いきものがかり×ハンバート ハンバート、懐かしい情景に寄り添ったコラボ秘話 ユニットとして通ずる心がけも明かす

いきものがかりが11枚目となるアルバム『あそび』をリリースした。この中の1曲、「夕焼けが生まれる街 meets ハンバート ハンバート」は吉岡聖恵(Vo)による作詞・作曲で、ハンバート ハンバートの佐藤良成がアレンジを手掛けた。吉岡が幼少期に見た懐かしい景色や感情を素直なメロディに投影させた歌を、アコースティックな温もりに満ちたサウンドとコーラスワークで包み込むような仕上がりは、この2組のコラボならでは。同じ男女ユニットではあるものの、音楽ルーツも活動スタイルも異なる2組だけれど、その核心部分での共鳴を感じさせるような仕上がりになっている。
今回はいきものがかりの吉岡、水野良樹(Gt/Pf)とハンバート ハンバートの佐野遊穂、佐藤による4名の対談取材で、コラボの経緯や制作エピソード、曲から感じた懐かしい景色の話などを語ってもらった。(上野三樹)
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“素の吉岡聖恵”が出た1曲、ハンバート ハンバートとのシンパシー
――「夕焼けが生まれる街 meets ハンバート ハンバート」について、まずはコラボの経緯から教えてください。
水野良樹(以下、水野):今回のアルバムは『あそび』というタイトルで、今まで踏み込んでこなかった他のアーティストの方たちとのコラボレーションをやってみようというコンセプトがありました。制作中に吉岡から「夕焼けが生まれる街」になる曲のデモが送られてきて、この曲をどなたにアレンジをお願いするかという話をしていた時に、1年前にアルバム『いきものがかりmeets』に参加していただいたハンバート ハンバートさんにお願いするのがいいんじゃないかと思いました。吉岡が曲の中で自分の幼少期のことや、感情の機微に触れるところを書いてきているなというのはわかったので、そこをしっかり包み込んでくれるという信頼と、音楽的なシンパシーのある方とご一緒させていただくのがいいなと。前回の現場のいい雰囲気が記憶にあったから、依頼させていただいたのがスタートです。
吉岡聖恵(以下、吉岡):この曲は、曲を作ろうと思って書いたというよりは、ふと自分が夕焼けを見た時にこのフレーズと言葉がそのまま出てきてしまって。曲ができ上がった時に、自分の核の部分というか、素の部分が出ちゃったなと思いました。フレーズの中にも〈大きな山〉とか〈虫の声〉といった自分が本当に見てきた景色が具体的に出てきます。子供の頃のピュアな部分や素朴な部分が入っているこの曲だからこそ、シンプルに聴こえるけど温かみのあるハンバート ハンバートさんのアレンジで仕上げていただけたら嬉しいなと思っていました。


――ハンバート ハンバートのお二人は今回のオファーを受けた時どんな気持ちでしたか。
佐藤良成(以下、佐藤):とても嬉しかったですね。前回の「なくもんか」の時はコラボレーションアルバムというコンセプトの中の1曲としてご一緒させていただいて。こうして「もう1回一緒にやりましょう」と言っていただけるのは、自分が作ったものを気に入っていただけたんだなというのが伝わってきて本当に嬉しかったです。
佐野遊穂(以下、佐野):前回の打ち合わせの時に聖恵さんに私たちの音楽の印象を「木っぽい感じ」と言っていただいたというのをすごく覚えていて(笑)。きっとウッディなサウンドっていう意味だと思うんですけど、なんかすごく納得して。今回もいつも通り私たちらしい感じでやらせてもらいました。
――曲のイメージとしてはどういった共通認識で進めていったんですか。
水野:アレンジをお願いする時に、吉岡が厚木の景色の話を熱弁してたのを覚えてるな(笑)。
吉岡:はい、熱い想いをぶつけてしまったんですけど、温かく受け止めていただきました。
佐野:吉岡さんが厚木の景色の話をしてくれた次の日に偶然、良成は厚木の山に登ったんだよね?
佐藤:そうそう。僕はもう20年以上、高校の同級生たちと年に1回は山登りをしているんですけど、ちょうど打ち合わせの翌日が登山だったんですね。それで「明日、本厚木の駅でみんなで待ち合わせしてるんです」なんて話をして。厚木のご出身だと知っていたから、最初に曲を聴いた時から「これはもしかして大山のことかな?」なんてイメージしていたら、やっぱり大山だった(笑)。
吉岡:そんな偶然がなければ「その大山です!」なんて会話にならなかったと思うから、そこでもまた安心しちゃいましたね(笑)。
水野:大山って、その辺りに住んでいる人たちはみんな知っている山なんです。学校の校歌にも出てくるような。
佐藤:登山のメンバーはみんなおっさんばかりなので、実際に登ったのは大山の隣の隣くらいの小さな山なんですけどね(笑)。でも現地調査にはなりました。

