東日本大震災が転機に さいたまスーパーアリーナ25周年、全てを共にした営業課長が語る“異色の施設”の歩み

さいたまスーパーアリーナ、25年間の歩み

都市開発と一緒に作られた強み、地域に根差した施設という意識

株式会社さいたまアリーナ 営業部営業課長 皆川裕 インタビュー

――「アリーナ内が可変式である」ということ以外にも、アドバンテージになるポイントがいろいろある会場だと思うんですけども。

皆川:先程の通りけやきひろばがあるのはすごく大きいと僕も思っていて。あと、駅から近い上に、改札から会場の入口までのあいだに、信号がないというのも――。

――ああ、それはすごく大事ですよね。

皆川:イベントの主催者の方々からは、駅から会場までのあいだに交差点があると、全部の信号に警備員を立てなきゃいけないから、その分運営コストが高くなるし、終演後にお客さんが帰るのに時間がかかる、とよく聞くんです。そもそもさいたまスーパーアリーナとさいたま新都心地区は一体的に開発されていて、何かイベントがあると何万人も集まる、ということを想定して街が作られているので、イベント終了後に大勢の人が会場の外に出ても、駅前の通路も幅が広く、改札の数も多いので、詰まりにくいんです。先に都市があって、あとからアリーナを作ったのではなく、都市開発と一緒に作られた会場なので、そこはアドバンテージだと思います。

 (都市が完成した)あとに会場を作る場合、駅の輸送能力や改札の数、エスカレーターの太さや本数は“会場がない前提”で検討されているので、どうしても無理が出てしまうんですよね。それに、さいたまスーパーアリーナでイベントがあると、近隣のホテルや商業施設にも寄ってくれるので、施設の皆さんからは「ありがたい」と言っていただけるんです。「迷惑だ」とは言われないので、我々は恵まれているなと思います。

――“地域に根ざした施設”として運営しているという意識は強いですか?

皆川:そうですね。開業当初から、けやきひろばでは『水かけまつり』や『さいたま新都心大道芸フェスティバル』など、地域の方が訪れやすいイベントを自主事業として開催してきました。弊社は埼玉県の第三セクターで、さいたまスーパーアリーナとけやきひろばは「さいたま新都心の賑わいを創出する場」として存在しているので、イベントを開催することで人が集まり、地域に対して波及効果を生むことを大事にしています。埼玉県からは、コンサートやスポーツイベントなどにお金を払って興行を観にくる人たちだけのための施設ではなく、“開かれた施設”であってほしいとも言われています。なので、もちろん貸会場としてイベントを誘致した方が収益にはなりますが、開業以来、自主イベントも大切なものとして続けていますね。

――『VIVA LA ROCK』でも、けやきひろばは無料ステージとして開放していますよね。

皆川:けやきひろばは、『VIVA LA ROCK』の1週間前の金曜日から、『VIVA LA GARDEN』という形で10日間ほど屋外フリーフェスも開催しています。ステージもあって、飲食ブースや各種イベントもあり、近隣ファミリーの参加も増えていますね。

――過去の公演で、特に記憶に残っているものはあります?

皆川:このあいだテレビを観ていたら、たまたま『冬のソナタ』(KBS)をやっていたんですよ。それで「もう20年前か」と思い出したんですけど。ヨン様(ペ・ヨンジュン)が人気絶頂だった頃に、主演映画『四月の雪』のプロモーションイベント(2005年8月31日開催『April Snow -再会-』)があったんです。その開催を発表したのが(開催の)2週間前くらいだったんですけど、そのときのヨン様の来日がこのイベントだけだったこともあって、けやきひろばがご婦人方で埋まりましたね(笑)。テレビの取材もいっぱいきました。8月の暑いときだったんですけど、テレビのインタビューを受けている人は、「北海道からきた」とか「鹿児島からきた」とか、90歳を超えている方もいたり。

――そのときは何人入れたんですか?

