IS:SUE「come again」カバーやXG「IYKYK」サンプリングでも大反響 m-flo、リバイバルヒットが示す先進性

m-flo、リバイバルヒットが示す先進性

 疾走するUKガラージのビートを乗りこなしながら、どこか柔らかで浮遊感のあるボーカルが〈踊り続けさせて、ねえ、DJ won't you come again / フロアーをもっと熱く、響かせて〉とポップなメロディを歌い上げる。心地よいグルーヴに身を委ね、軽やかに踊っていると、突然のブレイクビーツとともに大胆なラップパートが放たれ、パーティーをさらに盛り上げていく。

 2001年に発売されたm-flo「come again」は、リリース当時の時点でオリコンシングルチャート週間4位、約40万枚のセールスを記録した、m-floの代表的なヒット曲だ。これまでにも、つじあやのや安斉かれん、MANONといったさまざまなアーティストがカバーを発表したり、長年に渡ってナイトクラブで「国産クラブミュージックの名曲」としてパーティーを盛り上げてきたりと、常に確かな存在感を発揮してきた同楽曲だが、あれから20年以上が経過した今こそ、楽曲、あるいはm-flo自体が正当な評価を獲得しつつあるように感じられる。TikTokで「#comeagainチャレンジ」と呼ばれる、同楽曲のダンス動画が流行し、さまざまな若いユーザーが「come again」に合わせて踊っているのだ。

m-flo / come again

 この流れの起点となったのは、昨年末に開催された『COUNTDOWN JAPAN』におけるIS:SUEのステージである。IS:SUEといえば、JO1やINI、ME:Iを輩出してきた「PRODUCE 101 JAPAN」シリーズをきっかけに生まれた4人組のガールズ・グループだが、彼女たちが『CDJ』のステージで披露した「come again」のカバーが、現地はもちろん、YouTubeにアップされたパフォーマンス動画が164万回再生、その後、公開されたDance Practice動画が214万再生を超えるという、大きな反響をもたらしたのである(5月18日時点)。前述の「#comeagain」チャレンジも、こうした流れから生まれた。現在、「come again」のTikTokにおける再生数は1.5億回、投稿数は5万に及ぶというが、そのうちIS:SUEの投稿後の再生回数が1.1億回、投稿数が4.1万といかに彼女たちの投稿が影響したのかがよくわかる。

IS:SUE (イッシュ) 'come again' (Original by m-flo) Live Performance [2024.12.31 COUNTDOWN JAPAN 24/25]
IS:SUE (イッシュ) 'come again' (Original by m-flo) Dance Practice [COUNTDOWN JAPAN 24/25]

 もちろん、ただカバーしただけでは、きっとここまでの反響が生まれることはなかっただろう。今回のムーブメントの鍵となるのは、IS:SUEが「come again」という20年以上前の名曲を、原曲の魅力はしっかりと活かしつつ、見事に現代のガールズグループの楽曲として再解釈してみせたということにあるのではないだろうか。

 原曲の持つ独特な浮遊感をキープしながらも、近年のダンス/ボーカルグループの潮流に呼応するようボトムをしっかりと効かせたボーカルや、独特なラップパートを大胆でしなやかなフロウによって見事に自身の表現にしてみせるスキル、原曲らしい軽やかなニュアンスと(今っぽい)しなやかなグルーヴを両立したダンスパフォーマンスなど、さまざまな角度からアップデートすることによって、「come again」を「懐かしの名曲」ではなく、「現代における2000年代の再解釈」としてIS:SUEの表現に落とし込んでいる。

 今回のカバーについては、m-floの☆Taku Takahashi自身も以下のようにコメントを寄せている。

「新鮮な驚きがありました。ボーカルの質感やハーモニー、ラップの表現もすごく丁寧で、当時の空気感を残しつつ、彼女たちの世代の感性でアップデートしてくれている印象です。ダンスもすごく洗練されていて、楽曲の浮遊感やスピード感を体現してくれているのが素晴らしかったです。IS:SUEというグループ全体としても、コンセプトや表現に一貫性があって、「今」を代表する新しい才能だなと感じました」

 重要なのは、IS:SUEが寸分の狂いもないキレッキレのパフォーマンスで観客をただ圧倒させるのではなく、(軸はしっかりと捉えつつ)「パーティーを楽しもう」という親しみやすく、カジュアルなムードに満ちているということだろう。それは、『CDJ』というフェスティバルの場にもマッチしているし、多くのダンス/ボーカルグループが観客を圧倒させることで支持を拡大させている近年のシーンでは、とても新鮮に感じられる。

 また、原曲のアレンジに際して、UKガラージのビートをしっかりと受け継いでいるというのも大きなポイントだ。音楽シーンにおけるY2Kムーブメントの象徴的な存在である、UK出身のPinkPantheressは、2021年にリリースした大ヒット曲「Pain」で、まさに2000年代初期のUKガラージの名曲として知られるSweet Female Attitude「Flowers (Sunship Edit)」を大胆にサンプリングしたことによって、リバイバルのムーブメントのきっかけを作り上げた。それは、NewJeans「Super Shy」や、昨年の『SUMMER SONIC』を大いに盛り上げたNia Archivesに象徴されるように世界的な動きとなっていったが、今回のIS:SUEの「come again」カバーは、まさにその流れに位置付けられるものでもあるだろう。

Pink Pantheress - Pain (Official Visualiser)
Sweet Female Attitude - Flowers (Official Video)

 ☆Taku Takahashiは、楽曲を制作した当時について、「当時は、インターネットが普及しはじめて、デジタルとリアルの境界が曖昧になっていくような時代でした。音楽的には、当時のR&BやUKガラージ、エレクトロなど、ジャンルを横断したアプローチを心がけていて、いわゆるJ-POPの枠に収まらないサウンドを意識していました。クラブとリスニングの中間くらいを狙っていた感じですね」と語っている。一方で、2017年12月に上智大学で講演を実施した際には、「実際には2ステップ(UKガラージのサブジャンル)になりきれなかった。/『come again』は大間違い、間違いのカタマリなんです。でも、それがよかったんでしょうね」と、当時の試行錯誤ぶりを明らかにしていた。

 それを踏まえると、UKのPinkPantheressが「Flowers (Sunship Edit)」をサンプリングしたように、日本のIS:SUEが「come again」を参照し、それぞれが原曲がリリースされた頃には生まれてすらいないであろう若者たちをUKガラージのビートで熱狂させているという事実に、ただただ圧倒される。もしかしたら、今、このムーブメントに熱中しているファンの多くは、こうした流れそのものを知らないかもしれないが、だからこそ今回の現象は興味深いのだ。

 さらに、実はこうした例は「come again」に留まらない。今年の『コーチェラ・フェスティバル』(Coachella Valley Music & Arts Festival)でも大きな話題を集めていたXGが、2024年リリースの「IYKYK」で、m-floの「prism」(2001年リリース)をサンプリングしているのである。それも、「come again」と同様に、UKガラージのスタイルはキープした上で参照しており、こちらも前述の文脈をしっかりと引き継いでいることが見て取れる。「IYKYK」は『コーチェラ』のステージでも披露されており、(間接的にとはいえ)m-floのサウンドが20年以上もの時を経て、堂々と世界に放たれたのだ。

XG - IYKYK (Official Music Video)

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる