Mrs. GREEN APPLEらサポート、森夏彦(Shiggy Jr.)が語るベーシスト=ヴィンセン・ガルシアの凄み 来日直前に徹底解説!

現在のモダンジャズ、ファンク界で最も注目を集めているベーシストと言っても過言ではないヴィンセン・ガルシア。世界各地のジャズフェスティバルなどで観客を沸かせ、コリー・ウォン、ヘスス・モリーナなどのツアーでも腕を奮ってきた彼の公演が、日本国内3都市のビルボードライブで開催される。しかも、ソロ名義での来日公演は今回が初。毎回のステージで世界最高峰のサウンドが鳴り響くこと必至だ。
今回リアルサウンドでは、Mrs. GREEN APPLE、Tele、Lavtなどのサポートを務め、自身のバンド・Shiggy Jr.でも活躍しているベーシスト・森夏彦にインタビュー。森も、ヴィンセン・ガルシアの活動を追い続けているひとりだ。プロの観点から彼の魅力を語ってもらった。(田中大)
「あまりにも圧倒的」――ヴィンセン・ガルシアのすごさ
――どんなきっかけでヴィンセン・ガルシアのことを知りましたか?
森夏彦(以下、森):コロナ禍の最中にインスタ(Instagram)でいろいろなミュージシャンが動画を上げているなか、「とんでもなく上手い人がいるなあ」ってなったのが、彼を知った最初でした。すごすぎて、もう怖くなるくらい(笑)。インスタをフォローして活動を追うようになって、リリースしたアルバムを聴いたりもしてきました。
――彼のプレイの魅力は、どのようなところにあると感じていますか?
森:圧倒的なフィジカルの力というか。“すごい”を通り越して、“笑っちゃう”という感じなんですよね。あまりにも圧倒的なので。理解を超えたものに触れた時の人間の反応って、笑うしかないんだと思います(笑)。とにかくパッセージが速いし、音の粒の揃え方も異常。ちょっとした隙間に入れてくるゴーストノートも完璧なタイミングなので、ベースという楽器を完璧にコントロールしている人なんだと思いますね。
――ベースのことをよく知らない人も、「あからさまにすごい!」「とんでもない!」ってなるんだと思います。
森:それがすごさですよね。ベーシストの僕が見てももちろんすごいんですけど、曲芸的な感じもあるというか。ベースを弾いたことがない人にも「なんかヤバいぞ」と思わせる、いわばサーカスのようなすごさですよね。
――奏でる音はもちろん、弾いている姿も人を魅了する力があるんだと思います。ものすごいダンスパフォーマンスを観ているかのような衝撃というか。
森:インスタで伸びる理由は、そこにもあるんだと思います。ゴスペル系のベーシストともちょっと違うんですよ。ゴスペル系の人って一回弾くだけでハンマリングとかプリングで5音くらいを出すすごさがあるんですけど、彼の場合はほぼフルピッキングなんです。ジャコ・パストリアス、アドリアン・フェローのような指弾きの感じなんですけど、その最新形というか。「弾けるところは弾く」というのが音の粒立ちのよさに繋がっているんだと思います。もちろんフレージングも素晴らしいんですけど、アスリート的なすごさも感じますね。上手い人が世界各国にいるけれど、やはり頭ひとつ抜けてる存在というか。彼以上のフィジカルとコントロール力を持ってる人は、なかなかいない気がします。
――プレイの引き出しもかなり幅広いですよね。Funkiwisのメンバーとしてミクスチャーロックをやっていたこともありましたし、ジャズ、ファンクも含めたオールラウンドプレイヤーです。
森:最初の頃はラテンミュージックをやっていたようなんですよ。スペイン出身ですから、ルーツがそういうところにもあるのかな。今は16分の速いプレイを主にやってますけど、いろんな引き出しを持ってそうです。幅広いなかでも、彼ならではの音がしてるのがすごいですよ。

