エルスウェア紀行がオーディエンスへ届けた“別れのないメロディ” 『夢幻飛行 2025』で見えた新たな旅路

ライブ後半は久々の“手ドラム”となるトヨシのドラムソロからスタート。最初は少ない音数から始まって、そこに4つ打ちが加わると自然に場内からクラップが起き、徐々に手数を増やしていくのにあわせて歓声もヒートアップしていく。ラストはドラムをアグレッシブに乱打して、「オン・ドラムス、トヨシ!」という紹介に大きな拍手が送られると、ここからはアップテンポなナンバーを連発。“魔改造”の真骨頂のような「鬱夢くたしかな食感」はアウトロのハードコアな展開が圧巻で、グルーヴィな「少し泣く」ではクロサワがエネルギッシュなギターソロで場内を沸かせた。

コロナ禍に千ヶ崎が参加するKIRINJIのライブを見た時に、スーツ姿でサイリウムを振って踊ってる人を見て、「この人をエルスウェア紀行のライブでも踊らせたい」という気持ちで作った「あなたを踊らせたい」では、タンバリンを振りながら歌う安納に合わせてオーディエンスも踊り、クラップをし、合唱をして大盛り上がり。この曲をリリースした当時から思い描いていたであろう光景が2年越しで目の前に広がり、普段は決して派手なパフォーマンスをするタイプではない安納が〈あなたを踊らせたい〉という歌詞の部分で楽しそうにオーディエンスを指差す瞬間は、エルスウェア紀行のライブがまた一回りパワーアップしたことを印象付けるものだった。その勢いのまま「ロマンチックサーモス」、「冷凍ビジョン」と駆け抜けて、場内は大きな拍手と歓声に包まれる。

本編最後のMCで安納は、ここ数年“別れ”と“時間”について考え続けていた中で、別れから出会いに向かっていく曲として新曲の「とわの祭り」を書いたこと、制作中に谷川俊太郎の「ほんとうに出会った者に別れはこない あなたはまだそこにいる」という詩が浮かんだこと、今日のライブの景色を想像して、最後に〈別れのないメロディ〉という歌詞を書いたことを話し、「エルスウェア紀行の音楽を聴いてくださってる間、別れを寂しいだけじゃない気持ちで捉えてもらえたらいいなと思っています」と伝える。「ベッドサイドリップ」に続けて披露された「とわの祭り」は、新たなスタンダードと言うべきミドルバラードであり、この日この場所に集った600人のオーディエンスとエルスウェア紀行に別れはこないと、そう信じさせてくれるような名演だった。
アンコールではレゲエを基調としつつもコロコロ変わるリズムが特徴的な新曲「さよならに」を披露。さらに11月からツアーを開催し、同ツアーのファイナルでは東京・日本橋三井ホールにて単独公演を行うことを発表した。ラストはエルスウェア紀行の楽曲の中で最もパンキッシュな「天才は今度」で大団円。別れや悲しみと手を繋いで、気のみ、気のまま、旅は続く。


























