松田聖子、45周年ベスト盤が紡ぐ“青春” 槇原敬之提供曲に込められた想い、色褪せない名曲群を読み解く
不朽の名曲とその背景ーー新録「青い珊瑚礁」と時代を映すセルフカバーも
続いて、オールタイムベストの収録曲から何曲かピックアップして触れていきたい。本作は45周年にちなんで“45曲”が収録されている。
シングルA面曲をセルフカバーしたDISC 1からは今作のために新録された「青い珊瑚礁 ~Blue Lagoon~ 2025 Mix」を取り上げたい。オリジナルは松田聖子の2枚目のシングルとして1980年にリリースされ、人気を決定づけた一曲だ。高音のロングトーンから始まる爽やかなメロディで、伸びやかなクリアボイスを国民に強く印象づけた。リリース翌年には『第53回選抜高等学校野球大会』の入場行進曲に抜擢されている。2024年には、K-POPグループ・New JeansのHANNIがカバーしたことをきっかけに再びバズを起こしたことも記憶に新しい。新録バージョンでは、母音の多彩なニュアンス、歌い出しの子音にかけるクレッシェンドなどのオリジナルの魅力を感じながら、ボーカルアプローチの豊富さにも注目してほしい。
DISC 2は、シングルB面及びアルバム曲セルフカバー。この盤でまず触れたいのが「時間旅行 ~I still miss you~」(1986年)である。松田聖子は一世を風靡し、髪型やファッションなども含めて社会現象にまでなったアイドル。“聖子ちゃんカット”と呼ばれる髪型は、当時の女子中高生の間で大流行。ミドルロングの髪をふんわりと後ろに流すこのスタイルは、くるくるドライヤーや朝シャン、ヘアスプレーなどの普及にも影響を与えた。この髪型は、松田聖子がデビューしてから2年後、“アイドル黄金年”と言われた1982年デビュー組の中森明菜や小泉今日子のデビュー当時にまで影響を及ぼしているのだ。
トップアイドルとしての活動と並行して、1980年代前半から作詞や作曲も手掛けるようになる。「時間旅行 ~I still miss you~」は“SEIKO”名義で作曲した楽曲で、13枚目のオリジナルアルバム『SUPREME』(1986年)に収録されたバラード。1990年代以降のセルフプロデュース期、そして自身初のミリオンヒットとなった「あなたに逢いたくて~Missing You~」に繋がる、シンガーソングライター・松田聖子の萌芽を感じさせる一曲である。DISC 2には、初期のアルバムに収録されている人気曲の新録バージョンが揃っているところもファンには嬉しいトピックだろう。どの曲もリリース当時の魅力をしっかり残しながら、絶妙なリアレンジが施されており、当時とはまた違った表情を見せている。
冒頭でも触れたが、約10年ぶりにタッグを組んだ松任谷が呉田軽穂名義で作曲した「レモネードの夏 2025(新録)」(オリジナルは1982年)も収録されている。オリジナルとテンポは同じながら、聖子のボーカルアプローチにより、さらにリラックスしたムードが加わっている。オリジナルが夏の太陽の下で遊び、一休みする時に飲んだ“レモネード”だとしたら、新録は大きな木陰の下で海を眺めながら飲んだ“レモネード”のようだ。
また、代表曲のひとつである「赤いスイートピー」は、呉田軽穂が初めて松田聖子に提供した楽曲。それまでの伸びやかなハイトーンを生かしたストレートな歌唱法から一転、朝露のような湿度感や中低音のハスキーな儚さを引き出したのが「赤いスイートピー」という名曲である。本曲のリリースタイミングで髪型をショートカットにしたが、この髪型も全国で流行し、以降、女性のショートカットスタイルが一般化するきっかけにもなった。






