――森さんも、サポートの仕事を含めて、幅広いプレイをするので、彼と通ずるものがあるんじゃないですか?
森:ひとつのことしかやらないわけではないという点では、たしかにそうなのかもしれないです。でも、「通ずるものがある」なんて、おこがましい限りです(笑)。
――コリー・ウォンのバンドで弾いているのを観ても感じるのですが、ヴィンセンはサポートの仕事でも華があって、個性を出しているじゃないですか。「お仕事なので」という覇気のないプレイは観ている側としても楽しくないので、彼のあの感じは理想形のひとつかもしれないですよ。
森:彼はちゃんとベースの立ち位置がわかっているし、行く時はどこまでも行くんです。自分が持っている技術を完全に信頼しているのを感じますね。超一流のプレイヤーたちに囲まれているなかでも、「ああいうことをやるベーシストは今まで見たことがない」と思えるすごさがあるんですよ。「ベースでそんなことができるんだ!」ということを見せつけられる感じもあります。
――ギターみたいな上モノ楽器と比べると、ベースは縁の下の力持ち的なところがあって、注目を浴びづらい傾向がありますが、ヴィンセンのプレイはスター性の塊ですよね。
森:Vulfpeckのジョー・ダートとか、最近もベースヒーローがいないわけではないですけど、やっぱりそういう存在は少ないですよね。ヴィンセン・ガルシアは“最新のスター”という感じがします。
――森さんご自身、「プレイに注目してほしい」とベースを弾きながら感じることはありますか?
森:僕はないです。ベースも、目立とうと思えば目立てるんですよ。ギターの速弾きはみんな慣れていると思うんですけど、ベースでそういうことをする人はあまりいないので、速弾きをすると目立つんです。でも、そういうことをして目立ちたいという願望は僕にはなくて。それよりも、アンサンブルのなかで楽しくいたいんです。「気持ちよく演奏していたい」という感じなんですよね。僕はテクニックを発揮するタイプではないので、速いプレイは難しすぎてコピーできないですし、挑戦したこともないです。「観てるだけでいいや」と楽しんでいるレベル(笑)。でも、彼はスラップに関してはオーソドックスなので、真似してみることがあります。
――スタイルがまったく別なので比較するものでもないですけど、Mrs. GREEN APPLEも難易度がかなり高いですよね?
森:はい。ミセスも難易度が高いです。「これ、どうやって弾けばいいんだろう?」というのが、ほぼ毎回(笑)。とにかくデモを聴き込んで身体に入れ込む、という感じなんです。頭で考えながら弾いても間に合わないので、反復練習をひたすらするというか。意識しないで弾けるようになるまで頑張って練習するしかないんです。
――ミセスに憧れてバンドを始めようと思った人たちは、かなり大変でしょうね。
森:ロックバンドの域に収まらないところまで行っちゃってるので、コピーはなかなか難しいと思います。「弾きたい!」と思った曲をとりあえずいっぱいコピーしてみるのが、まずはいちばんいいんだと思います。好きな曲は、コピーするのが苦にならないですからね。ひたすら繰り返してほしいですね。僕も高校の頃とかにコピーばっかりやって、基礎力を磨いていったんです。コピーして身につけたものは、ほかの曲にも応用できるようになっていくんですよ。難しい曲をコピーしたあとに簡単な曲と向き合うと、難しい曲を活かした自分なりのアレンジを加える余裕も生まれてくるので。だから、簡単な曲ばかりではなくて、自分にとってのチャレンジ曲も設定して練習してみると表現の幅が広がっていくと思います。
――好きな曲をコピーして基礎力を上げる難易度が、昔よりも上がってきているようにも感じるんですよね。ボーカロイドの登場以降、歌の難易度も上昇傾向が著しいですから。
森:DTMで曲を作るようになってから、人間が容易には弾けないようなフレーズも入れられるようになりましたからね。キメが多かったり、コードも複雑化してきて、全部盛りというか。
――ミセスをボーカルでカバーするのも、奮闘しているはずです。
森:ミセスの歌はボカロとはまた別軸のすごさがありますよね。大森(元貴)くんのポテンシャルは本当にすごいです。

――森さんは、どのようなきっかけでベースを弾くようになったんですか?
森:僕はずっとピアノをやっていて、中学からはギターも弾くようになったんです。でも、ギターは弾かなくなっちゃって。とはいえ、「高校に入ったらバンドをやりたい」という思いはあって、「じゃあベースをやってみようかな?」と弾き始めたのが最初でした。つまり、バンドを始めるためにベースも始めたんですよ。ベースは入りは簡単な楽器なので、意外と最初の頃からそこそこ弾けて、どんどん楽しくなっていきました。
――その頃は、どんな曲を弾いていたんですか?
森:銀杏BOYZ、Green Dayとか。高校時代はパンクベーシストだったんです。南京錠ネックレスを着けていましたから(笑)。
――(笑)。シド・ヴィシャス風の?
森:Sex PistolsのTシャツを着て、スタッズベルトをして、眉毛がゲジゲジで、プレベ(プレシジョンベース)をダウンピッキングしてました(笑)。
――シドと同じ白ボディ、黒ピックガードのプレべですか?
森:黒ボディ、白ピックガードだったので、逆ではあるんですけど。ストラップを長くしてGreen Day、MxPxとかをやってましたね。
――南京錠に刻まれているアルファベットは、やはり“R”?
森:Rです(笑)。
――徹底していたんですね(笑)。パンク以外もやっていました?
森:パンクをやりつつも、音楽はそれ以外もいっぱい聴いていたので。あと、メンバーが「コピーしたい」と言った曲もやってました。BUMP OF CHICKEN、東京事変とか。


















