climbgrow、楽しさと生々しさが詰まった原点回帰作 充実の季節を迎えた“新たな第1章”への手応え

climbgrow、“新たな第1章”へ

「アメージング・グレイス」で聴かせる“杉野泰誠の新しさ”

――中盤の「ばかたれ」はアルバムの中でも特に新鮮な感じがしたんですけど、この曲は?

近藤:「ばかたれ」は結構終盤にできたんです。最初に泰誠の弾き語りの「STEADY」ができて、その次あたりに「心臓」とか「音の音」ができていったんですけど、なんか毒っ気が足りひんなと思って。イントロ、気持ち悪いじゃないですか。Aメロとかもずっと裏のコードばかり使っているので、そういうキモさみたいなものを出したいなと思って作った曲です。この「ばかたれ」とか「ワンダーランド」とかの歌詞の乗り方がめっちゃ好きですね。なんやろ、この感じ。

杉野:さっき、俺がなかなか曲できなくて遅かったと言ったじゃないですか。だから歌詞に集中しようって(笑)。言葉選びとか、メロディとの気持ちいい繋がり方はめちゃくちゃ意識しましたね。いつも歌詞のストックがある状態で作るんですけど、今回はそれがなくて。初めて、この曲のことだけを考えるみたいな感じだったんです。

――言いたいことが先にあるわけではなく。

杉野:はい。どこに落ち着いたら一番よく見せられるんやろって悩みましたね。

――今回の歌詞は本当に今おっしゃったようなことを体現するものが多い感じがするんですよ。まさにリアルタイムで感じたことや思ってることをそのまま書いていったんじゃないかなって。だから、わりとどの曲も近いことを歌っているような気がするんです。

杉野:そうですね。でき上がって思ったんですけど、“歌のこと”を歌っているものが多いなって。

――しかも、その歌に対する向き合い方も以前とは変わってきたところがあるんじゃないかなと思ったんです。

杉野:ほんまにアンミカじゃないですけど、「歌って200種類あんねん」ぐらいの(笑)。

谷川:それはもう、ボーカルバージョンのアンミカや。

――しかも歌に対する気持ちが、すごくポジティブになってますよね。

杉野:ストレスなく歌わせてもらってるんやなっていう。「感謝です」っていう感じ。

――その素直さが音にも歌詞にも出ている感じがして、今のありのままのclimbgrowがちゃんとアルバムになった感じがしますよね。だから皆さんも手応えを感じているんだろうし、序章を終えての第一章っていうのはそういう意味なんだろうなって。そして、8曲目の「アメージング・グレイス」からアルバムの雰囲気がガラッと変わっていくんですよ。

杉野:はい。こういう曲調が僕は好きで。コードと歌だけの状態で和嗣にぶん投げたんですけど、投げ返されてきたのが、めちゃくちゃディレイがかかったやつで、「和嗣、新しいとこ行ってしまってるやん!」って思いました。想像よりさらにいい、僕の好みの音楽になって返ってきたんですよね。

近藤:泰誠の弾き語り発信の曲を編曲するのが楽しくて。歌詞を聴いてから作ることになるんで、イメージもリンクさせやすいというか。讃美歌の「Amazing Grace」のオマージュが最後に入っていたりとか、そういう遊びも入れたりしてます。

――弾き語りを投げる段階で「なんとなくこんな感じ」みたいなリクエストがあるんですか?

杉野:いや、もう無言で(笑)。ボイスメモだけでポンって送るんで。そしたらええ感じで返ってきたんで、「これ歌わせてくれるの?」って。この歌、好きですね。僕、声が歪んでるんで、「もっと抑えろ」とか周りに言われることもあるんですけど、初めて自主的に抑えたというか。これが大人になったってことなのかなって(笑)。いい意味か悪い意味かわからないけど、「これで行くわ」って言ったときに和嗣が大きく頷いてたんで、安心しました。

――杉野さんのボーカルは歪んでる、がなってるというイメージが強いじゃないですか。それはもちろん武器なんだけど、確かにこの曲はわりとクリーンな感じですよね。

杉野:たぶん聴き手からしたら歪んでると思うんですけど、俺的には抑えてみました。

谷川:ほんまに、「アメージング・グレイス」はツンデレの“デレ”の部分っていうか。歌詞がいいし、ループ感もあるんだけど展開もちゃんとあるし、めっちゃ好きです。デモの状態から一番聴いてたかもしれないですね。

杉野:あと、〈海の様だと僕が笑う/僕等二人は他人に戻る〉の後のギターが“海”すぎてエグい。海の泡っぽすぎる。

近藤:展開的には、そこがサビのつもりで作ってるから。音が一番デカいポイントを最後に持ってこようと思って。

杉野:これは天才やと思いました。

歌うことの面白さが素直に出た歌詞

――アルバムタイトルの『EL-MAR』はスペイン語で“海”という意味ですけど、それは今の話から来てるんですか?

