歩く人×エルスウェア紀行 安納想が語るフジファブリック「ブルー」への想い 環境音で再構築する青春の記憶

繊細かつキラキラしたサウンドに定評を持つボカロPとしても知られる作編曲家、歩く人。安藤コウ発案による“名曲の歌詞の情景を集音し、新たな楽曲を作るプロジェクト『集音歌詞』第1弾となったCHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN「日本全国酒飲み音頭 -集音歌詞Ver.-」に続いて、第2弾作品としてボーカリストにエルスウェア紀行の安納想を迎え、フジファブリックの「ブルー」をリメイクした。
ただのカバーではなく、歩く人が敬愛する楽曲「ブルー」が持つサウンドや歌詞が持つ世界観を、歌詞世界に紐づいて環境音を採集してリプロダクションした本作。さらに、音楽番組『EIGHT-JAM』(テレビ朝日系)で、“プロが選ぶ年間マイベスト10曲”にて川谷絵音が8位に選出したことでも知られる、エルスウェア紀行の安納想による儚くも美しい歌声との音像のハーモニーに着目したい。歩く人をメインに、安納にも話を聞いていく。
さらに、インタビューの最後には安藤コウ、歩く人、安納によるMVへのコメントも掲載。合わせてチェックしてほしい。(ふくりゅう)
歩く人が『集音歌詞』で見つけた新しい音楽のかたち
――今回、『集音歌詞』というプロジェクトの一環として、歩く人さんがサウンドプロデューサーに抜擢されました。プロジェクトに参加されてみていかがでしたか?
歩く人:これまで音楽制作で無意識にやっていたことと意識的に向き合ういい機会になりましたね。楽曲が持つストーリーの中に、アンビエントな音をいかに組み入れていくかを意識しました。自分の音楽スタイルの見直しというか、そんな機会になったと思います。

――歌詞の世界観を環境音/SEでも表現されていますが、歩く人さんがレコーダーで音を採集されたのですか?
歩く人:そうなんです。今回、レコーダーで音を録音しに行きました。いい経験になりましたね。
――ちなみにどんな機材で?
歩く人:一般的なものなんですけど、ゼンハイザーという音響機器メーカーの会社のガンマイクを使いました。YouTuberさんとかが一眼レフのカメラで動画を撮る際に上に付けているマイクですね。
――すでに完成されているフジファブリックの「ブルー」という世界観を、歌詞のイメージを分解しながら“音を探す”作業は大変だったんじゃないでしょうか。
歩く人:「ブルー」は“青春”というイメージを持っていたので、ある程度その情景に対するイメージを組み立ててから録音に出向きました。思ったよりもスムーズだったと思います。
――音を採集する、フィールドレコーディングの奥深さに目覚めたりしましたか?
歩く人:それで言うと、大変さの方が今回は大きかったですね。でも偶然性というか、意図しない音が入ってしまったけど、それが逆にいい味になっている、みたいなこともありました。洗練された音を使うほうがいい場合もありますが、そうではない音が入ることによって楽曲に有機的な揺らぎが生まれたんですよ。
――なるほど。ちなみに『集音歌詞』プロジェクトの発案者である安藤コウさんとは、どんなお話をされましたか?
歩く人:まず、企画の趣旨を伺いました。制作後にはMVで映像化もされていくので「この音はどんな意図があるのか」など、ほぼすべての音に対して質問をしていただき、音の説明なども事細かにお伝えして。自分のオリジナル曲の場合は「気持ちいい音であればOK」という感覚なんですけど、今回は考えに考え抜いて、音のレイヤーを意図的に構築していきました。
――新鮮な作品作りになったと。
歩く人:そうですね。基本的に楽曲制作は1人で進めることが多いので、他者と突き詰めていく作業は新しい経験でした。
――もともと歩く人さんは感覚的なエレクトロニカ、アンビエント的な要素を作品性として持たれていますが、サウンドを言語化しながら音として表現するというのは『集音歌詞』プロジェクトならではの経験となったのですね。ちなみに、今回リメイクされたフジファブリック「ブルー」は歩く人さんの選曲ですか?
歩く人:はい、自分で選ばせていただきました。フジファブリックは僕の青春期に聴いてきたグループなんですよ。あと、情景のイメージが浮かびやすい曲がいいなと。
――なるほど。あらためて「ブルー」とリメイクで向き合ったことによって、新たな発見はありましたか?
歩く人:なんだろうな……難しいですね……。音楽を聴く時って、「どこにどんな音が配置されているんだろう?」と音主体で聴いてしまうというか、普段はあまり歌詞にフォーカスして聴くことがなかったんです。もちろん歌詞が好きな曲はありますが、特に今回は歌詞の構成に集中して聴いたことで発見があったかもしれません。
――人生に寄り添った楽曲「ブルー」ですが、これまでの思い出を振り返ったりはしましたか?
歩く人:はい。学校からの帰り道でも聴いていたので、この曲を聴くと当時の風景が思い浮かびますね。