戦慄かなの×はしメロ 対談 依存からの脱却、抜け出すことを“出発点”とした「7 o'clock」制作秘話を語る

戦慄かなの×はしメロ「7 o'clock」対談

 戦慄かなのが、シンガーソングライター・はしメロを迎えた「7 o'clock」をリリースした。前作「悪い人」に続く新曲は、“依存からの脱却”をテーマにした、戦慄のリアルな心情を色濃く反映した楽曲になっているという。楽曲提供を受けた経緯から制作過程、初対面のエピソードまで、本作の裏側にはさまざまなやり取りがぎっしり詰まっている。ふたりがどのようにして信頼関係を築き、「7 o'clock」が完成に至ったのか、じっくり話を聞いた。(編集部)

“依存”から“希望”へ 戦慄かなのがはしメロに託した次なる一歩の音楽像

——まずは今回、戦慄さんサイドがはしメロさんに依頼した経緯から伺えればと思います。

戦慄かなの(以下、戦慄):ビクターさんから、「はしメロさんはどうですか」と提案していただきました。TikTokでバズった曲(MAISONdes「けーたいみしてよ feat. はしメロ, maeshima soshi」)は知っていて、ちょうどそのタイミングでほかの曲もいろいろ聴かせてもらったんです。前作の「悪い人」は、これまでソロでやってきた音楽からガラッと系統が変わったんですけど、はしメロさんの作る音楽は以前やっていたことに近い部分もありつつ、新しいものができるんじゃないかなと思ったので、ぜひお願いしたい、と私からもお伝えしました。

——はしメロさんはオファーがきたときはどう思われましたか?

戦慄:私のこと知ってました?

はしメロ:もちろん知ってました! 本音を言うと、すごくびっくりして……「えー! マジか!」と思って、とっても嬉しかったです。声が好きで、ZOCやfemme fataleも聴いてましたし、ソロの音楽もかっこよくて。重低音とビートの上にかわいい声が乗ってるギャップもすごく好きでした。だから、連絡がきたときは「よっしゃ」と思いました。

はしメロ
はしメロ

——将来の夢のひとつとしてアイドルプロデューサーになりたいと公言されているくらいですし、話も早かったわけですね。制作はどのように進んだのでしょうか?

戦慄:私が投げたリファレンスを聴いてくださったんでしたっけ?

はしメロ:はい。いくつかリファレンスをいただいて、あとは「悪い人」の次ということで、「アッパーな曲で、依存から脱却する」というテーマをいただいて。

——依存からの脱却、ですか。

戦慄:ビクターさんにはかなり自由に意見を出させてもらったんですけど、「悪い人」が出たあたりで、私生活でも恋愛の事件がありまして……。

——予言めいた曲になってしまった。

戦慄:ガチでプライベートが曲に寄っていった感じで(笑)。それもあって「悪い人」がバズった部分もあったんですけど、結構メンヘラっぽい雰囲気になったので、「次はメンヘラを勇気づける曲のほうがいいんじゃないかな」と思ったんです。今は失恋から立ち直ったので、私のプライベートに合うような曲をリリースできて最高です。

戦慄かなの

——テーマを受けて、はしメロさんはどんなふうに曲を作っていったのでしょうか。

はしメロ:“依存”がテーマの曲って、そこから抜け出すのがゴールになるじゃないですか。つらいことがあったけどもうさようなら、で終わることが多いですけど、それよりも抜け出すことが出発になるような曲がいいなと思ったんです。「7 o'clock」は朝なんですけど、朝になって、そこから進んでいく——そんな曲を書きました。

戦慄:はしメロさんのデモの声がすごくかわいくて。完成が想像しやすかったです。

——大きく分類すると、おふたりの歌声は近いところにあると思うんです。だからこそ、イメージしやすかったのかもしれませんね。

はしメロ:たしかに、ウィスパーっぽい雰囲気という意味で近いかもしれないです。

戦慄:だからきっと、私の声に合う曲を作ってくれるはずって信じてました(笑)。

——最初のデモから何度かやりとりはあったのでしょうか?

戦慄:ありました。最初は「7 o'clock」じゃなかったですよね。違う言葉で、そこを変えてほしいとお伝えしたら「7 o'clock」になったんですが、それはすごくよかったです。

——ちなみに元はどんな歌詞だったんですか?

はしメロ:え、恥ずかしいな……というのは冗談で、もとは“ハローハローグッバイ”というフレーズだった部分を、〈7 o’clock頃 グッバイ〉にしたら、自分でも「めっちゃいい!」って思えて。

戦慄:キャッチーになりましたよね。

戦慄かなの "7 o'clock" M/V

初対面の思い出は“瀬戸内寂聴ファッション”とNewJeans?