皆川:スタジアムモードだったので、3万人ぐらいだと思います。当時、K-POPじゃなくて、“韓流”と呼ばれていたじゃないですか。そのあとしばらくは、さいたまスーパーアリーナが“韓流の聖地”というふうに言われたりもしましたね(笑)。韓国から「こういうイベントをやりたいんですけど」という話がいっぱいきました。映画のイベントをさいたまスーパーアリーナでやった、というのは、あれくらいじゃないかな。

 あとは……これは毎年ですけど、『ツール・ド・フランス さいたまクリテリウム』という自転車レースの大会を、11月にやっていて。それから、『さいたまマラソン』というマラソン大会。どちらもさいたま市がやっているんですけど、クリテリウムもマラソンも、道路を使うので。調整が多いんですけど、さいたま市が主催だから、わりとやりやすいんですよね。クリテリウムは、『ツールド・フランス』を日本に持ってきましょう、みたいなことで始まったんですけど、去年でもう10年目だったので。

――それだったり、ゴールデンウィークの『VIVA LA ROCK』のように、毎年恒例になっているイベントも多い?

皆川:けっこうありますね。たとえば6月の第1週目の週末は、毎年松田聖子さんに使っていただいたり。あとは、8月の最終週末は毎年『Animelo Summer Live』がある。9月の第1週末は『東京ガールズコレクション』、3連休は『ディズニー・オン・アイス』とか。展示会も含めるともっとありますね。25年やっていると、一度使っていただいたあとに「来年もやりたいです」って言っていただけることも多くて。こういったリピーターのお客様に加えて、旬なアーティストや新規イベントの立ち上げなどを上手くミックスして、年間スケジュールを組んでいけるといいのかなと考えています。

「ワールドクラスのベストアリーナに」長期改修工事で起こる変化とは

株式会社さいたまアリーナ 営業部営業課長 皆川裕 インタビュー

――2026年から改修工事で一時クローズになりますよね。『VIVA LA ROCK』が、来年は別の場所で行われることが発表になりましたが。

皆川:2026年1月に閉めてから、いつ改修が終わって開けられるかはまだ決まっていないんですけども。2027年の3月になるか、4月になるか、5月になるか。今ちょうど、埼玉県が入札をやっているところです(取材は5月下旬)。

――どういうところを改修されるんですか。

皆川:25年経つので、電気関係とか空調関係をオーバーホール(機械製品の分解/点検/修理)しないといけないんですね。今、不具合が出ているわけじゃないんですけど、25年経つということは、設計されてからは30年ぐらい経つわけなので。さいたまスーパーアリーナには、電気室が1から5まであるんですけど、その基盤を全部替えるんです。その電気室にぶら下がっているのが、空調だったり、非常照明だったりするので、じゃあひとつずつ順番に交換していけば営業できるかというと、そうじゃなくて。そこがいちばん大変だけど、やらないといけないので。

――この改修のタイミングで、「バリューアップ・ネーミングライツパートナー」の募集(※2)を始められましたよね。

皆川:はい。もちろん、ネーミングライツ料をお支払いいただけるところには期待しているんですけど、それだけではなくて。海外ではもうそうなっているケースが多いんですが、ただ単にお金を出すだけじゃなくて、「この会場の価値を高めるために何ができるのか」っていうことを、まさにパートナーとして一緒にやっていくことを重視しています。「来場者のエクスペリエンスを高める」「ホスピタリティスペースの拡充」「地域貢献」「サステナブル」など、我々が考えるバリューアップを一緒にやってくれることも期待していますけど、我々が気がついていないところで、「こういうことをしたら、もっと良くなるんじゃないですか?」とか、「こういう点で我々の会社が持つ技術やサービスを使えば、さらに良くなるんじゃないですか?」ということが、提案として出てくるようなパートナーを期待していますね。

――会場の使い勝手やデザインにも変更があるのでしょうか?

皆川:変わると思います。そういった部分もバリューアップ・ネーミングライツパートナーから提案をいただこうと思っていて。おそらく世界各国の新しいアリーナなどを参考にした、さまざまな案をいただけるはずです。さいたまスーパーアリーナを、日本におけるワールドクラスのベストアリーナのひとつにしていきたいと思っているので、期待して待っていていただけると嬉しいです。

※1:https://vivalarock.jp/2025/
※2:https://www.saitama-arena.co.jp/partner/

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