――「夕焼けが生まれる街」は誰もが自分にとっての懐かしい景色を思い浮かべるような郷愁を感じさせる楽曲に仕上がっていますが、アレンジをしながら2組でどんなやり取りをしましたか。
水野:「ドラムロールがだんだんと積み重なっていくみたいなイメージで」というのはひとつお伝えしました。でもそれも大袈裟なものではなくて、ちょっとずつ熱が重なっていくみたいな。そのあたりはすごく綺麗にまとめてくださった気がしますね。
吉岡:佐藤さんはアレンジに取り掛かっていただく時に「この曲はどれくらい盛り上がりたいですか?」と聞いてくださいましたよね。全然上手く答えられなかったんですけど(笑)。
佐藤:ほら、私たちの曲がそんなに盛り上がらないことが多いので……いきものがかりの盛り上がる曲くらいまで行けない可能性があるけど、いいのかなっていう心配があったので。
吉岡:私は全然不安がなかったです!
佐藤:良かったです(笑)。
ボーカル録りに表れる両ユニットのユニークな違い
――水野さんもコーラスに加わって皆さんで歌われたということですが。
佐野:良成がコーラスラインを何度も練り直していたよね。
佐藤:そうだね。普段僕らは2人ですから、主旋律に対してどちらかがハモることがほとんどで。それは譜面にしなくてもなんとなく一緒に歌っていい感じなところが見つかれば、それを録音して終わりなんですけど。今回コーラスが3声となると、そうはいかないから。
水野:僕がコーラスに参加するって言っちゃったから、ハードル上げちゃいましたよね(笑)。でもお二人の声が重なった時の「ハンバート ハンバートだ!」っていう感じ、あれが本当に素晴らしくて。それぞれが持っている独特の揺らぎが合わさることでひとつのカラーになるのをまざまざと見させてもらいました。それを聴いて「僕も歌うって言っちゃったな」とちょっと思いました(笑)。
佐藤:すごく嬉しかったですよ。いきものがかりのレコーディングでは吉岡さんが一人でコーラスを重ねるんですか?
水野:そうですね。吉岡の声を重ねていきます。たまに男性の声があった方がいいよねってなった時に僕が入れることもありますが、僕の存在を前に出す感じじゃないんです。
佐藤:前回、「なくもんか」のデータをいただいたじゃないですか。そこには普通に聴いていると気づかないくらいの細かいコーラスが一瞬だけ入っていたりして、すごく面白かったです。「ポップスっていうのはこういう風に作るんだ、すごいな」って勉強になりました。
水野:今はもうちょっとシンプルなんですけど、その頃は本当に細かくやっていましたね。ディレクターさんが、とにかくコーラスをいっぱい録ってみる感じでやってくださっていて。「(声の)墓場がいくつあっても足りない」と言ってましたね(笑)。
吉岡:上も下も、とにかく声をたくさん重ねていくんですけど。二度と会えない仲間たちがたくさんいるんです(笑)。


――ハンバート ハンバートのボーカル録りはもっとシンプルですか?
佐野:そういう隠し味みたいなものは入れてないですね。
佐藤:僕たちは自己流でどういう風にしたらいいのかわからないまま試行錯誤でやってきたので、つい最近までボーカルのダビングというのもほとんどしたことがなかったんですよね。というのも、ライブでやる時に再現できないと困るだろうというのがまずあって。ミッキーマウスと同じように“遊穂は2人いない”という理論で、ライブでできないことはやらないという風にしてたんですけど。でも最近では「そんなの別に誰も気にしないよな」と、ライブとレコーディングが同じである必要もないなと考えるようになってきました。
――コーラス録りひとつでも、真逆の手法なんですね。では吉岡さんが「夕焼けが生まれる街」を歌う時に心掛けたのはどんなことでしたか。
吉岡:私はいきものがかりで自分で曲を作ることがほとんどないので、自分の曲を歌うことに慣れてないんです。曲を作らないからこそ、曲と向き合う時に初めて「これってこういう物語なのかな」「こういう景色なのかな」とか想像を膨らませていって、自分は物語の語り手になるようなところがあるので。自分が作った曲だと距離が近すぎて、いつも歌い方や距離の取り方に困ってしまうんです。だけど今回は自分の中からナチュラルに出てきた曲だから、ナチュラルに歌いたくて。たくさん練習をすることもあえてせずに、客観的に「ここってこういう風に歌ったほうがいいのかな」というのを、メンバーが書いた曲みたいに冷静に書き込んでみたことで、程よく距離感を保ちながら歌うことができました。もともと自分が出ちゃってる曲なので、余計な感情移入をしたくないなと思っていたし、私はいつも歌う時に肩の力が入っちゃうタイプだと思うんですけど「ナチュラルに向き合えばいいんだ」と思わせてくれるサウンドにハンバート ハンバートさんが仕上げてくださった。私がそのまま歌を乗せていけるような自然さがあったので、本当にありがたかったです。
水野:確かに吉岡のボーカルをどれくらいのテンションにしようかなというのは僕も考えたところだったんですけど。仮歌で歌っていた時のような朴訥とした感じを残しながら芯のあるものになればいいなと思っていました。感情的になりすぎるより、さらっと歌っている方がよくて。だけどこの曲は歌入れもわりとスムーズでしたね。
吉岡:力を抜いて歌えたのは成長かもしれない(笑)!



















