サザンオールスターズ、ニューアルバムを携えたツアーの威力の凄まじさ 兵庫慎司による東京ドーム公演濃密レポ

ニューアルバムを携えたサザンツアーの威力

 以上、この日のライブにおける事実関係で、押さえておくべきであろうと判断したことを書きました。では、以下は自分の印象や、感想や、考えたことです。

まず何よりも、

サザンのニューアルバムのツアーっていいわあ!

これに尽きた、とにかく。

 自分がこのツアーの前にサザンを観たのは、2024年9月23日の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024 in HITACHINAKA』。その前は2023年10月1日、『茅ヶ崎ライブ2023』の最終日。その前は、(無観客配信ライブを除くと)2019年のツアー『“キミは見てくれが悪いんだから、アホ丸出しでマイクを握ってろ!!”』だと!? ふざけるな!!』の名古屋公演=6月1日ナゴヤドームだった。

 つまり、ニューアルバムを携えてのライブを観たのは、2015年の『おいしい葡萄の旅』の時以来、10年ぶりだったので、正直、忘れていたのだ。ニューアルバムがある時の、サザンオールスターズのライブの威力を。

 それ以降のツアーだって、後に『THANK YOU SO MUCH』に収録されることになる新曲が披露されては来たが、それらも含め、このアルバムで初めて聴けた曲も含め、28曲のうち12曲を、ニューアルバムの曲が占めた時の、この感じ。音源で何度も聴いた曲を、生で数度目に、あるいは初めて、聴ける瞬間の喜び。

 それを10年ぶりに思い出させてくれたツアーだった。あたりまえだ。あたりまえなんだけど、何度も言うが、忘れていたのだ、10年ぶりだったもんで。

 もちろん、サザンオールスターズというバンドの、桑田佳祐というパフォーマーの、もしくはサザンチーム全体のスタッフワークも含めて、それらの新しい曲の、オーディエンスに対してのプレゼンのしかた、その手際の見事さありきでの話でもある。

 それらの中でも、個人的に、特にグッときたのは、2曲だった。

 まず、先にも書いた、デビュー前の未音源化曲である「悲しみはブギの彼方に」(16曲目)を、初めて生で聴けたことだ。未発表であったにもかかわらず、自分は長年、この曲を知っている気になっていた。なんで。関口和之の1983年の著書『突然ですがキリギリス 誰も書きたくなかったサザンオールスターズ』(その後、1991年に『突然ですがキリギリス サザンオールスターズ音楽青春物語』と改題して集英社文庫に入った)に、出て来るからです。

 「女呼んでブギ」を最初に練習した時、「女 呼んで もんで 抱いて いい気持ち」という歌い出しで、メンバー一同爆笑して演奏が中断した、という話や、「勝手にシンドバッド」を持って来た時は、「こんなのやりたくないよ」と言うメンバーもいたが、桑田が「シャレだよシャレ、わざとやんだよ」と説得した、という話と共に、「『雨が降らないと 米食えない 早く寝ないと 夢見れない』という歌詞を聴いた時、桑田は天才だと感動したものである」と、この曲のことをムクちゃん(関口)が書いていたことが、とても強く記憶に残っていたのだった。

 そしてもう1曲は、本編後半のピークタイム突入ゾーンのスタートを担った「恋のブギウギナイト」である。

 AIボイスが「ミラーボール、回転」と告げ、ドームのあちこちに仕込まれたミラーボールが一斉に光を放ち始め、あのギターが響き、そこに他の楽器群の音が加わってイントロになり、ゴージャスな夜の衣装を纏ったEBATOダンシングチームが踊り始めた時のカタルシス、ちょっともう、筆舌に尽くしがたいものがあった。まだ桑田が歌い始めていないのに。そして、そのカタルシスは、桑田がAメロを歌い始める→サビになる→2コーラス目に突入する──と、曲が進んでいくごとに、どんどん高まっていった。昂っていった、と言った方がいいかもしれない。

 昨年の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024 in HITACHINAKA』の同曲で味わったものを、軽く超えるレベルだった。その時と異なり、全国ツアーを経て来たファイナルだったので、演奏自体、パフォーマンス自体が磨き抜かれていたからか。東京ドームという会場の効果もあったのか。前回生で観てからの8カ月の間に、曲に対する自分の思い入れが高まったせいか。どれが理由なのかわからないし、どれも理由なのかもしれないが、とにかくもう、クラクラするレベルだった。

 それ以降のおなじみの曲たちも、言うまでもなくすばらしかったし、興奮させられたが、自分的な絶頂ポイントは、この時だった。で、47年というキャリアにおいて、数え切れないほどのアンセムを生んできた中で、最新アルバムの曲が絶頂ポイントって、なんちゅうバンドなんだ、サザンって。と、改めて思った。

 その「恋のブギウギナイト」の最後に桑田は、『ROCK IN JAPAN FES.』の時と同じように、「♪ピアノ売ってちょうだい、タケモトピアノ」と、2023年10月に亡くなった財津一郎に、オマージュを捧げた。

 あと、アンコールを終えてから、アントニオ猪木への追悼の意を込めて「1、2、3、ダーッ!」をやるのは、猪木が亡くなって以降の恒例になっているが、今回は、今年4月21日に亡くなった新間寿の名前も出して、彼に捧げる意味でも、行われた。桑田、「プロレス好きな人にしかわかんないと思うんですけど」。新日本プロレスのフロントだった「過激な仕掛け人」であり、猪木の片腕であり、その後いろいろあって敵に回ったりもした──そうですね、プロレス好きな人しかわからないかもですね。

 そういえば、17曲目の「ミツコとカンジ」を聴いている時も、改めて、それに近いことを思った。この曲のタイトルは、倍賞美津子とアントニオ猪木の本名(寛至)から付けられている。というか、そのふたりをモチーフに、曲が書かれている。プロレスファンなら知っているけど……いや、令和の若いプロレスファンは、知らないかも。

 と思い、帰り道で出くわした、年下の知人(特にプロレスファンではない)に、訊いてみた。

 「ええっ、猪木と倍賞美津子って、夫婦だったんですか?」

 というリアクションだった。彼の年齢(43歳)を鑑みるに、うん、そりゃあまあそうよね、それが普通よね。

 ちなみに、この東京ドームのセットリストがプレイリスト化されて、各配信サイトにアップされているので、観れた方も観れなかった方にもお勧めしておきます。何度聴いても、頭から最後まで、絶妙だなあ、と思うので。

サザンオールスターズ オフィシャルサイト:https://southernallstars.jp

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