戦慄かなの

——そしてデモが完成し、実際にレコーディングという流れになるわけですよね。そこでお互い初めて顔を合わせたんですか?

はしメロ:はい。もう、めっちゃ緊張してました。「すっごい大好きでした!」って言うのはちょっとアレかなと思って、平静を装って「(落ち着いたトーンで)よろしくお願いします」みたいな。心の中では「うわーうわー!」となってました(笑)。戦慄さんはめちゃくちゃ優しくて、ずっと笑顔だし、オーラがハッピーだったんですよね。自分も楽しくなれる空間でした。

——出会い頭で突然「ファンでした」と言うのもな、と。

はしメロ:はい、もし嘘と思われたらイヤだなって……。

戦慄:あはは。私、SNSでの印象が強すぎてこわいと思われがちだから、できるだけ気さくでいることを心掛けてます(笑)。私のはしメロさんの印象は、「挙動が変な人」(笑)。難しそうな人だなと思って、怒らせないようにしなければ、みたいな。しかも私、その日は気合いを入れていたから、髪の毛を結わえて帽子をかぶってたんですね。そうすると本当に顔だけしか外に出ない感じになるんです。服は紫のジャージを着て、そのスタイルを自分では“瀬戸内寂聴ファッション”って呼んでるんですよ(笑)。寂聴ファッションだし、眉毛も書いてないし、やばいやつ来たと思われたかなって。

——レコーディングでがっつりメイクする必要はないですし、服も動きやすいほうがいいですもんね。

戦慄:はしメロさんが私のことを知ってるとは知らなかったので、「これがアイドルか」って思われたらどうしようって思ってました。変なやつに楽曲提供してしまった、みたいな(笑)。その時にはしメロさんがNewJeansのグッズを持っていて、私も好きなので、共通の話題を見つけたと思って話しかけました。「NewJeans残念ですよね……」って(笑)。

——なんとも言えない時事ネタをきっかけに話しかけたんですね(笑)。そうやって積極的にコミュニケーションを取るのが戦慄さんらしいなとも思います。はしメロさんはレコーディングに立ち会ってみていかがでしたか?

はしメロ:ピッチがすごくいいのと、何度も曲と向き合ってくれる姿勢にリスペクトを感じました。自分も見習いたいと思いましたね。あとは、テイクに〇をつけていく作業があるんですけど、歌声が好きだから「〇やな」「これも◯」みたいになっちゃって(笑)。ずっと「花丸です!」って戦慄さんに言ってました。すごく幸せな時間でした。

戦慄かなの "7 o'clock" Lyric Video

——すべて〇だとテイクを選ぶのも大変そう(笑)。それにしても、戦慄さんはピッチがよいのですね。

はしメロ:もう本当に素晴らしくて、感動しました。

戦慄:ありがとうございます。はしメロさん自身も歌う方なので、イメージに合ってないと申し訳ないし、その上で自分でも納得いくものじゃないといやだったので、歌っては聴いてを繰り返して、自分でも「このテイクはダメ」とか自分でも意見を出しながら一緒にテイクを決めていきました。事前に何度も聴いて臨んだんですけど、ラップ部分は当日まで自分は合ってるんだろうかという状態だったし、歌ってみると意外とブレスの位置も難しくて。私は滑舌がよくないので、ラップ部分は移動中のタクシーとかでも口ずさんで練習してました。

——運転手さんも「やばい人を乗せてしまった」と思ったのではないでしょうか(笑)。

戦慄:私、急いでほしい時は「テテテーテテテーテテテテテ」って音楽(「クシコス・ポスト」)を流すんですよ。サブリミナルで急いでくれるかなって。

——なんという乗客!

戦慄:自分から「急いでください」とは言わないけど、それを無言で流す(笑)。それよりはラップの練習してる乗客のほうがいくらかマシですよね。

——そういう問題なんですか(笑)? でも、戦慄さんのそんな努力もあり、レコーディングはスムーズに進んだのでしょうか。

はしメロ:すごく丁寧に歌ってくださるので、いろいろなパターンを試させてもらったんです。「ここはこう上がるのはどうですか」とか、「語尾をこうするのはどうですか」みたいにたくさん録らせてもらったので、時間はそれなりにかかりましたね。

戦慄:自分も「こういうふうに歌いたい」「こう聴かれたい」というこだわりも強いので、何回も歌いたかったんですよね。私の声的にピッチ重視で歌うとボーカロイドみたいになっちゃうので、最終的には滑舌やアクセントに重きを置いて歌のテイクをセレクトしました。

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