「ヒップホップは決してポップスじゃない」 kZmが語るアルバム三部作、創作の源泉、シーンへの想い

「ネガティブな感情抜きにリリックなんて書けない」

ーーkZmさんの表現においてある種のフラストレーションが制作の礎になっている節はありますか?
kZm:というか、ネガティブな感情抜きにリリックなんて書けないっす。基本的には明るい性格だと思っていますけど、自分自身を追い込む癖があって。「これをこうしたら、よくないことが起こる。でも、それも創作のため」って思うと、そうしちゃうんですよね。
ーー過去3枚のアルバムそれぞれで、軸となったネガティブな出来事を聞くことはできますか?
kZm:まず『DIMENSION』だと、kiLLaを抜けたこと。自分が立ち上げたはずのクルーを辞めるって、意味わからないじゃないすか。しかも、こっちは初めてのソロ活動で不安を抱えてるのに、アイツらは海外でライブもして、絶頂期と言わんばかりで。あの頃は「全員まくってやる」と、物凄く意気込んでいましたね。ちなみに、いまはそんなことはまったく思ってないんで。「思ってないよ♡」って、ハート付きで書いておいてください(笑)。
ーーしっかりと“♡”付きにしておきます(笑)。
kZm:『DISTORTION』は逆に、制作がすごく順調だった。1年間くらいで完成したのかな。細かいエピソードはある気がするけど、ネガティブなのはそんなに。『DIMENSION』発表以降、アーティストとしていきなり売れて、ライブも忙しくて、あの作品とも1年間くらい向き合う時間がなかったことくらい?
ーー『DESTRUCTION』についてもお願いします。
kZm:『Pure 1000%』を作っていた、2022年の夏くらい。「このまま結婚するんだろうな」って思えていたほど、長く付き合っていた彼女と別れて。ふたりで飼っていた犬も死んじゃって。3人家族みたいなノリで過ごしていたのに、一気にひとりになっちゃって。色々と考えることがありました。あの時期は制作、De-void*(kZm主催のコレクティブ)での自主イベント『Jungle Clash*』と、我ながらよく働いていたとは感じるんすけど、そのぶん私生活ではすごく迷惑をかけちゃって。夏が終わって振り返ったら、誰もいなかった。
ーーその経験が、作品の軸になったと。
kZm:そうっすね。さっきの宇多田ヒカルさんの話じゃないけど、自分がやりたいことと求められるもののバランスを上手く取らないと、こういう結果になるんだって思い知りました。そういうストラグルや、当時の彼女に対する申し訳なさを引きずっていて、「晴れてるのに、雨みたいだわ」って気持ちから生まれたのが「DOSHABURI (feat. JUMADIBA)」。そこからアルバムが作られていった感じです。
救われた楽曲、シーンへの意識、自信を支える大切な思い出とは

ーーここからは、本連載の共通質問となります。今後、kZmさん以外のラッパーにも、同様の質問をしていく予定です。まず自身の楽曲における“G.O.A.T”は?
kZm:好きな曲って解釈だと「Jordan 11 (feat. Gliiico)」。理由は……カッケえから。
ーーこれまでの人生で救われた楽曲は?
kZm:S.L.A.C.K.(現:5lack)の「NEXT」。俺もまだ高校生くらいだったのかな。でも、当時はまだあんまりラップを聴いていなかったので、後追いだった気がするっす。日本にもこんなにカッコいいラッパーがいるんだって、救われた気持ちになれました。
ーー具体的に、どのあたりが好きですか?
kZm:〈考え込むな 考え込むな〉っていうフックのライン。そうやってポジティブに歌っていながらも「いや、それはもう考え込んだ奴からしか出ない言葉だろ(笑)」って笑ったのを覚えてる。発声の仕方も含めて、聴き手に「じゃあ、この人はなにを考えてきたんだろう?」って、背景にある物語を考えさせるのもすごいし、俺自身もそんな曲を作りたいっすね。
ーーこれまでの人生を振り返って、いまだからこそ語れるエピソードは?
kZm:これは迷うけど……「Forever Young」のリリックの話とか? まだ実家に住んでいた19歳とか20歳の頃、お金はもちろんなくて。でも、働きたくもなくて。そんなある日、友だちといつも通りに集まっていたら、溜まり場にできるようなスペースを見つけたんです。「アッツ!」って思って……俺らで住むことにしたんです(笑)。
ーーなんと(笑)。
kZm:UKで言うところの“スクワット”的なノリ? 必要な家具を揃えて、友だちみんなでずっと一緒にいて。もちろん、いまの方がお金も環境面でも恵まれてますけど、あの時間はなににも代え難いくらいに楽しかった。いまの俺を支えてくれる思い出です。
ーーヒップホップは、今後もカウンターカルチャーであり続けるべきだと思いますか?
kZm:いや、そもそもカウンターカルチャーであり続けること自体が不可能。カウンターの概念って、ずっと変わらないものに対して生まれるので、“カウンターであり続ける”のは矛盾してる気がする。
ーーそれでは「STAR」で〈もともとは この音はカウンター〉とラップした意図を教えてほしいです。
kZm:俺があの曲で伝えたかったのは、ヒップホップは決してポップスじゃないってこと。いまの日本だと、そうなりかけてるじゃないですか。
ーー同感です。
kZm:言わずもがな、そのおかげで俺らもこんなにいい生活ができているし、大前提として普通に感謝してる。ただ、影響力のあるラッパーが特に気をつけるべきは、広め方や扱い方。誰かひとりでもミスったら、世間から即座にダサいものとして扱われるに違いなくて。
ーーおそらくそうなりますね。
kZm:俺らがヒップホップに触れた中高生の頃は、いまと違ってクラスで聴いていたのもほんの数人くらい。「俺、こんなやべー音楽を聴いてんだけど?」って、みんなが知らないカッコよさに惚れていたはず。もし俺がいまの中高生だったら、ラップをする選択はまず選ばないです。
ーーそんな現状で、kZmさんは今後、シーンのどんなポジションに立っていきたいと考えますか?
kZm:入り口であり、出口でもある存在。俺自身、曲ごとに“深さ”を変えているつもりだから、kZmの音楽を聴いて、そのままkZmで終わるもよし。とはいえ、ひとつのジャンルにしか触れないのはマジでもったいないし、いまはAIやプレイリストのせいで自分の趣味がどんどん狭い方向に行きがちで、新しいものに流れていきづらいんすよね。いまの若い子たちには、色々な音楽を聴く方が楽しいよって伝えておきたいです。
ーー年齢を重ねて若さを失うことに、アーティストとして苦悩を感じますか?
kZm:謎の自信だけど、当面は大丈夫そうかな。
ーーkZmさんは過去一度も東京を離れたことがないですが、たとえば移住を考えたりは?
kZm:たまに考えますよ。それこそ最近も「もし子どもが生まれたとしたら、東京から外れるのもいいのかな?」なんて思っていました。
ーー自身が育ったのと同じく、子どもにもクラブカルチャーにアクセスしやすい環境を与えたいとは考えない?
kZm:本人の好きに選ばせてあげたいですけど、俺が東京以外の場所に出てみたいっていう気持ちが強いかも。そうなったら、作る音楽もまた変わってくるはずだし。あと、老後を迎えたら、家で野菜とか育ててみたいっす。

※1:https://fnmnl.tv/2020/06/11/98785






















