YUKI、アルバム『SLITS』レビュー:ジャケットから収録内容まで正真正銘の“名盤”、心と体を軽やかにする12曲

昨年6月にリリースされたYUKIの12枚目となるオリジナルアルバム『SLITS』が、完全生産限定アナログ盤としてリリースされた。タイトルの「SLITS」を表す、大胆なスリットの入ったロングスカートにハイヒール姿のYUKIが象徴的なジャケットは、その美しさと気高さに一瞬にして目を奪われる。これまでにYUKIが残してきた数々の名ジャケットの仲間入りを果たす、アートと呼ぶに相応しい一品だ。アナログサイズでこのジャケットを手元に置きたい欲もさることながら、なにより正真正銘の“名盤”である本作。ビートやそれぞれの楽器の鳴りに身を委ねながら、音、言葉の一つひとつに耳を傾けたい、心と体を軽やかにする全12曲をレビューする。
1. Now Here(作詞:YUKI 作曲・編曲:U-Key zone)
〈今 此処 此処にいる私を抱きしめる/まぶた腫れて 映えていなくても 此処にいる〉YUKIの高らかな歌声から幕を開ける、ワークアウトにもピッタリな軽快なダンスナンバー。しかし、鍛えるのはその肉体だけではなく、今を生き抜くための強くしなやかな心。〈マイ・レコメンドエンジン〉や〈メインストリーム闊歩する/ワーキングウーマン〉など現代的なワードを散りばめながら、リスナー、さらにはYUKI自身をストレートに鼓舞するパワーソングだ。今に集中することで、自ずとやるべきことは見えてくるーーそんな頼もしいメッセージを受け取ることができる。
2. 雨宿り(作詞:YUKI 作曲・編曲:U-Key zone)
1曲目に続き、U-Key zoneが作編曲を手掛けたエレクトロチューン。この曲の舞台は“アーケードのある商店街での雨宿りデート”。日常にある風景をドラマチックに変えてしまう大切な人と過ごす時間。そんな夢見心地な感覚がオリエンタルなムードを醸すトラックやYUKIの色彩豊かなボーカルで表現されている。ただ幸せな二人を映し出すだけではなく、〈大切な人に 大切にされたいと思うから/言われて嬉しい言葉 相手に 自分からも言ってあげなくちゃ〉という真理を歌詞の中に紛れ込ませているのがYUKIらしい。
3. 流星slits(作詞:YUKI 作曲:Jon Hallgren, Sofia Vivere, Victor Sagfors 編曲:前田 佑)
アルバムタイトルの『SLITS』には、スカートのスリットのように風通しをよくする、自由になるということに加え、“ひっかき傷”というような意味も含まれている。癒えたように見えてもうっすらと跡が残っていたり、ふとした瞬間に痛みを思い出したり、心身ともに一度ついた傷をなかったことにするのは意外と難しいものだ。アルバムの中には、傷とともに生きていく女の子を題材にした楽曲がいくつか収められており、この曲もそういった位置付けにあると言えるだろう。ただし、楽曲の楽しみ方は自由。綺羅びやかなディスコサウンドに導かれるストーリーに思いを馳せるもよし、聴きながらひたすらに踊る(鍛える)もよし。中盤のYUKIのラップにも注目したい。
4. Hello, it's me(作詞:YUKI 作曲:小林樹音 (JitteryJackal), 栗原暁 (Jazzin’park)編曲:前田佑, 小林樹音 (JitteryJackal)、ブラス編曲:五十嵐 誠)
ファンケル「toiro」CMソングに起用された楽曲。同じように続いていく日々をいかに楽しく、心地よく過ごしていくか。ここで歌われている言葉には、そのためのヒントがたくさん詰まっている。ラブソングでも応援歌でもない、等身大の自分にフィットするポップスを探している大人にこそ聴いてほしい一曲。1日の始まりに鼻歌まじりで聴きたくなるような、ブラスの音色とYUKIのポジティブな歌声が冴えるゴキゲンなナンバーだ。アルバムツアーでは、コールアンドレスポンスでも大きな盛り上がりを見せた。
5. ユニヴァース(作詞:YUKI 作曲:Maria Broberg, Kyosuke Yamanaka, Carlos Okabe 編曲:皆川真人)
ピアノとフルートを加えたバンド演奏に乗せて、YUKIの歌声をたっぷり堪能できる一曲。アルバムの中で唯一コーラス隊を従えており、温かくもソウルフルな歌唱を響かせている。YUKIはよくコンサートのことを“自分へのご褒美”だと表現している。自らの歌を楽しみにしている人たちとまた元気に会えるように、そして多くの人たちの笑顔が見られるように。YUKIの歌に対する情熱、そしてYUKIが作り上げる〈ユニヴァース〉に共感するファンに向けた想いも感じ取ることができる楽曲だ。
6. 追いかけたいの(作詞:YUKI 作曲・編曲:増渕ヒダリ (higimidari))
煙のように漂って生きていたい男と、そんな男を追いかけたい女にまつわるストーリー。ドリームポップ的な浮遊感がすれ違う二人の不確かな関係性をサウンド面でも印象づける。驚くべきは、YUKIのティーンエイジャーのように可憐なボーカル。シーンに合わせて歌声を巧みに使い分けるシンガーとしての、さらにはトータルプロデューサーとしてのYUKIのセンスが感じられる。