Nornis、オーケストラと共に奏でた唯一無二のハーモニー　“テクノロジー”と“伝統”の美しき邂逅

　ここでカバー曲のパートに突入。まずは戌亥がソロで「忘れじの言の葉」（未来古代楽団）を歌唱。神秘的なサウンドと重厚なコーラスを従えて、生命力にあふれた力強い声で歌う姿は、まるで精霊のような迫力。確かな歌唱力と繊細な表現力で観客を圧倒した。

　入れ替わりで登場した町田がソロで披露したのは、「一番の宝物（Yui Ver.）」（Girls Dead Monster）。高い音域でのロングトーンはまさに圧巻。小さな身体から発せられているとは思えないほどの声量を自在にコントロールしながら、情緒豊かな歌声を広いホールに響かせた。

　個人の歌唱力の高さを改めて感じたところで、再び二名のステージに戻り、前半のラストを飾る「歌よ」（Belle）を披露。映画『竜とそばかすの姫』の劇中歌でもある本楽曲では、壮大なスケールの演奏と共に、囁くような繊細な声からエネルギー迸るパワフルな声まで、多彩な歌声を聴かせる。まさに空気が変わり、息をのむような魂のパフォーマンスに、拍手の音はしばらく鳴りやまなかった。

　ここで前半のステージは終了となり、休憩へ。後半は、オーケストラとバンドによる「White Blossom」のインストゥルメンタルバージョンからスタート。極上の音の洪水に観客は飲み込まれ、心地よい空間へと誘われる。ここで、Nornisが椅子に座ったスタイルで登場。〈新たな世界へ 共に幸あれ〉と世界の幸せを願って優しく歌い上げた「innocent flowers」、3人体制のころから大切に歌ってきた「Goodbye Myself」を届ける。戌亥と町田の声が生み出す唯一無二のハーモニーは、全ての観客の心を優しく包み込んだ。

　後半にもなると観客の緊張もほぐれ、Talkパートではあちこちから声援が飛び交う。町田がガニ股歩きを披露したり、戌亥が観客の反応をイジったりと、配信者らしいユニークな一面も見せていく。この曲中とのギャップも、彼女たちが愛される理由の一つなのだろう。

　リラックスした会場に、今の時期にぴったりな「Fragment」を届け、春の訪れに感じる温かみと儚さを丁寧に歌い上げたあとは、戌亥が一度ステージを後にする。一人になった町田は、ソロ曲「ひとひらの未来」を歌唱。生命の息吹を感じさせる弾んだ歌いだしから始まり、曲が進むにつれてボルテージはぐんぐん上昇していく。サビでは透き通った見事なハイトーンを響かせ、会場を魅了。小さな16歳の少女がたった一人でオーケストラをバックに歌い上げ、約2300人を感動の渦に巻き込んだ瞬間であった。この後ステージに戻ってきた戌亥も、「すごい良い。好き」と町田の歌を絶賛していた。

　ラストの曲に入る前に、今の思いを観客に伝える戌亥と町田。町田は直前に披露したソロ曲について「町田の今までと未来に向けた希望を描いた楽曲なので、みんなへの感謝と、『これからも頑張っていくよ』という気持ちを込めて歌いました」と話す。そして、「もっと成長していきたいし、色んな景色をみんなと見たい。ライブをする度に新しいNornisを見つけてほしいし、もっともっと好きになってほしいです」とこの先への意気込みを露わにした。

　戌亥は、「オーケストラライブはにじさんじで初めてということで、どんな風になるのかなってずっと思っていて。（実際やってみると）歌い慣れていたはずの楽曲が新鮮に感じたし、みんなも普段と違う気持ちでライブを見れたんじゃないかなと思います」と感想を述べつつ、「これ以上は夜にとっておきたい！」と何とも正直なコメントを残した。

　そしてラストは、最新曲「優しい君へ」。全ての人に寄り添うあたたかさを持ったこの曲は、ライブから日常へと戻る観客の心を優しく照らしてくれる。曲の終盤で戌亥と町田が「一緒に歌って」と求めると、会場の全員が声を合わせてシンガロング。感動的なムードでいっぱいの中、約2時間の公演は幕を下ろした。

　歴史と伝統を誇るオーケストラと、最新のテクノロジーを活用したVTuberとのコラボレーションで、新たなライブを見せたNornis。この挑戦が、VTuberによるライブ表現の可能性をさらに広げるものになったことは、言うまでもないだろう。