青山テルマの“唯一無二性”を考える UVERworld&ちゃんみな、INI 西洸人ら参加の『EASY MODE』レビュー

青山テルマはなぜ唯一無二なのか
青山テルマ - 乙feat.NENE

 Automaticのトラックに乗ってNENEと〈嘘広める奴乙/言い訳してくる奴乙/マウント取ってくるやつ乙/SNSでいきがちも乙〉と挑戦的なリリックを繰り出す「乙」から始まり、〈あのbitchにもうbyebye〉と吐き捨てる「Wi-fi」、さらに過去の恋人に対して〈あたしの事振ったの誰だよ〉とディスる「kawaii kawaii」など、むしろ静かな怒りの感情の方が目立つ。ダークなヒップホップとなった「はい?」や、〈答えはないのに悩んでる〉と憂鬱さを示す「Moon」といった曲でも、終始メランコリックな感情が綴られている。

 幸せな自身を歌いつつも、苦悩や人生の浮き沈みも対比的に描くことでアーティストのリアリティが立ち上がっていくーーそれはまさに、テイラー・スウィフトやオリヴィア・ロドリゴといった2020年代のポップスターの表現に見られる傾向そのものである。彼女たちのように、単に楽しいだけではなく、複雑な感情やそれを乗り越える力を巧みなストーリーテリングによって伝えていく技術をテルマは惜しみなく披露しているのだ。

 中でも、「Wi-fi(-interlude-)」と「kawaii kawaii」は、テルマらしいキュートネスによって心情を描いた佳曲だろう。「Wi-fi」は、Wi-fiが繋がらない=連絡ができないという恋心を歌うが、反復する「-ai」の韻が切なさを伝える。どこか便りなさげな寂しさが繰り返され、ギュッと胸をしめつけるのだ。重盛さと美との共演が果たされた「kawaii kawaii」も、愛らしいトラックに「いなーいいなーいばーか」といった言葉遊びが相まってガーリーな魅力に満ちている。中でも、重盛さと美の「一生たの死んでろボケ」というワードセンスとチャーミングな声は、この曲の鋭さとキュートネスを象徴するすばらしいパートだろう。

青山テルマ -EASY MODE

 本記事の冒頭で、テルマは明るさ/朗らかさと内省/哀しみを対比的に描写してきたと述べたが、最新作『EASY MODE』ではその両軸が実にテルマらしいアプローチで両立している。「EASY MODE」と言いながら、全然イージーモードではなかったこれまでのテルマの恋物語。そういった様々な経験を、重くなりすぎず、悲しくなりすぎず、でも楽しいだけではない、複雑な感情で描いたのが本作である。その絶妙なバランスこそが、誰にも真似できないテルマの魅力なのだ。〈どんcry cryもう待たせないでね〉〈私がいればね ね?〉という、彼女の言語感覚がLINEからポロリと転がり落ちてそのまま歌詞になったような、テルマのセンスを身近に捉えられる作品が詰まった10曲。優しくて哀しくて幸せなアルバムを、ぜひ色んな角度から感じてほしいと思う。

■リリース情報
青山テルマ『EASY MODE』
配信URL:https://thelmaaoyama.lnk.to/EASY_MODE_Album

<収録曲>
①EASY MODE
②乙 (feat. NENE)
③Where u r
④Wi-fi(-interlude-)
⑤kawaii kawaii (feat. 重盛さと美)
⑥はい?feat. NISHI HIROTO (INI)
⑦HER
⑧Moon (feat. Tiji Jojo)
⑨ONIGIRI (feat. UVERworld & CHANMINA)
⑩Where u r (Acoustic Version)

■関連リンク
・Official HP:https://thelma.jp
・Instagram:https://www.instagram.com/thelmaaoyama/
・TikTok:https://www.tiktok.com/@thelma_aoyama
・YouTube:https://www.youtube.com/@officialyoutubechannel867/videos
・スタッフX:https://x.com/thelma_staff

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