連載「lit!」第151回:≠ME、FRUITS ZIPPER、可憐なアイボリー……令和のアイドルが奏でるラブソングの現在形
「かわいい」や「切ない」だけでは語りきれない、自己愛や葛藤、支え合い、そして祈りにも似た感情。2025年春、日本のアイドルたちは、こうした多様な愛の形を音楽に託し、それぞれの立場からリアルな想いを届けている。本稿では、5組のアイドル楽曲を通して、“今”のラブソングが映し出すアイドルたちの表現の現在地に迫っていく。
≠ME『モブノデレラ/神様の言うとーり!』
≠MEが2025年4月30日にリリースした10枚目のシングル『モブノデレラ/神様の言うとーり!』は、アイドルという表現の幅広さを再定義する両A面作品となった。表題曲のひとつ「モブノデレラ」は、作曲は関口颯太と杉山勝彦、編曲は杉山が務め、切なさと透明感が交錯するサウンドが特徴的だ。歌詞は“ヒロインになれない女の子”の視点から綴られており、〈誰かの夢が叶うたびに空っぽの拍手してたんだ〉といったフレーズが、選ばれない存在としての孤独や諦念を描いている。
対照的に、「神様の言うとーり!」はアニメ『甘神さんちの縁結び』2ndクールのエンディングテーマとして書き下ろされたラブソング。〈真っ直ぐ見て 私だけを選ぶ Love or Love〉というサビのフレーズが象徴するように、この曲が描くのは、自分の“好き”を信じて真剣に祈る恋の姿だ。「モブノデレラ」で見せた内省的な表現とは裏腹に、「神様の言うとーり!」は表情もダンスも前向きに解放されており、この両曲によって≠MEが持つ“感情のレンジ”の広さがより浮き彫りになっている。
FRUITS ZIPPER「KawaiiってMagic」
結成3周年を迎えたFRUITS ZIPPERが、2025年5月14日にリリースしたのが3rdシングル『KawaiiってMagic』。プロデューサーに中田ヤスタカ(CAPSULE)を迎えた表題曲は、グループが掲げる「原宿から世界へ」「NEW KAWAII」の世界観を、より洗練されたサウンドとポジティブなメッセージで更新した意欲作だ。
〈きっと大丈夫 大丈夫 つまずいても 涙 Bye-bye Kawaii Kawaii Kawaii〉——そんなフレーズが印象的な本楽曲は、耳なじみのよいエレクトロポップに乗せて、「かわいい」という言葉を単なる形容ではなく、困難を乗り越える力として捉えているのが大きな特徴だ。“誰かにかわいいと言われたい”という承認欲求ではなく、“自分自身を好きでいる”という自己肯定を源とする愛。それはまさに、FRUITS ZIPPERが「わたしの一番かわいいところ」で見せた自己発見のステップを経て辿り着いた、“Kawaiiの進化形”とも言える。






















