歩く人×エルスウェア紀行 安納想が語るフジファブリック「ブルー」への想い 環境音で再構築する青春の記憶
パソコン一台から始まった、音楽制作の最初の一歩
――そして今回、エルスウェア紀行の安納さんがボーカリストとして参加されています。どんなご縁が?
歩く人:制作を進めるにあたって「ボーカルが必要だよね」という話になり、スタッフと相談したんです。その中で、自分のイメージにぴったりだったのが安納さんでした。エルスウェア紀行の音楽は、もともとSpotifyのプレイリストで聴いていました。僕がオーダーしたイメージは透き通ってるけど埋もれないというか……芯がある感じ。プロジェクトの企画自体が環境音を鳴らすイメージがあったので、その真ん中に透き通って芯のある歌声がほしいなと思っていました。
――明確なイメージがあったのですね。歌もギターも、感情がじんわりと滲み出る感じで。
歩く人:はい。僕は2人組のインストゥルメンタルユニット・THE LIQUID RAYをやっていて、そこでも楽曲を出しているんですが、今回もそのギターを担当している中学時代からの幼馴染に参加してもらっています。音楽的には、環境音とギターと声が主軸となっているんですが、その3つのバランスが当初のイメージ通りにバランスよくミックスできたのはよかったなと思いますね。
――ちなみに、歩く人さんが音楽にのめり込むようになったきっかけは何だったのでしょうか?
歩く人:もともと、ものづくり自体がすごく好きで。小中学生の頃からロボットコンテストにも参加していて、その流れでプログラミングもするようになりました。あと、当時からニコニコ動画も好きで、フリーソフトだけで曲を作るような生放送を観て「自分でもやってみたい」とパソコンにソフトを入れたのが、音楽制作の最初の一歩でしたね。
――なるほど。パソコンを起点にするあたりが、世代感を感じさせますね。
歩く人:最初は、自分で音楽を作れるんだなんてそもそも思ってなかったんです。でも、作り方が少しずつわかってくること自体に驚きがあったというか……すごく嬉しかったんです。そんな経験を積み重ねるうちに、好奇心もどんどん湧いてきました。
――ニコニコ動画デビューは何年前ぐらいになりますか?
歩く人:もう10年近く前になりますね。
――最初に作品を投稿した時の気持ちは覚えていますか?
歩く人:あ、本当に最初に投稿したのは中学生ぐらいの頃で、その時の投稿先はSoundCloudでした。音楽活動は大学受験のタイミングで完全に離れた時があったんですが、大学に入って落ち着いてから、また音楽を始めようと思った時にニコニコ動画に投稿したんです。自分の曲をこんなにもたくさんの人が聴いてくれるんだ、ということが嬉しかったですね。
――3月8日にリリースされた「型落ち」も名曲で。グッとくるサウンドのセンスに思わず感情を鷲掴みにされました。エディット感ある作風でいうと今回の「ブルー」にも通じるというか。サウンドへの作り込み方にはかなりこだわられているのでは?
歩く人:ありがとうございます。環境音を模して作ったシンセの音などを使って情景を描く上での補助的な役割を持たせています。だんだんと、自分の中で音の使い方がわかってきました。
歩く人×安納想が描いた、青春感や儚さを纏った「ブルー」
――安納さんにもお話をお伺いできたらと思います。もともとフジファブリックは聴いていたのでしょうか?
安納想(以下、安納):ご本人との直接の繋がりはなかったのですが、作品はずっと好きでした。フジファブリックで「ブルー」が一番好きな曲だったので運命的なご縁を感じましたし、それが理由でお受けした部分もあります。
歩く人:それは嬉しいですね。
安納:この曲は山内総一郎さんの作られた曲なんですけど、私、山内さんの歌やギターがすごく好きなんですよ。もちろん志村(正彦)さんの「茜色の夕日」とか好きな曲もたくさんあったんですけど、私は山内さんがボーカルを務められていた時期から聴き始めたので、「ブルー」は歌詞も含めてずっと忘れられない曲でした。

――そんな思い入れのある「ブルー」のリメイクトラックを聴いた時、どんな印象を持たれましたか?
安納:オリジナルの「ブルー」とは異なる音像だったんですけど、瑞々しいというか、すごく透明感があって……その奥にある“ブルー”みたいなイメージを感じました。より透明の部分が前に出ている音像で。オリジナルの「ブルー」は少し無骨で不器用な印象があったんですが、今回のリメイクではより核心に迫るような、何も纏っていない素直さや若い純真な部分というか、そういう部分が際立っていて。ブルーの奥に感じてたものがそのまま音になっているような感じがしました。
――とても素敵な表現ですね。
歩く人:“若さ”を感じると言ってもらえるのはすごく嬉しいです。原曲ではエレキギターとピアノというか、エレクトーンの音、そしてドラムやベースなどバンドらしい構成になってるんですけど、今回はそこまで強い音を使わずにふわふわした質感を目指しました。ギターもアコギにして、ふわっとした青春感や儚さを表現したかったんです。そうしたイメージを歌詞から感じていたので、楽曲にも反映させたいと思っていました。
――その魅力がしっかりと言語化されていますね。レコーディングにあたって、お二人はどんな話をされたのですか?
歩く人:ボーカルのレコーディングに関しては、基本的にすべてお任せしました。
――作り手の解釈をどう受け取り、どう表現するか、そんな偶発的な要素を持つ企画ですもんね。テイク数的にはスムーズに進みましたか?
安納:スムーズにはいかず4、5時間ぐらいかかってしまいましたが(苦笑)、“自分としてのアイデンティティ”を込めながら歌わせていただきました。
――なるほど。
安納:表現を模索していく中で、自分なりの“正解”を探すのに時間がかかってしまって。でも、それを含めてすごく楽しかったです。エモーショナルに感情をわかりやすく爆発させるのではなく、それこそ先ほどおっしゃっていただいた“じんわり”という感覚を意識しました。曲が持っている音の世界観としては音数が多いんだけれど、余白もあって。それに合わせて表現を探していった感覚でした。本当に貴重な機会をありがとうございました。
歩く人:こちらこそ、こちらこそありがとうございました。おかげで素晴らしい作品になりました。


