杉野:いや、アルバム全体を聴いたときに「海っぽいな」っていう。「EL」をこれまでのタイトルでも使ってきたんですけど、和嗣が「久々に今回『EL』を使おうや」みたいなことを言ってきたんで、「俺のイメージは海かな」と言って調べたら『EL-MAR』だったから、それで決まりました。

谷川:でも「アメージング・グレイス」に引っ張られたところは絶対あると思う。

――そんな「アメージング・グレイス」と「舞い上がる俺達は花になる」、そして「STEADY」の3曲が、“アルバムの中でバンドの幅を見せる”という意味ですごく重要だなと思うんです。「舞い上がる俺達は花になる」「STEADY」の2曲はどんなふうにできたんですか?

近藤:「舞い上がる俺達は花になる」はめっちゃ終盤にできたんです。ほんまにレコーディング中にできたぐらいの感じ。泰誠が「パワーリードが足りない気がする」と言ってて、“パワーリード”っていうのはいまいちわからなかったんですけど(笑)、たぶんキャッチーさのニュアンスなんやろうなと思ったので、そこを意識して作りました。

――「STEADY」は?

近藤:これもワンコーラス弾き語りぐらいの状態から、相談しながら編曲はしていったんですけど、最初はA・B・サビ、A・B・サビ……という構成でやってみたら、結構だれる感じになっちゃって。そこから速くなる展開で、最後は別の曲みたいな大サビが入るっていうのをプラスして。それでもレコーディング中に「なんか物足りない」ということで泰誠がコーラスを入れ出して、その場にいた人たちでコーラスを足したっていう。

――あのコーラスが印象的ですよね。

近藤:でも泰誠以外のメンバーは歌が下手なんですよ。一切歌えなくて「これじゃあかん」と思って、偶然近くにいたWOMCADOLEの樋口(侑希)さんに電話して、無理矢理「歌え」って。そしたら「むっちゃいいやん」って言いながら協力してくれて、いつの間にか帰ってました(笑)。

――(笑)。ラブソングなのかなと思ったら、途中でいきなり歌の話になるじゃないですか。杉野さんとしてはどんな思いを込めたんですか?

杉野:“歌う”ことには、僕の中では“信じる”とか“祈り”みたいな意味もあるので。「歌い続けることに意味があるんだ」みたいなことも、歌でなら言えるようになるというか。

――歌うことに対してよりピュアになっている感じがするんですよね。まさに“信じる”感じが出ている。

杉野:『LOVE CROWN』あたりから歌うのがおもろくて仕方ないというか、楽しいんですよね。だから、それが素直に歌詞にも出てる。今後どうなるかわからないですけど、少なくとも今はめちゃくちゃ楽しいですね。

――すごく充実した状態でバンドをやれてるんだろうなっていうのが今作からは伝わってきます。

谷川:僕も楽しいライブができてるし、曲もいいし、そこにまったく不満はない。今、ほしいものはすべてあるんですけど、それを長く続けるためには売れないといけないかな、みたいな想いはあります。死ぬまでバンドをやりたいんで。もちろん、トライアンドエラーで反省はしますけど、それを繰り返していくだけなのかなみたいな感じはありますね。泰誠の歌詞を見ても、みんな同じ気持ちなのかなって思います。

『EL-MAR』
『EL-MAR』

◾️リリース情報
new album『EL-MAR』
2025年3月12日(水)リリース
CSR-004/¥2,750(税込)
<収録曲>
01.音の音
02.ワンダーランド
03.アダルト
04.No money(CD only)
05.キ43
06.ばかたれ
07.モラトリアム
08.アメージング・グレイス
09.心臓
10.舞い上がる俺達は花になる
11.STEADY
12.OBAKATACHI NO RARABAI

◾️ツアー情報
『climbgrow EL-MAR TOUR 2025』
4月29日(火・祝)滋賀B-FLAT
5月2日(金)千葉LOOK
5月5日(月・祝) 渋谷Spotify O-Crest
5月9日(金)岡山CRAZY MAMA 2ndRoom
5月10日(土)広島4.14
5月13日(火)京都MUSE
5月17日(土)大分club SPOT
5月18日(日)長崎studio Do !
5月20日(火)福岡Queblick
5月27日(火)静岡UMBER
5月28日(水)名古屋CLUB UPSET
6月5日(木)水戸LIGHT HOUSE
6月6日(金)仙台enn2nd
6月8日(日)北海道 KLUB COUNTER ACTION
6月11日(水)横浜F.A.D YOKOHAMA
6月15日(日)心斎橋BRONZE
6月19日(木)鹿児島SR HALL
6月21日(土)熊本Django
6月22日(日)小倉FUSE
7月16日(水)神戸VARIT.
7月18日(金)高松DIME
7月20日(日)長野LIVE HOUSE J
7月21日(月・祝)金沢vanvanV4
7月29日(火) 渋谷CLUB QUATTRO
8月30日(土)沖縄 桜坂セントラル

climbgrow オフィシャルサイト

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