Maverick Mom、『COMPASS』東京公演で示した誰かの記憶に残る“自分らしさ” 成長を続けるバンドの現在地を観て

――自分らしさを貫いて、耳にした瞬間に聴いた人の頭や心に残るバンドになっていきたい。
これは金沢在住のロックバンド、Maverick Momのバンド名に込められている想いだ。結成当初こそ“異端児4人だからこそ奏でられる唯一無二の音楽性”に猪突猛進していた彼らだったが、活動を重ねる中で次第に心情が変化。現在では“自分らしさ”を大切にしながらも、誰かの記憶に残るような唯一無二の音楽を追い求めている。
2025年5月10日に、Spotify O-Crestにて開催された『EP「COMPASS」リリースツアー』の東京公演は、そんな彼らの信念を眩しいほどに感じた一夜だった。客演には、南出大史(Gt/Vo)が愛してやまないChim Chapが出演。今をときめく2バンドで、伝説の1つになるであろう時間を作り出したのである。
滋賀発のミクスチャーバンド・Chim Chapの先行でライブはスタート。ジェシー(Vo)は、ステージに姿を現すやいなや「楽しむ準備できてる? いけんの?」と煽り、一気に会場の空気を掌握。疾走感のある「Lipstick」を投下し、オープニングから観客のボルテージを上げていく。「スパンコール」では声のエッセンスを調節しながら吐息さえも魅惑的に響かせ、「不完全花」ではお互いの呼吸を感じながら、緻密なセッションを繰り広げる。バラエティ豊かな楽曲を展開しつつも、思わず仲間に混ざりたくなるようなムードは一貫しており、自然と拳を上げたくなったり、クラップをしたくなったり、体を揺らしたくなったりするのだ。Chim Chapのパフォーマンスには、そういった不思議な引力が秘められているのだろう。王道爽やかサウンドの「カシス」で締めくくり、万全の状態でMaverick Momへバトンを渡した。
転換タイムを経て場内が暗転すると、一斉に拍手が起こる。観客はすでに準備万端といった様子で、その視線はステージに釘付けだ。そして、いよいよ真打ちMaverick Momの登場。「イエローメッセンジャー」で堂々たる幕開けを飾り、熱狂のライブへと導いていった。凛とした佇まいには、名古屋、大阪とツアーを重ねる中で培われてきた自信が表れている。初っ端から南出のギターの弦が切れてしまうハプニングがあったものの、4人は動揺した素振りを見せることなく演奏を続行。そればかりか、阿吽の呼吸で抜群のグルーヴを作り上げていった。“ララララ”のシンガロンがフロアを満たす「ZONE」、正統派ロックサウンドが壮大に鳴り渡る「アスニヒカル」、〈描いた想像の未来へ〉と歌い上げる冒頭が印象的な「存在の証明」と、彼らの勢いは止まらない。リズムやノリの変化に合わせて柔軟に対応し、一体感を魅せつけた。

MCになると「今日の我々は、ちょっと笑顔が多いですね。Chim Chapが、かっこよかったからかな」と嬉しそうに口角をあげる南出。さらには、ジェシーのカッコよさにも言及し「俺なんか髪かき上げられないもん。横から失礼します、みたいな感じになっちゃうから(笑)」と話し、観客の笑いを誘った。周りにいる人のいいところを真っ直ぐに吸収したり、ありのままの人柄でコミュニケーションを取れたりする素直さは、Maverick Momの魅力の1つ。そんな彼らだからこそ、難解なエッセンスを取り入れつつも、“目の前のあなた”に届くようなポップスに昇華することができるのだろう。


怒涛の熱量で駆け抜けてきたが、ここからはバンドの多様性を提示していくターンへ突入。ワルツのリズムが印象的な「旅立日記」を皮切りに、様々なアプローチでオーディエンスに語りかけていく。どこか厳かな雰囲気が漂う「My name」では、観客が一緒に歌詞を口ずさむ一幕も。しっかりと気持ちの乗った〈ずっと変わり続けていよう/今日までの僕らを称え合いながら/これからの話をしよう〉というフレーズが、誠実な重みを持って降り積もった。切ないラブソングの「傍惚れ」では、歌モノのロックバンドたる存在感を発揮。1つのカラーに依存することなく、多種多様な音楽性を渡り歩くことができるのは、楽曲の世界観を汲んで質感を編みあげる南出のボーカリスト力の高さはもちろん、バックバンドにもメインプレイヤーにもなれる3人のしなやかさがあってこそ。歌を立たせる場面ではサッと引き、ジャムやソロプレイなど惹きつける場面ではパッと出ていく。絶妙なバランス感に対する嗅覚が、Maverick Momには備わっているのである。






















