない説得力で雰囲気たっぷりだった坂本美雨、さすがのスカパラ・ホーン隊、若さ溢れる原口沙輔、そして大御所の松武秀樹と2台のタンスと称される巨大モジュラー・シンセサイザー。MVF Orchestraの確かな演奏をバックにどのゲストもそれぞれの表現でYMOへの想いを表現した。
このトリビュートコンサートに出演したミュージシャン、アーティストのほとんどは高橋幸宏が心血を注いでキュレートした音楽フェスティバル『WORLD HAPPINESS』(2008~2019)のステージを経験している。先日ちょうどリリースされた『WORLD HAPPINESS』の記録ボックスセットに収録された映像を観ると、このトリビュートコンサートはYMOに対するものと同時に『WORLD HAPPINESS』へのトリビュートにも見えてくる。番組を観ているとところどころで『WORLD HAPPINESS』のあの暑かった夏の日の思い出がよぎるはずだ。
また、現場でのライブ観戦ではステージ奥のミュージシャンの服装まで確認ができなかったが、この放送ではどのミュージシャンにも寄りの映像があり、多くがかつてのYMOのユニフォームを意識したファッションを身につけていることがよくわかる。ドラムの大井一彌の本物のYMOシャツ(1980年衣装)をはじめ、みな1980~2000年代のYMOのユニフォームに寄せた服で登場している。唯一、松武秀樹は1979年のYMOのワールドツアーで身につけた金色の蛇皮ジャケットに寄せた1970年代ファッションであることも確認できる。さすが大御所。
2007年にHASYMO名義で復活したYMOは、当初こそエレクトロニカを基調とした電子音中心のサウンドだったが、やがてどんどんと生演奏・生楽器の度合いを増したエレクトロニックファンクバンドへと変貌を遂げていった。
YMOとしての最後の2013年の演奏も生ドラム、生ベース、ピアノ、シンセサイザーでの「放射能」「ライディーン」のクリック、シーケンサーなしの生演奏だったし、YMOの3人が最後に人前で揃って演奏した2018年ロンドン・バービカン・センターでの「Absolute Ego Dance」も完全生演奏だった。