青山テルマにある“際どさ”の正体 楽曲プレイリストと共に紐解く
青山テルマは、際どい線を狙う。
青山テルマは、境界線上を漂う。
青山テルマは、繊細な感性でギリギリのところを彷徨い、私たちを試してくる。
それはユーモラスとシリアスなさまを行き来するキャラクター性を指してもいるし、高いクオリティで歌とラップを使い分けるパフォーマンスを形容してもいるのだが、本稿での私の主張はもう一歩踏み込んで次のように要約できるだろう。
まず一つに、メリハリよく分かりやすい歌唱法が求められがちなJ-POPのメジャーシーンにおいて、彼女のテクスチャを重視した細やかな歌が掴めそうで掴めないような輪郭を描きながら漂ってきたこと。二つ目に、彼女が抜群の編集センスで次々と“カッコいい/ダサい”の絶妙な価値転換を起こしてきたこと。青山テルマの“際どさ”とは、大きくその二点にまとめられる。
“声のテクスチャ”は作品ごとに引き出しを増していく
一点目であるテクスチャ=質感の魅力については、2008年の通算2作目のシングル「そばにいるね feat.SoulJa」においてすでに光っていた。ミキシング・マスタリング含め佐藤博が全面的にサウンドプロデュースに入ったこの大ヒット曲は、鳴り続けるベース音とSoulJaの声がなめらかなタッチで低音域に集められ、その上を“息づかいがそのまま歌になったかのような”青山テルマの声が滑ることで、スムースな並行運動を生んでいた。青山テルマの声の表情を活かす低音の配置と処理、それらの艶めかしい運動と質感の追求は(終盤の複雑で混沌としたリズム隊含め)J-POPの基準から逸脱するような心地を育んでおり、以降の彼女のディスコグラフィにおいても様々な形で応用されることとなる。
初期の楽曲では、「my sweetest sin」(2011年)も興味深い。当時K-POPを代表するプロデューサーとして手腕を発揮していたBrave Brothersがプロデュースを務めたこの曲は、ベース音によってぐいぐい引っ張られるビートに乗るボーカルが、しっとりとした湿り気のある風合いから情熱的な歌い回しまで豊かなテクスチャをみせる。青い炎のような、高い温度ながら適度な静けさを備えた表現。徐々に「そばにいるね」のヒットによる社会現象が落ち着き、そこから解放されるかのように、新たな歌の一面を引き出そうと制作陣も青山テルマ自身もピュアな形でクリエイティビティを発揮し始めていた時期である。“いかにテルマの声のニュアンスを引き立てるか”というテーマに対してまず選択されたことの一つは「BPMを落としトラックの音数と密度を削っていくことで生まれた空間に、テルマの声を浮遊させ漂わせる」という方法だ。その方向性は、2016年の清水翔太「MONEY feat.青山テルマ,SALU」で理想的な成功例を生む。ここではラップと歌の境界線を漂うアンニュイな歌唱が漂流し、ビートとボーカルが一体化するようなマジックが展開された。「PINK TEARS」(2016年)や「only care about you」(2017年)、「talk s2 me」(2018年)といった曲でも同様の試行錯誤がなされている。
近年の象徴的な曲としてはMIYACHI&青山テルマ「CRAZY OUTSIDE」を挙げたい。しっとりとリスナーの聴覚を撫でながらじめっとした後味を残すようなクセのある演出はさすがである。10月27日発売のニューアルバム『Scorpion Moon』からは「Yours Forever feat.Aisho Nakajima」、「キミノトナリ」「BOi ByE」といったナンバーからテクスチャの妙が楽しめるだろう。それらは、ニュートラルな歌声として処理される「stay with me」のような質感の曲と並び配されることでその危うさと際どさがより際立つ。「キミノトナリ」での、ミニマルなビートに抑えたトーンで息づかいを乗せる魅惑的な技。「BOi ByE」での、熱かった体温が冷めてしまったような、あたたかさの変化感が匂い立つ表現。そして、話題になった「Yours Forever」での、テルマとAisho Nakajimaの二人のニュアンス同士を絡ませ液状化させるかの如くアンビエントな声の融解。これらはデビュー当初の作品からは見られなかったパフォーマンスであり、青山テルマの声のテクスチャを引き出す試みがその後10年間展開されたこと、さらに“際どさ”の演出がビートの試行錯誤とともに繰り返されたことを示している。